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口付けの意味~シュルツ視点~
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はぁ……早く視察終わらないかしら。
最後に残ったのが一番憂鬱なルカ達の視察。
何もなければいいんだけど……。
講義棟の入り口を開けると、前方にルカ達が立っているのが見えた。
私の靴の音に気付き、四人が振り返る。
「さて、視察に来たわよ。今日は何をするの?」
基本的に何をするのかは任せていた。
ルカがいるし、他の三人も優秀だから。
「シュラ先生、三人と模擬戦闘をして頂けますか?」
「は?アタシ?」
何を突然……。
予想外の流れにさすがに驚く。
「そうです。三対一にはなりますが、何でもアリの実戦形式でお願いします」
「ふぅん」
なるほどね。
テオドールの父上ロレーヌ辺境伯に、あわよくばフォルクスにも、アピールしたいという所かしら。
「まぁ、いいわよ。とりあえず、この講義棟は結界をはるわ」
とりあえず、結界をはるために詠唱する。
「どういうことだ?」
「テオドールが戦うと!?」
後方で騒いでいるけど、まぁそうなるわね。
実戦形式で、しかも私と。
二人は私の実力も性格も分かっているから、なおのこと驚くわ。
ま、こんな大胆なことはルカが考えたんでしょ?
乗ってあげるわ。
「剣は?さすがに生徒に真剣は無理よ。木剣でいいわね?」
「もちろんです。先生を傷つけるわけにはいきませんから」
クリフト、煽るわね。
面白くなってきたわ。
ルカとバーンと私が木剣を持つ。
「で?どうすれば勝ち?全員倒す?一人でも倒せば勝ち?」
ルカ以外は一瞬で倒せる。
「全員です。実戦ですから」
「いいわ。かかってらっしゃい。どれくらいもつか、やりましょう?」
ルカも、ね。
傷つけたくはないのだけど、どうしてもルカ相手だと子供の時の自分が顔を覗かせる。
どうやって、師匠をぶっ倒してやろうかって考えてたあの頃の私が。
面白くなってきたわ。
……でも。
ルカのことをチラリと見る。
お互い、本気は無理よ?
分かってるのかしら。
フォルクス様がいるんだから。
まぁ、剣術ならなんとかなるかしら。
三人とも、木剣を構える。
ルカは後方のクリフトに視線をやっているけれど、そんな余裕あるのかしら?
改めて私に向き直ると、
「いくぞ!」と木剣を構え直す。
「いつでもどうぞ」
師匠、少しは楽しませてよ?
ルカが木剣を正面から振りかぶる。
それを軽く躱し、ルカの左側面を狙ったが、ルカが即座に木剣で弾く。
その後もなるべく素早く、攻撃を常に仕掛けてきている。
さすが。
剣筋も美しいし、動きに無駄がない。
最初は様子を見ている感じの動きだったけれど、徐々に速さも威力も増している。
後方ではテオドールがバーンに何か補助魔法を唱えている。
私の体力を削いで、バーンの力業で攻めるつもりね。
この子達が考えそうなことだけど、もしルカじゃなかったら私相手にここまでもたない。
計画は一瞬で破綻していたけれど、そのことには気づいてないでしょうね。
実力差がありすぎるのよ。
バーンが出てきた時に分からせてあげる。
そんなことを考えていると、ルカが飛びかかってきた。
互いの剣が交差し、力で押し合う。
軽いわね。
さすがに、今の身体では力で押し負けない。
それにしても。
「ルカ……楽しくなってるんじゃないわよ!」
木剣を交差させ、力が拮抗しているかのように見せて顔を近づけ注意する。
さっきから、ルカはニコニコしてるんだもの。
こんなに前と容姿は違うのに、可愛くて仕方ない。
「シュルツ……お前、成長したなぁ」
嬉しくて仕方ないといった顔で笑う。
そうね。
成長、見てもらえた。
貴方に見てもらいたいってずっと思いながら、自分を追い込んできたもの。
「アタシも嬉しくて、久しぶりに本気になっちゃいそうだけど、みんながいるんだから、気をつけて」
「分かってるって!」
力押ししていた木剣を弾き、距離をとる。
そろそろ、テオドールの詠唱が終わってバーンが参戦してくるかしら?
あまりに楽しくて、二人だけのような気になっていたけど、そろそろ私もシュラに意識を戻さないとね。
そう、思った瞬間。
一陣の風がルカの横を吹き抜け、私を襲う。
しまった!
