前世は救国の騎士だが、今世は平民として生きる!はずが囲われてます!?

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無力

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白装束の男の独白で、自分が立っていた場所がグラグラと崩れていくような感覚に襲われる。

自分の命でこの国を救える。
そのことで、養い子を、友を、長年に渡り苦しめ、その事実を知った後も、それでも民の命には換えられないと前を向いていた。
だが、そうではなかった。
今、目の前にその現実を突きつけられた。

「どうした?お前がそんな顔をする必要はない。お前が神の御心を分からぬというから教えてやっただけのことだ。何も悲しむ必要はない。皆、近々神の御元へ逝くのだから」

ぐっと唇を噛む。
死を救済にするつもりなどなかった。
ただ、自分の命と民の命を天秤にかけただけだ。

悔しい。

今になって、自分の浅慮さに腹が立つ。
もっと、話し合えば良かった。
時間がなかったとしても、話し合うことはできた。
反対されても、説得して、いろんな気持ちや状況を踏まえた上で取った行動ならば、シュルツにもフォルクスにも違う影響があっただろう。
国が魔力の高い者に命と引換に高い報酬を与える計画があったことを、フォルクスならば知っていたはず。
その是非はともかく、その計画によって、この男の妹は救われるはずだった。

つまりは、自分の死が、この男の妹を殺した。

いや、もちろんちゃんと分かっている。
そうではないと。
分かっているのに……たまらなく胸が苦しい。

下を向きかけた時、まさかの声が響き渡る。
「ここなの!?」
「テオ!?」
白装束の男の背後の扉からテオが飛び入ってきた。
目の前にいる白装束の男と俺の周囲に転がっている男達を見て、サッと顔が青ざめる。
「大丈夫!?ごめん……僕の父上のせいで、こんな……」

テオ、俺を助けに来てくれたのか!
テオがいるなら、バーンも、クリフトもいるんだろうか?
目の前で拐われたから、心配かけたな。
きっと、シュルツにも報告してるだろうから、一緒だろう。
一安心だ。

でも、自分の父親が依頼者だと、知ってしまったのか……。
テオの成長を喜んでくれると思っていたのにな……。

「おや?ロレーヌ辺境伯の子息がお目覚めで?父親に身柄を引き渡したはずが、逃げ出してきたのか。全く、使えない父親だ。だから、気絶ではなく殺しましょうかと聞いたのに」
「えっ?」
お目覚め?どういうことだ?
訝しげな俺に対して、白装束の男は明るく笑う。
「あぁ!お前は気絶していたからな。この少年はお前を拐った時に共に転移してきたんだ。邪魔なので、神の御元へ送ろうと思ったが、ロレーヌ辺境伯の子息だと分かり、すぐに気絶させて父親に引き渡した」

テオ、俺のためにそんな危険なことを!
……では、まだ誰も助けに来ていないということか。
先程はなぜテオを脅しの材料に使おうとしたのか疑問に思ったが、そういうことか。
テオを守らないと……!

「テオ、来るな!ここでは魔法も使えない!一人で逃げろ!」
「ダメだよ!!一人にさせられないっ」
なんとか、説得して逃がさないと……俺一人だとこの男からテオを守りきれない。

「自ら人質になりにきたか。ちょうどいい。まずは腕か足でも切り落として大人しくさせよう」
「やめろ!テオに手を出すな!」

白装束の男の意識が俺からテオへと移る。
鉄格子の扉は閉ざされたままで、何度力をこめて揺すっても金属音が響くだけ。
こんなことなら、襲ってきた男達が入ってきた時に隙をついて鉄格子の外に出れば良かった。

「テオ、逃げろ!頼むから、逃げてくれ!」
「僕は逃げないっ」
「テオッ」

テオは白装束の男と対峙した時、本能的に危険を察知したのか、その場から二、三歩後ずさった。
しかし、耐え、くっと前を向いた。

ダメだ!
魔法が使えるならともかく、使えないこの場で白装束の男にテオは敵わない。
一度気絶させられているなら、テオにもこの白装束の男の実力は分かっているはず。
それでも、俺の、ために……。
俺を見捨てて逃げるくらいなら、自分の身の危険を承知で戦おうというのか。

俺のためにテオに傷ついて欲しくない!!
それくらいなら、いっそ俺がどうなろうと……。

「待て!」
テオにジリジリと近づいていた白装束の男が薄笑いを浮かべて俺を振り返る。
「従属する気になったか?まぁ、待て。男達に襲わせて見るはずだったお前の苦痛に歪んだ顔がもう少しで見られる。そうだな……もしもの時のため逃げる時の枷になるよう、足を切り落とそう」

なっ……。
俺もテオも衝撃で言葉が出ない。

「泣き叫ぶ声はうるさいからな。声を奪っておくか」
声を奪う?
まさか、魔法が使えるのか!?
そうか。
部屋全体ではなく、この鉄格子の中だけ、結界が張られているんだ!
「テオ!魔法が使える!すぐに転移で逃げろ!」
「遅い」
俺が叫んだと同時に白装束の男は間合いを詰め、テオの首に手をかける。
そのままテオを扉に押し付けると、ぐっと力を込めた。
テオがくぐもった声を漏らす。

「テオ!」
助けにいきたい。
何度も鉄格子を力一杯揺らす。
「慌てるな、足くらい一瞬だ」
テオの首に手をかけたまま、白装束の男が何か呟いている。
声を奪う魔法を詠唱しているのだろう。

このままだと、テオが……!
どうしたらいい!!
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