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初めての口づけ
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「もう、家なんか出ようかな……」
驚いて、思わずテオの顔を覗き込むと、今にも泣きそうな顔をしていた。
きっと、視察中に何かあったんだな……。
いつも動じないテオ。
そんなテオがこんなにも憔悴している……力に、なりたい。
俺はテオの手をそっと握った。
俺はテオの味方だ。
何があっても。
そんな想いを込める。
テオは握っていた俺の手をきゅっと握り返すと、そのまま顔を寄せ、俺の唇に……触れた。
ん?
んん?
今、口づけ……した!?
え、これって口づけ?
でも、今、テオの顔がめちゃめちゃ近くにあって、唇に柔らかいのが触れたよな?
「ふはっ」
テオが吹き出す。
「ルカ、顔が面白いよ……」
「え、いや、だって、今……」
これ、聞いていいのか?
今、口づけしたよなって。
全然違ってたらどうしよう……でも、柔らかいのが触れたし……。
「口づけ、したよ?」
テオは悪びれもせず、心の中を読んでいたかのような、俺の欲しかった答えをくれた。
「なんで……」
俺、男だし、口づけって大切な相手とする行為だ。
「したかったから」
えぇ!?
したかったらするものなのか?
もしかして、俺の方がおかしいのか?
前も含めて、口づけしたのは初めてだった。
前も色恋には疎く、自分から女の子に声をかけることもなく、もちろん向こうから声をかけられることもなかった。
漠然とした知識しかない。
そんな俺の知識では、口づけは好きな女の子とする行為だ。
キキの村には同年代の女の子はいない。
女の子どころか同年代がいなかったので、今回の寄宿学校で相手を見つけて帰らないと、俺は口づけなど経験しないまま今世も終えるのか、なんてことまで考えていた。
それが、あっさり……。
ぐるぐる考えて何も答えられない俺に、テオはいつもの顔で微笑む。
「嫌だった?」
嫌……だとは、思わなかったな。
とにかく、驚いた。
俺の中で、男友達と口づけするという選択肢がなかったから。
でも、なぜ女の子としか口づけしないのかと問われても理由がない。
漠然と思っていただけで、別に今、不快でもない。
「嫌、じゃない」
「じゃあ、いいよね?」
「う、ん」
いいのか。
そうか。
口づけするということを、すごく神聖なことだと勝手に捉えていたが、確かに嫌じゃなかったから、してもいいのか。
好きな相手であれば、男女は関係ない。
でも、友達と恋人は違うよな?
友達と口づけは……しないよな?
でも、テオがしたくて、俺もされても嫌じゃないなら、いい、よな?
「……チョロすぎる」
テオが何か言っていたが、自分の中の考えをまとめることに必死になって聞いていなかった。
……いや、何をぐるぐる考えてるんだ!
初めてとはいえ、俺の口づけについてなんて、もういい。
そんなことより、テオだ。
「それで、テオ。何かあったなら、話して欲しい」
「ルカ……」
テオは誤魔化せなかったか、と笑う。
その笑みが、痛々しい。
「あまり、楽しい話じゃないんだけどね?最初にルカと会った時にも話したけど、僕はずっと魔力量を増やす訓練をしていたんだ……それは物心ついたくらいからね。僕は最初、父上は僕のためにそうしていると思っていたんだ。自分が魔力が少なくて、中央に留まることができなかったから、息子の僕にそんな思いをさせてはいけない、と。だから、頑張れた」
昔を懐かしみながら話す口調のテオの顔は……表情が抜け落ち、決して思い出したい過去ではないと感じる。
俺はこのままテオの話を聞いていいのか。
せっかく塞がった傷を、再びかきむしっていないか?
「テオ、無理には話すな。話したくなったら、でいい」
テオは首を横に振ると、聞いて欲しい、と言った。
「命を削る毎日が続いても、愛情ゆえだと思っていた僕は必死だった。父上の期待に答えたいと思っていた。……でも、訓練の途中で倒れて意識が朦朧としていた僕に、父上が精神が壊れて人形になってもいいから、とにかく魔力量をあげろって叫んでる声が聴こえてね……その時に悟ったんだ。あぁ、僕のためじゃなかった。父上は僕のことを愛してなんかいない。魔力量の多い、自分がなし得なかったことを叶えるモノとしてしか、認識していないって」
信じられない。
我が子を、そんな……。
「でもね、それからはすごく楽になったんだ。手を、抜いたからね。もう、与えられたことをただ粛々とこなす毎日。それ以上でも以下でもない。感情を消してしまえば、体が疲弊するのは耐えられた。そんな先で、ルカと出会った」
俺?