瞬時に無詠唱で軽い防護をとるものの間に合わず、私の横頬に一筋の血が流れる。
「よっし」
背後のテオドールから喜びの声が上がる。
「……アタシの顔に、やってくれたわね?」
許さない。
許さない。
……許さない!
燃やし尽くしてやるわ。
私は私の使える最上級の火炎魔法の詠唱を始める。
私は私の顔を傷つけた者を許さない。
ずっと、幼い頃から顔を傷つけようとする者達ばかりに囲まれていた。
私は美しいから。
その絶対的なモノを傷つけ、私の自尊心を折ろうとする者達を許さない。
何か、ルカが近づき、叫んでいる。
何も、聞こえない。
詠唱を止めるつもりはない。
どんなことがあっても。
頭が下に引き寄せられ、唇に何かが触れる。
口を塞いでも詠唱に影響はないって、分かっているでしょうに。
……え?
目の前にルカの顔。
何かを願うように、瞳を固く閉じ眉間に皺を寄せながら。
私の頭に回されていた腕にぐっと力を込め、より強く唇を押し当てられる。
口付け、している。
ルカと。
テオドールへの意識は吹き飛ぶ。
ルカの唇が私の唇から離れた瞬間に立っていられなくて、その場に崩れ落ちた。
嘘。
ルカと口付け?
……信じられない。
鼓動が早鐘を打つ。
身体を保っていられなくて、その場に両手をつき、顔を地面に伏せる。
顔中にすべての血液が集まっていくよう。
上手く、息も吸えない。
分かってるの。
少し、冷静になった今なら分かってる。
暴走を止めようとしたのよね。
前も何度も暴走したことはあるけれど、その時はルカが圧倒的に強かったから魔法でねじ伏せられた。
でも、今は魔法の制御が怪しいし、みんなの前で使えないから、仕方なく衝撃を与えるためにしたのよね。
分かってるのに……。
「あの……」
ルカの声がして、思わず動揺して肩を揺らしてしまった。
「口付け、して、ごめんな?嫌だったよな?」
嫌だった?
ルカのその言葉が聞こえた瞬間に、そんな誤解はして欲しくなくて、見られたくなかったのに顔をあげてしまう。
顔、絶対に赤いわ……。
美しく、ない。
それでも。
「嫌なわけ、ないでしょ」
伝えないと。
ルカをそのまま抱き寄せる。
「……嫌じゃない。でも、止めるためなのは嫌だった」
あんなに焦がれていた唇に、私の暴走を止めるために触れたくなかった。
「……テオは、顔を狙った訳じゃないんだ」
「分かってる。ごめんなさい。私が悪いわ。顔を傷つけられると……どうしてもダメね。生徒に不意をつかれただけでも情けないのに、まさか害しようとするなんて。教師失格よ。止めてくれて、ありがとう」
これも、本当の気持ち。
ルカがいなかったら、きっとテオドールを傷つけた後に我に返って、やりきれない気持ちで回復することになっていた。
本当に、そうならなくて良かった。
私を傷つけずに止めるために口付けしたのは分かるけれど、ルカにその選択肢が思い浮かんだことは意外だった。
「……でも、まさかルカがあんな止め方するなんて」
「いやー、良かった!他の止め方なんて思い浮かばなかったからなー。テオのおかげだ!」
「テオの、おかげ?」
どういうこと?
まさか。
「あぁ、今日初めてテオに口付けされたのが衝撃的で!これならシュルツも止められるかもなって思ったんだよ……って、シュルツ?」
「……」
テオドール……。
あの、ガキ……。
ルカに口付け、した?
そんなことが、許されると思っているのかしら……?
「テオドール!」
「ちょっ、ちょっと落ち着け!どうしたんだ!」
「落ち着け?落ち着けるわけないでしょ!テオドールがルカに口付けてたって……許せない」
私が、どれ程望んでいたか。
前も今も。
あんなガキが戯れで触れていいはずがない!
「シュルツ、確かに初めての口付けはテオとだったが、俺からしたのはお前が初めてだ。それじゃダメか?」
「なっ……」
一瞬で、顔中に血液が集まったのが分かる。
その言葉の威力に貴方は何も気づいていない。
どれだけ、私がそんな言葉一つで歓喜しているか。
気持ちなんかこもってないって分かっているのに。
それでも。
「……待って。テオドールからしたって、貴方は合意してないってこと?」
「いや、された後に嫌だったかって聞かれたぞ。別に嫌じゃなかったから合意だ!」
「……ちょっと、あのガキ殺すわ」
もう、許せない。
ルカに口付けた後に嫌だったか?
