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下等生物~テオドール視点~

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国政の視察も終わった。
結局僕は視察に付いて回っただけで、ムダに一日を費やした気分だった。

「どう?この寄宿学校は他に比べて劣っている所があった?」
「いや、問題ない」
フォルクス様、顔色があまり良くない。
多忙なのだろうか?
まぁ、この国の宰相閣下だ……多忙なのは当たり前か。

「フォルクス、お前、市政まで目が行き届いているのか?平民の暴動が起こった地があると聞く。お前の政策の不満のためだろう。だからこそ私は以前から……」
フォルクス様に対する不敬な言葉の数々。
やっかみだ。
見苦しい。

「あの、僕はもう授業に戻ってもいいですか?」
「あなた達の授業も後で視察する予定よ。テオドールの同行視察はもうおしまい。あとは、それまでお父上とお話でもしたら?当分はお会いできないでしょ」
シュラ先生は興味ありません、といった表情でこちらを見る。

正直、僕もどうでもいい。
ロレーヌに早く帰って欲しい。
父を見ると、気難しい顔をしている。
何だ?またシュラ先生かフォルクス様に言いがかりをつけるのだろうか。

「シュラ、あの庭園にいた平民は?」

僕を含めた三人は意外そうな顔をする。
父が平民に興味を持つなんて、今まで皆無だった。
完全な貴族主義……いや、利己主義なだけか。
自分にしか興味がない。
息子の僕すら、愛を傾ける存在としてではなく、自分がなし得なかったことを実現させるために作ったんだから。

「……あの子がテオドールの学友よ。毒は、本来はあの子を狙ったと思われるわ。もちろん、あの子に非はない」
「あの下等生物にテオドールが悪影響を受けている!テオドールが反抗的になったのはすべてアレのせいだろう!」
「ルカのことを悪く言うのはやめて下さい!」

自分のことはいくらでもなじればいい。
ルカのことだけは、許せない。

「また、父にそのような態度を……。テオドール、どうしてしまったんだ?お前はそんな子ではなかった。ここに来てから突然変わってしまった!」
父が大袈裟に嘆く。
……心が、冷えるばかりだ。

「……ここに親子喧嘩を見に来た訳ではない。失礼する」
フォルクス様はこめかみを押さえながら、執務室を出られた。

「僕は確かに変わった。ルカに出会って、諦めていた自分の人生を自分の意思で切り開いていこうと思ったんです。僕は魔法を極め、士長となり、国の中央で実権を握りたいと思ったことなどない。それは僕の夢ではなく父上の夢の残骸です!」
「テオドール……」
「……でも、ロレーヌは好きです。民も地も守りたいと思っている。そう、思っていると気づかせてくれたんです。それではダメですか?力をつけ、よりロレーヌを富ませるために……」
「黙れっ!」

父の憤怒の表情は久しぶりに見た。
小さい時にもう魔法量を増やすのは嫌だと訴えた時以来か。
あの時は激しく折檻され、意識を失いかけた時に虚ろな目で見上げた父が、人ではないように映った。

それ以来、僕は恐怖のあまり自ら進んで人形に成り下がった。

……でも、今は違う。

「ロレーヌを守りたい?そんな価値のないことをしてどうする!お前は大人しく言われたことをやっておけばいいのだ!あの平民こそ、お前にとって毒だ。そんなモノ、この父が……」
「ルカに何かするなら、父上でも許しません。ルカは作られた僕と違って、天賦の才がある。この国にとって、必要なのは僕よりもルカだ。僕に言わせれば、父上の方がルカよりもよほど下等生物ですよ。……失礼します」

もう、顔を見ることもなく一礼し執務室を退室した。

はぁ……報復、されるんだろうな。
プライドの塊のような父が、ここまで言われて黙っているはずがない。
ルカに害が及ばないように……それだけだ。


中庭を抜けようと歩いていると、ベンチに一人、ルカが座って項垂れている。
どうしたんだろう?
僕は静かにその側まで歩き、そっとその隣に腰かけた。
ルカが気付き、僕の存在を確認する。

「どうしたの?こんな所で」
「テオ。父さんとはもういいのか?」
「あぁ、授業の様子は後で見に来るみたいだけどね。フォルクス様に対する態度が見てられなくて……自分の父親の矮小さが嫌になるよね」

ルカについて言っていたことは伝えない。
僕のことで、ルカを煩わせたくない。

僕はふと、空を見上げる。
あぁ、空なんてこうやって見たことあったかな?
そんな余裕すらない毎日を送っていた。

「もう、家なんか出ようかな……」

ふと、口に出してしまった。
ルカは驚いた表情で僕を見ている。

「テオ、何かあったのか?」
心配そうに僕の顔を覗き込み、見つめる瞳。
真っ黒なその瞳に自分の顔が映っている。
情けない顔。

でも、家の鏡に映っていた死んだ瞳の人形よりも、ずっとこの情けない顔の僕が好きだ。

僕の返事を促すように、ルカが僕の手をそっと握る。
暖かい手。
僕に寄り添おうとしてくれている。

ルカが、好きだ。
想いが溢れる。

僕は思わず、ルカに口付けた。
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