「ルカといろいろ話していると、自分の想いが芽吹くんだ。心の奥底に隠してた、僕の想い」
テオは晴々しく笑った。
驚いて、思わずテオの顔を覗き込むと、今にも泣きそうな顔をしていた。
きっと、視察中に何かあったんだな……。
いつも動じないテオ。
そんなテオがこんなにも憔悴している……力に、なりたい。
俺はテオの手をそっと握った。
俺はテオの味方だ。
何があっても。
そんな想いを込める。
テオは握っていた俺の手をきゅっと握り返すと、そのまま顔を寄せ、俺の唇に……触れた。
ん?
んん?
今、口づけ……した!?
え、これって口づけ?
でも、今、テオの顔がめちゃめちゃ近くにあって、唇に柔らかいのが触れたよな?
「ふはっ」
テオが吹き出す。
「ルカ、顔が面白いよ……」
「え、いや、だって、今……」
これ、聞いていいのか?
今、口づけしたよなって。
全然違ってたらどうしよう……でも、柔らかいのが触れたし……。
「口づけ、したよ?」
テオは悪びれもせず、心の中を読んでいたかのような、俺の欲しかった答えをくれた。
「なんで……」
俺、男だし、口づけって大切な相手とする行為だ。
「したかったから」
えぇ!?
したかったらするものなのか?
もしかして、俺の方がおかしいのか?
前も含めて、口づけしたのは初めてだった。
前も色恋には疎く、自分から女の子に声をかけることもなく、もちろん向こうから声をかけられることもなかった。
漠然とした知識しかない。
そんな俺の知識では、口づけは好きな女の子とする行為だ。
キキの村には同年代の女の子はいない。
女の子どころか同年代がいなかったので、今回の寄宿学校で相手を見つけて帰らないと、俺は口づけなど経験しないまま今世も終えるのか、なんてことまで考えていた。
それが、あっさり……。
ぐるぐる考えて何も答えられない俺に、テオはいつもの顔で微笑む。
「嫌だった?」
嫌……だとは、思わなかったな。
とにかく、驚いた。
俺の中で、男友達と口づけするという選択肢がなかったから。
でも、なぜ女の子としか口づけしないのかと問われても理由がない。
漠然と思っていただけで、別に今、不快でもない。
「嫌、じゃない」
「じゃあ、いいよね?」
「う、ん」
いいのか。
そうか。
口づけするということを、すごく神聖なことだと勝手に捉えていたが、確かに嫌じゃなかったから、してもいいのか。
好きな相手であれば、男女は関係ない。
でも、友達と恋人は違うよな?
友達と口づけは……しないよな?
でも、テオがしたくて、俺もされても嫌じゃないなら、いい、よな?
「……チョロすぎる」
テオが何か言っていたが、自分の中の考えをまとめることに必死になって聞いていなかった。
……いや、何をぐるぐる考えてるんだ!
初めてとはいえ、俺の口づけについてなんて、もういい。
そんなことより、テオだ。
「それで、テオ。何かあったなら、話して欲しい」
「ルカ……」
テオは誤魔化せなかったか、と笑う。
その笑みが、痛々しい。
「あまり、楽しい話じゃないんだけどね?最初にルカと会った時にも話したけど、僕はずっと魔力量を増やす訓練をしていたんだ……それは物心ついたくらいからね。僕は最初、父上は僕のためにそうしていると思っていたんだ。自分が魔力が少なくて、中央に留まることができなかったから、息子の僕にそんな思いをさせてはいけない、と。だから、頑張れた」
昔を懐かしみながら話す口調のテオの顔は……表情が抜け落ち、決して思い出したい過去ではないと感じる。
俺はこのままテオの話を聞いていいのか。
せっかく塞がった傷を、再びかきむしっていないか?
「テオ、無理には話すな。話したくなったら、でいい」
テオは首を横に振ると、聞いて欲しい、と言った。
「命を削る毎日が続いても、愛情ゆえだと思っていた僕は必死だった。父上の期待に答えたいと思っていた。……でも、訓練の途中で倒れて意識が朦朧としていた僕に、父上が精神が壊れて人形になってもいいから、とにかく魔力量をあげろって叫んでる声が聴こえてね……その時に悟ったんだ。あぁ、僕のためじゃなかった。父上は僕のことを愛してなんかいない。魔力量の多い、自分がなし得なかったことを叶えるモノとしてしか、認識していないって」
信じられない。
我が子を、そんな……。
「でもね、それからはすごく楽になったんだ。手を、抜いたからね。もう、与えられたことをただ粛々とこなす毎日。それ以上でも以下でもない。感情を消してしまえば、体が疲弊するのは耐えられた。そんな先で、ルカと出会った」
俺?
「ルカといろいろ話していると、自分の想いが芽吹くんだ。心の奥底に隠してた、僕の想い」
テオは晴々しく笑った。
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