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聖教~シュルツ視点~

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「失礼しますっ!」
クリフト?
入室の許可なく入ってくるなんて……何事?
「ルカとテオドールがっ……何者かに……」

「「!?」」
「クリフト、詳細を!」
鼓動が早まる。

「突然、目の前に全身を白い布で覆った者が転移してきて。ルカを気絶させ、 またどこかへ転移しようとした時にテオドールが助けようと共に……。顔は目以外は覆われていたので分かりませんが、少なくとも声は聞き覚えはありませんでした。それに、ルカのことを黒髪黒目と確認していました。直接的な私怨ではないと……」

その場にクリフトがいて、助かったわ。
突然の事にも関わらず、観察し自らの考察も加えながら的確に伝達できている。
それにしても……ルカが気絶させられるなんて……。
油断していたんでしょうけど、それでも相手は相当の手練れ。
そして……白装束……。

「聖教の者だな」

……やはり。
フォルクスも白装束から聖教の者だと考えが至ったようね。
聖教は最近、ますます力をつけてきている。
きな臭い話も耳にする。
でも、なぜ、ルカを……?

「クリフト、この事を知っているのは?」
「バーンもその場にいました」
「では、バーンも貴方も他言無用よ。聖教が関わっているとなると、展開が読めない。ただの犯罪に巻き込まれたとも思えない。背後に何か、あるわ。ルカとテオドールは私が必ず救出する。約束するわ」
「……分かりました。バーンにも伝えます。シュラ先生、情報は共有を。それに、救出にはバーンも同行させて下さい」
真意が読めず、クリフトと視線を合わせる。
「バーンを?自分を、じゃなくて?」
「魔法が使えない自分では、足手まといです。救出の確率が下がるようなことはしたくない。バーンは役に立ちます」
ふと目をやると、クリフトの握りしめた拳が震えている。
耐えて、いる。
自分も行きたいけれど、そう、叫びたいけれど、耐えている。
大切な者が目の前で拐われているのに……本当に、末恐ろしいほどの冷静な判断力。

「分かったわ。では、バーンも貴方もこの執務室で待機して」
「バーンを連れてきます!」
クリフトが小走りで執務室を去った。

思いも寄らぬクリフトの報告を受け、フォルクスに鋭い視線を送る。
「フォルクス、まさか、ルカのことを……」
「そんなはずないだろう。確信を得ていたとはいえ、お前を問い詰めたすぐ後にルカは拐われている。それに……ルカは静かな暮らしを望んでいるのだろう?私はそんなルカの望みを踏みにじったりなどしない」
私の疑いを一笑に付す。

「……そうね。なら、なぜ聖教の者がルカを……」
確かに、フォルクスが聖教の者にルカの素性を明かした所で何も利点はない。
聖教は近年、力をつけてきている。
中央から退いているため深く関わってはいないけれど、噂は耳にしていた。
手練れの私兵を寄付の名の元に貸し出し、貴族たちに恩を売り、また布教に一役買わせる。
そうして徐々に力をつけてきた聖教は、今となっては高位の貴族しか動かせないほどの権力を手にしている。
ルカをただの木こりの息子としてしか見ない者たちにとって、聖教の者が動くほどの価値はないはず。
ルカを、フォルクスのようにルカだと気づいた者がいた……?
それ以外に、聖教が絡むはずがない。
どこから漏れたの……?
でも、その場合はルカの身の安全は保証される。

その割に拐い方が荒々しいわ……。

思いを巡らせている間、フォルクスも無言でずっと思案顔をしていた。

「シュラ……いや、シュルツ、ルカは目立つ存在か?」
「いえ。バーン、テオドール、クリフトの三人が突出しているといった印象よ。寄宿生たちはルカが側にいることを疑問に思っているくらいだわ」

毒の一件も、ルカを平民だと侮った上でのこと。

「今のルカに、聖教を動かすような影響は……」
「いや」
「え」

フォルクスが思案顔を上げると確信に満ちた声音で告げた。
「今のルカに影響を受けた三人がいるだろう。特に、ロレーヌ辺境伯の子息はこの短時間でガラリと印象が変わった。我々と視察をしている時は人形のように感情の起伏など皆無だったが、ルカと共にあった時は年相応の少年へ変わっていた。そして、それを好ましく思わないだろう、あの父親は」
「!」
ロレーヌ辺境伯が聖教にルカを拐わせた!?
「姿も気配もない。小物だが、ロレーヌを統治しているだけあって行動力はあるようだ」

フォルクスの推察を確かめるようにロレーヌ辺境伯の魔力を探知しようとしたけれど、この寄宿学校にはいない。
アタシだけならまだしも、宰相であるフォルクスに挨拶もなく突然去るなど貴族としてあり得ない。

「どうやら、間違いないようね……テオドールが共に転移したのは悪手だと思っていたけれど、父親が裏で糸を引いていたのなら、むしろ好手ね。テオドールの身は安全だし、ルカの身も守れるかもしれない」
むしろ、クリフトの報告を聞いた時はルカよりもテオドールの命を心配していた。
関係のない少年など、聖教にとって何の価値もないから。
簡単に、命など摘まれる。

「失礼します!」
またもや、クリフトが慌てて部屋に駆け込んでくる。
「バーンが、情報を得るためにっ、オルレラに、転移、してしまいっ……」

転移が使えないクリフトは走って戻ってきたために息を切らしながら報告する。
「バーン……。オルレラ公ならば、何か情報があると思ったのね……。クリフト、情報を共有すると約束したから言うけれど、ほぼ間違いなくロレーヌ辺境伯、テオドールの父上の手の者だと思うわ。だから、きっとテオドールは無事だし、ルカもすぐに命を奪われたりはしないはず。これから、アタシは救出に向かうけれど、バーンが戻ってくるかもしれないわ。自室で待ちなさい。分かったわね?」

クリフトは、テオドールの父親が拐った元凶ということに一瞬顔を悲痛に歪めたけれど、すぐに唇を噛みしめ頷いた。

「ルカを、テオドールを、お願いします」
私もフォルクスも無言で頷く。
友人の父親が友人を拐うという状況にも取り乱したりせず、一礼し戻るクリフトの姿にフォルクスも目を細める。
クリフトが去った扉を見つめながら
「優秀だな……すぐにでも宰相を引退して、ルカと田舎暮らしが出来そうだ」と呟いた。

「ことの概要は掴めたけれど、聖教は拠点が多いわ。絞りきれない。それに乗り込んだとしても、簡単には吐かないでしょう?」
「いや、拐った時に黒髪黒目という漠然とした情報だった。それならば、ロレーヌ辺境伯にルカを見せ、確認をとるはずだ。つまり、この寄宿学校からさほど離れた場所ではないし、ロレーヌ辺境伯の魔力を辿ればいい。……お前ならば、難しいことではないだろう?」

フォルクスは不敵に笑った。
……言ってくれるわね。

「稀代の魔法士を敵に回したことを後悔させてあげましょう?」

ルカに指一本触れさせない。
絶対に。
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