ふざけやがって……!
その場から立ち上がり、テオドールの元へ歩く。
「ま、待て!何でそんなに怒ってるんだ!俺が今、シュルツに口付けしたのと、テオは関係ないぞ!怒るなら俺だろ?俺にならどんなに怒ってもいいから。ごめん!」
……謝らないで。
歩みを止め、ルカを見る。
「そんなに、謝らないで。その方がツラいわ。貴方にとって、謝らないといけないようなことだったって、思わされる。したく、なかったのよね……」
私が暴走しなければ、口付けなんてしたくなかった。
だから、そんなことをしたって謝り続けるんでしょう?
まさか。
テオドールのことが、好き、なの?
貴方は、誰のことも好きにならないと思っていた。
特別な感情を持つことはないと。
でも、それは前の貴方だ。
テオドールのことが本当に好きで、あの子からの口付けを受け入れたのなら、私に何か言う資格はない。
私とは暴走を止めるためにした口付け。
それがなくても……テオドールみたいに許してくれる?
「ルカ」
望んでいる答えじゃないかもしれない。
返答次第では……。
「何もなくても……私と、口付け、してくれる?」
「いいぞ」
「え?」
即答?
本当に?
テオドールを、選んだ訳じゃないの?
ルカの返答次第では、狂ってしまうかもしれない。
そこまで、思い詰めていたのに。
「ほんとに?」
「あぁ」
「止めるためじゃなくても?」
「あぁ」
「ふっ……絶対違うって分かってても、嬉しくなるものなのね」
私の想いとルカの思いは違う。
テオドールに対してもきっとそう。
貴方はまだ誰も、愛していない。
ふぅっと息を吐き、歩みを止める。
「とりあえず、テオドールを殺すのは止めてあげる。でも、テオドールのことも貴方のことも許した訳じゃないの。ちゃんと後で話し合い、しましょ?」
テオドールをココから追い出したっていいのだけど。
ルカへの想いは邪魔でしかない。
きっと、バーンもクリフトも同じ。
分かってないのは、ルカだけ。
……でも。
前ではあり得なかった口付け。
神聖視していたあの頃では。
今は、違う。
テオドールごときが、手を出す今なら。
我慢なんて、しない。
状況を把握できずにオロオロしているルカを見て、私は微笑んだ。
そんな私の姿に、驚愕している存在を忘れて。
最後に残ったのが一番憂鬱なルカ達の視察。
何もなければいいんだけど……。
講義棟の入り口を開けると、前方にルカ達が立っているのが見えた。
私の靴の音に気付き、四人が振り返る。
「さて、視察に来たわよ。今日は何をするの?」
基本的に何をするのかは任せていた。
ルカがいるし、他の三人も優秀だから。
「シュラ先生、三人と模擬戦闘をして頂けますか?」
「は?アタシ?」
何を突然……。
予想外の流れにさすがに驚く。
「そうです。三対一にはなりますが、何でもアリの実戦形式でお願いします」
「ふぅん」
なるほどね。
テオドールの父上ロレーヌ辺境伯に、あわよくばフォルクスにも、アピールしたいという所かしら。
「まぁ、いいわよ。とりあえず、この講義棟は結界をはるわ」
とりあえず、結界をはるために詠唱する。
「どういうことだ?」
「テオドールが戦うと!?」
後方で騒いでいるけど、まぁそうなるわね。
実戦形式で、しかも私と。
二人は私の実力も性格も分かっているから、なおのこと驚くわ。
ま、こんな大胆なことはルカが考えたんでしょ?
乗ってあげるわ。
「剣は?さすがに生徒に真剣は無理よ。木剣でいいわね?」
「もちろんです。先生を傷つけるわけにはいきませんから」
クリフト、煽るわね。
面白くなってきたわ。
ルカとバーンと私が木剣を持つ。
「で?どうすれば勝ち?全員倒す?一人でも倒せば勝ち?」
ルカ以外は一瞬で倒せる。
「全員です。実戦ですから」
「いいわ。かかってらっしゃい。どれくらいもつか、やりましょう?」
ルカも、ね。
傷つけたくはないのだけど、どうしてもルカ相手だと子供の時の自分が顔を覗かせる。
どうやって、師匠をぶっ倒してやろうかって考えてたあの頃の私が。
面白くなってきたわ。
……でも。
ルカのことをチラリと見る。
お互い、本気は無理よ?
