前世は救国の騎士だが、今世は平民として生きる！はずが囲われてます！？

招いた結末

「ルカ……」
思わず、俺は自分の名を呟いた。

「おぉ！さすがに田舎の平民といえど、我が神の名は知っていたか！そうだ……神は、ルカ様は、この国のためにその尊い命をもってしてすべての民を救ってくださったのだ！神が作られた聖域に我々は生きている。だが、その尊い神の命を奪ってまで生きるなどと、許されるのだろうか？……そんなこと……許されるはずなどない！この命を、神にお返しせねば。神の作られた防護壁が今まさに消え行こうとしている。我々は粛々とそれを受け入れ、神の身元へ参るのだ」

こいつは……何を言ってるんだ？
意味が分からない。
なぜ、助かった命を無駄にしようとする？
そんなことを、望む訳がない！

防護壁の効力が弱くなってきているのか……それは仕方がないことだが、また新たに力を注げば良いだけのこと。
力の強い魔法士であれば可能だ。
短時間に一人でやろうとしたから命を糧にしたが、その必要はない。
力の強い魔法士数人が数日をかければ、何の問題もないはず。

それよりも、この聖教の考え方だ。
この男の考えなのか、聖教自体がこのような考えなのかは分からないが、少なくともこの男は危険すぎる。
前の俺を神と崇めながら、全く意に反した道を進もうとしている。
しかも、死をいとわない。
俺の元へいける？

はっ、笑わせる。
俺はココにいる。

「何が、目的なんだ？」
「目的？おかしなことを言う。我らが神の意に従うことだ」
「ルカは……救国の騎士は、そんなこと望んでいない！」
「望んでいない？お前に、何が分かるっ！」
男から、凄まじい怒気が放たれる。
目を見開き、訥々と語りだす。

「私が住んでいた町は、隣国との小競り合いが多い場所だ。父も母も兄も、皆死んでいった。残されたのは、私と病弱な妹。二人で死にゆく運命と思っていたら、国から魔力量のある者を集めその命を糧に防護壁を、という通達があった。魔力量の人一倍多かった私にはそれができた。提示されたのは命と引き換えの対価。その金で、妹を守れる。そう思っていた。すると、突然防護壁が現れた。隣国の脅威はなくなり、皆、涙して喜んだ。神に守られた地は、死が、ない。だが、妹は死んだ。金が、なかった。尊い神の命の代わりに私だけが生き残った。死ぬべきなのは、私だ！早く、早くお返しせねば。皆が、待っている！！」

俺は、愕然とした。
ただ、守りたかっただけなのに……。俺は、あの自分の選択を間違いだと思ってはいない。
シュルツを悲しませ、フォルクスに罪悪感と共に悪夢を見続けさせていた、そのことを知っても、それでも。
多くの民の命にはかえられない。
それなのに……その民に否定されるのか。

最善では、なかったのか……？

目の前が黒く淀む。