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人形~テオドール視点~

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失いつつある意識の中で、父親の叫び声が聞こえる。
「早く回復させろ!休ませるな!ギリギリまで命を削って魔力を増やすんだ!」
「これ以上は、ご子息の精神が……」
「精神など、どうでもいいわ!生きて魔力さえ多ければ人形で構わん!」

……あぁ、僕は人形なのか。
壊れてもかまわない。
ただ、父親の雪辱を果たせればいい。
そんなことのために生まれてきたのか。

僕の人生はほの暗い中で進み、虚ろな目で出会った君は、そんな世界を吹き飛ばすほど、輝いていた。

__人生に、抗おうか。




「テオドールです」

シュラ先生の執務室から話し声が聞こえる。
伝えられた予定時間より早めに来たが、すでにフォルクス様も父も来ている?
「……入りなさい」
シュラ先生の許可が下りたので執務室の扉を開けると、中にはシュラ先生とフォルクス様だけだった。

あの人はまだか。

「失礼します。フォルクス様、お久しぶりです。ロレーヌ辺境伯の子息、テオドールです」
礼をとる。
「格式張ったことはいらない。ここではただのテオドールだ。今日は視察ということで来た。体はもう、大事ないか?」
……お優しい方だ。
「はい。すぐに処置して頂いたので、問題ありません。父がこんなに大事にしてしまい……申し訳ありません」
シュラ先生とフォルクス様に頭を下げる。

「テオドール、貴方が謝罪する必要はないの。毒の件はこちらの落ち度でもある。貴方もバーンも賢明で、犯人捜しをしなかったけど、もし望まれれば無駄な混乱を招いてた。こちらこそ、謝罪したいわ。貴方達のおかげであの子も罪悪感に苛まれずに済んでる」

そうだ。
ルカに少しでもつらい思いはさせたくない。
下らない貴族主義で傷ついて欲しくない。
笑っていて欲しい。

「そんな甘い対応でどうする!シュラ」

聞き慣れた声。
振り向かなくても、誰か分かる。

「……ロレーヌ辺境伯、久しぶりね」
「ふん。大切な息子を預けているのにまさか毒を飲まされるとはな!ルーツ寄宿学校を選んだのは間違いだったのか?とにかく、その原因の平民は即刻辞めさせろ!」
「ダメです!」

振り返ると、今まで人形のように父の意に従ってきた僕が、初めて反抗したことに驚く父の顔が見えた。

「テオドール!お前は毒を飲まされたんだぞ?聞けば、その平民を狙った犯行だと言うではないか!それに巻き込まれたんだ……そいつがいなければ下級の貴族にそのようなことをされるはずがない!」
「僕で良かったと思っています」
「何を馬鹿なことを!平民の代わりに死ぬつもりか?お前はこのロレーヌを継ぐ者だぞ!」

見るからに激昂している。
「僕は死ぬことに慣れているので」
「……っ」

そう。慣れてる。
毒を飲んだ苦しみなんて、大したことじゃない。
もっと苦しいことを父親に強いられてきたんだから。

「……とりあえず、視察目的で来たんだから、授業内容を見て回りましょう」
「そうだな」

シュラ先生とフォルクス様に続き、僕と父も執務室を出る。

重苦しい空気だ。

父もまさか僕があんな態度を取るとは思っていなかったんだろう。
以前の僕なら、父がシュラ先生やルカを糾弾する様を何も考えずにその場に立って聞いていただろう。
それこそ、人形のように。
僕はそうなることを望まれていたから。
そのための、命だから。

視察に同行する。
他の生徒たちが魔法をネラル先生に教わっている所を自分が視察する……不思議な感覚だ。

「テオドール」
「何か?」
「お前は、テオドール、か?」
「息子の顔をお忘れですか?」
「この寄宿学校で、何があった?お前があのような態度を取るとは……」
「気づいたんですよ、自分が人間だと。いえ、教わったんです」
「……」

あぁ、早くこんな無駄な時間は終わらせて、自分もみんなと一緒に学びたい。
三人は今頃何を学んでるんだろう?

魔法も剣術も特にこれといったこともなく、最後に国政を学んでいる場へ向かう途中の中庭でルカを見つける。
一人で、何をしてるんだろう?
二人はいないけど……。
僕は気づくかな?と思いつつ、軽く手を振ると、ルカも気づいて大きく振り返してくれた。

可愛いなぁ。
殺伐とした気持ちがふっと軽くなる。

ルカの存在に気づいたフォルクス様とシュラ先生が何か言葉を交わし、フォルクス様がルカの所に歩いていかれ、何か言葉を交わしている。

大丈夫かな……ちゃんと宰相閣下だと分かって会話してるかな……。

フォルクス様が険しい顔で帰ってこられた。
こんな表情のフォルクス様は初めてで、僕もシュラ先生も驚いている。
ルカはその場に立ち尽くしたままだ。
フォルクス様は何かシュラ先生と会話を交わし、足早に次の視察に向かわれた。

ルカ……何をしたの!!
ハラハラした気持ちが全面に表情に出ていることにも気づかず、僕はフォルクス様とシュラ先生を追った。

そんな僕の表情を、父が凝視していたことにも気づかずに。
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