分かってるのかしら。
フォルクス様がいるんだから。
まぁ、剣術ならなんとかなるかしら。
三人とも、木剣を構える。
ルカは後方のクリフトに視線をやっているけれど、そんな余裕あるのかしら?
改めて私に向き直ると、
「いくぞ!」と木剣を構え直す。
「いつでもどうぞ」
師匠、少しは楽しませてよ?
ルカが木剣を正面から振りかぶる。
それを軽く躱し、ルカの左側面を狙ったが、ルカが即座に木剣で弾く。
その後もなるべく素早く、攻撃を常に仕掛けてきている。
さすが。
剣筋も美しいし、動きに無駄がない。
最初は様子を見ている感じの動きだったけれど、徐々に速さも威力も増している。
後方ではテオドールがバーンに何か補助魔法を唱えている。
私の体力を削いで、バーンの力業で攻めるつもりね。
この子達が考えそうなことだけど、もしルカじゃなかったら私相手にここまでもたない。
計画は一瞬で破綻していたけれど、そのことには気づいてないでしょうね。
実力差がありすぎるのよ。
バーンが出てきた時に分からせてあげる。
そんなことを考えていると、ルカが飛びかかってきた。
互いの剣が交差し、力で押し合う。
軽いわね。
さすがに、今の身体では力で押し負けない。
それにしても。
「ルカ……楽しくなってるんじゃないわよ!」
木剣を交差させ、力が拮抗しているかのように見せて顔を近づけ注意する。
さっきから、ルカはニコニコしてるんだもの。
こんなに前と容姿は違うのに、可愛くて仕方ない。
「シュルツ……お前、成長したなぁ」
嬉しくて仕方ないといった顔で笑う。
そうね。
成長、見てもらえた。
貴方に見てもらいたいってずっと思いながら、自分を追い込んできたもの。
「アタシも嬉しくて、久しぶりに本気になっちゃいそうだけど、みんながいるんだから、気をつけて」
「分かってるって!」
力押ししていた木剣を弾き、距離をとる。
そろそろ、テオドールの詠唱が終わってバーンが参戦してくるかしら?
あまりに楽しくて、二人だけのような気になっていたけど、そろそろ私もシュラに意識を戻さないとね。
そう、思った瞬間。
一陣の風がルカの横を吹き抜け、私を襲う。
しまった!
瞬時に無詠唱で軽い防護をとるものの間に合わず、私の横頬に一筋の血が流れる。
「よっし」
背後のテオドールから喜びの声が上がる。
「……アタシの顔に、やってくれたわね?」
許さない。
許さない。
……許さない!
燃やし尽くしてやるわ。
私は私の使える最上級の火炎魔法の詠唱を始める。
私は私の顔を傷つけた者を許さない。
ずっと、幼い頃から顔を傷つけようとする者達ばかりに囲まれていた。
私は美しいから。
その絶対的なモノを傷つけ、私の自尊心を折ろうとする者達を許さない。
何か、ルカが近づき、叫んでいる。
何も、聞こえない。
詠唱を止めるつもりはない。
どんなことがあっても。
頭が下に引き寄せられ、唇に何かが触れる。
口を塞いでも詠唱に影響はないって、分かっているでしょうに。
……え?
目の前にルカの顔。
何かを願うように、瞳を固く閉じ眉間に皺を寄せながら。
私の頭に回されていた腕にぐっと力を込め、より強く唇を押し当てられる。
口付け、している。
ルカと。
テオドールへの意識は吹き飛ぶ。
ルカの唇が私の唇から離れた瞬間に立っていられなくて、その場に崩れ落ちた。
嘘。
ルカと口付け?
……信じられない。
鼓動が早鐘を打つ。
身体を保っていられなくて、その場に両手をつき、顔を地面に伏せる。
顔中にすべての血液が集まっていくよう。
上手く、息も吸えない。
分かってるの。
少し、冷静になった今なら分かってる。
暴走を止めようとしたのよね。
前も何度も暴走したことはあるけれど、その時はルカが圧倒的に強かったから魔法でねじ伏せられた。
でも、今は魔法の制御が怪しいし、みんなの前で使えないから、仕方なく衝撃を与えるためにしたのよね。
分かってるのに……。
「あの……」
ルカの声がして、思わず動揺して肩を揺らしてしまった。
「口付け、して、ごめんな?嫌だったよな?」
嫌だった?
ルカのその言葉が聞こえた瞬間に、そんな誤解はして欲しくなくて、見られたくなかったのに顔をあげてしまう。
顔、絶対に赤いわ……。
美しく、ない。
それでも。
「嫌なわけ、ないでしょ」
伝えないと。
ルカをそのまま抱き寄せる。
「……嫌じゃない。でも、止めるためなのは嫌だった」
あんなに焦がれていた唇に、私の暴走を止めるために触れたくなかった。
「……テオは、顔を狙った訳じゃないんだ」
「分かってる。ごめんなさい。私が悪いわ。顔を傷つけられると……どうしてもダメね。生徒に不意をつかれただけでも情けないのに、まさか害しようとするなんて。教師失格よ。止めてくれて、ありがとう」
これも、本当の気持ち。
ルカがいなかったら、きっとテオドールを傷つけた後に我に返って、やりきれない気持ちで回復することになっていた。
本当に、そうならなくて良かった。
私を傷つけずに止めるために口付けしたのは分かるけれど、ルカにその選択肢が思い浮かんだことは意外だった。
「……でも、まさかルカがあんな止め方するなんて」
「いやー、良かった!他の止め方なんて思い浮かばなかったからなー。テオのおかげだ!」
「テオの、おかげ?」
どういうこと?
まさか。
「あぁ、今日初めてテオに口付けされたのが衝撃的で!これならシュルツも止められるかもなって思ったんだよ……って、シュルツ?」
「……」
テオドール……。
あの、ガキ……。
ルカに口付け、した?
そんなことが、許されると思っているのかしら……?
「テオドール!」
「ちょっ、ちょっと落ち着け!どうしたんだ!」
「落ち着け?落ち着けるわけないでしょ!テオドールがルカに口付けてたって……許せない」
私が、どれ程望んでいたか。
前も今も。
あんなガキが戯れで触れていいはずがない!
「シュルツ、確かに初めての口付けはテオとだったが、俺からしたのはお前が初めてだ。それじゃダメか?」
「なっ……」
一瞬で、顔中に血液が集まったのが分かる。
その言葉の威力に貴方は何も気づいていない。
どれだけ、私がそんな言葉一つで歓喜しているか。
気持ちなんかこもってないって分かっているのに。
それでも。
「……待って。テオドールからしたって、貴方は合意してないってこと?」
「いや、された後に嫌だったかって聞かれたぞ。別に嫌じゃなかったから合意だ!」
「……ちょっと、あのガキ殺すわ」
もう、許せない。
ルカに口付けた後に嫌だったか?
ふざけやがって……!
その場から立ち上がり、テオドールの元へ歩く。
「ま、待て!何でそんなに怒ってるんだ!俺が今、シュルツに口付けしたのと、テオは関係ないぞ!怒るなら俺だろ?俺にならどんなに怒ってもいいから。ごめん!」
……謝らないで。
歩みを止め、ルカを見る。
「そんなに、謝らないで。その方がツラいわ。貴方にとって、謝らないといけないようなことだったって、思わされる。したく、なかったのよね……」
私が暴走しなければ、口付けなんてしたくなかった。
だから、そんなことをしたって謝り続けるんでしょう?
まさか。
テオドールのことが、好き、なの?
貴方は、誰のことも好きにならないと思っていた。
特別な感情を持つことはないと。
でも、それは前の貴方だ。
テオドールのことが本当に好きで、あの子からの口付けを受け入れたのなら、私に何か言う資格はない。
私とは暴走を止めるためにした口付け。
それがなくても……テオドールみたいに許してくれる?
「ルカ」
望んでいる答えじゃないかもしれない。
返答次第では……。
「何もなくても……私と、口付け、してくれる?」
「いいぞ」
「え?」
即答?
本当に?
テオドールを、選んだ訳じゃないの?
ルカの返答次第では、狂ってしまうかもしれない。
そこまで、思い詰めていたのに。
「ほんとに?」
「あぁ」
「止めるためじゃなくても?」
「あぁ」
「ふっ……絶対違うって分かってても、嬉しくなるものなのね」
私の想いとルカの思いは違う。
テオドールに対してもきっとそう。
貴方はまだ誰も、愛していない。
ふぅっと息を吐き、歩みを止める。
「とりあえず、テオドールを殺すのは止めてあげる。でも、テオドールのことも貴方のことも許した訳じゃないの。ちゃんと後で話し合い、しましょ?」
テオドールをココから追い出したっていいのだけど。
ルカへの想いは邪魔でしかない。
きっと、バーンもクリフトも同じ。
分かってないのは、ルカだけ。
……でも。
前ではあり得なかった口付け。
神聖視していたあの頃では。
今は、違う。
テオドールごときが、手を出す今なら。
我慢なんて、しない。
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トリプルエスランク、紫の瞳を持つスーパーαのエリートの瑛士さんの、超高級マンション。最上階の隣の部屋を貰う。もし番になりたい人が居たら一緒に暮らしてもいいよとか言うけど、一番勉強がしたいので! 恋とか分からないしと断る。たまに一緒にパーティーに出たり、表に夫夫アピールはするけど、それ以外は絡む必要もない、はずだったのに、なぜか瑛士さんは、オレの部屋を訪ねてくる。そんな豪華でもない普通のオレのご飯を一緒に食べるようになる。勉強してる横で、瑛士さんも仕事してる。「何でここに」「居心地よくて」「いいですけど」そんな日々が続く。ちょっと仲良くなってきたある時、久しぶりにヒート。三日間こもるんで来ないでください。この期間だけは一応Ωなんで、と言ったオレに、一緒に居る、と、意味の分からない瑛士さん。一応抑制剤はお互い打つけど、さすがにヒートは、無理。出てってと言ったら、一人でそんな辛そうにさせてたくない、という。もうヒートも相まって、血が上って、頭、良く分からなくなる。まあ二人とも、微かな理性で頑張って、本番まではいかなかったんだけど。――ヒートを乗り越えてから、瑛士さん、なんかやたら、距離が近い。何なのその目。そんな風に見つめるの、なんかよくないと思いますけど。というと、おかしそうに笑われる。そんな時、色んなツテで、薬を作る夢の話が盛り上がってくる。Ωの対応や治験に向けて活動を開始するようになる。夢に少しずつ近づくような。そんな中、従来の抑制剤の治験の闇やΩたちへの許されない行為を耳にする。少しずつ証拠をそろえていくと、それを良く思わない連中が居て――。瑛士さんは、契約結婚をしてでも身辺に煩わしいことをなくしたかったはずなのに、なぜかオレに関わってくる。仕事も忙しいのに、時間を見つけては、側に居る。なんだか初の感覚。でもオレ、勉強しなきゃ!瑛士さんと結婚できるわけないし勘違いはしないように! なのに……? と、αに翻弄されまくる話です。ぜひ✨
表紙:クボキリツ(@kbk_Ritsu)さま
素敵なイラストをありがとう…🩷✨
地味顔陰キャな俺。異世界で公爵サマに拾われ、でろでろに甘やかされる
冷凍湖
BL
人生だめだめな陰キャくんがありがちな展開で異世界にトリップしてしまい、公爵サマに拾われてめちゃくちゃ甘やかされるウルトラハッピーエンド
アルファポリスさんに登録させてもらって、異世界がめっちゃ流行ってることを知り、びっくりしつつも書きたくなったので、勢いのまま書いてみることにしました。
他の話と違って書き溜めてないので更新頻度が自分でも読めませんが、とにかくハッピーエンドになります。します!
6/3
ふわっふわな話の流れしか考えずに書き始めたので、サイレント修正する場合があります。
公爵サマ要素全然出てこなくて自分でも、んん?って感じです(笑)。でもちゃんと公爵ですので、公爵っぽさが出てくるまでは、「あー、公爵なんだなあー」と広い心で見ていただけると嬉しいです、すみません……!
断罪された当て馬王子と愛したがり黒龍陛下の幸せな結婚
てんつぶ
BL
旧題:当て馬王子と黒龍陛下の押し付けられた政略結婚 ~なのに嫌いだと言い放った龍が溺愛してきます~
優秀な王子である兄は、異世界から来た聖女に惑わされている。
進言した僕は、兄に半ば言いがかりともいえる断罪をされて、その上父上からは龍国に嫁ぐようにと命令を下された。男である僕が和平のためとはいえ龍に嬲り者にされるのを、周囲は望んでいるのだ。その上、来訪した龍王のタイランは初対面で僕を「嫌いだ」と言い放って――
龍人国の伝統に乗っ取り、嫁である主人公の国で過ごす半年の、溺愛の記録。
龍王×周囲から孤立した当て馬王子。
悪役令息ポジションの王子です
※完結しました。御付き合いありがとうございます。今後番外編やスピンオフを書く可能性があります。その際にはよろしくお願いします。
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