67 / 146
人形~テオドール視点~
しおりを挟む
失いつつある意識の中で、父親の叫び声が聞こえる。
「早く回復させろ!休ませるな!ギリギリまで命を削って魔力を増やすんだ!」
「これ以上は、ご子息の精神が……」
「精神など、どうでもいいわ!生きて魔力さえ多ければ人形で構わん!」
……あぁ、僕は人形なのか。
壊れてもかまわない。
ただ、父親の雪辱を果たせればいい。
そんなことのために生まれてきたのか。
僕の人生はほの暗い中で進み、虚ろな目で出会った君は、そんな世界を吹き飛ばすほど、輝いていた。
__人生に、抗おうか。
「テオドールです」
シュラ先生の執務室から話し声が聞こえる。
伝えられた予定時間より早めに来たが、すでにフォルクス様も父も来ている?
「……入りなさい」
シュラ先生の許可が下りたので執務室の扉を開けると、中にはシュラ先生とフォルクス様だけだった。
あの人はまだか。
「失礼します。フォルクス様、お久しぶりです。ロレーヌ辺境伯の子息、テオドールです」
礼をとる。
「格式張ったことはいらない。ここではただのテオドールだ。今日は視察ということで来た。体はもう、大事ないか?」
……お優しい方だ。
「はい。すぐに処置して頂いたので、問題ありません。父がこんなに大事にしてしまい……申し訳ありません」
シュラ先生とフォルクス様に頭を下げる。
「テオドール、貴方が謝罪する必要はないの。毒の件はこちらの落ち度でもある。貴方もバーンも賢明で、犯人捜しをしなかったけど、もし望まれれば無駄な混乱を招いてた。こちらこそ、謝罪したいわ。貴方達のおかげであの子も罪悪感に苛まれずに済んでる」
そうだ。
ルカに少しでもつらい思いはさせたくない。
下らない貴族主義で傷ついて欲しくない。
笑っていて欲しい。
「そんな甘い対応でどうする!シュラ」
聞き慣れた声。
振り向かなくても、誰か分かる。
「……ロレーヌ辺境伯、久しぶりね」
「ふん。大切な息子を預けているのにまさか毒を飲まされるとはな!ルーツ寄宿学校を選んだのは間違いだったのか?とにかく、その原因の平民は即刻辞めさせろ!」
「ダメです!」
振り返ると、今まで人形のように父の意に従ってきた僕が、初めて反抗したことに驚く父の顔が見えた。
「テオドール!お前は毒を飲まされたんだぞ?聞けば、その平民を狙った犯行だと言うではないか!それに巻き込まれたんだ……そいつがいなければ下級の貴族にそのようなことをされるはずがない!」
「僕で良かったと思っています」
「何を馬鹿なことを!平民の代わりに死ぬつもりか?お前はこのロレーヌを継ぐ者だぞ!」
見るからに激昂している。
「僕は死ぬことに慣れているので」
「……っ」
そう。慣れてる。
毒を飲んだ苦しみなんて、大したことじゃない。
もっと苦しいことを父親に強いられてきたんだから。
「……とりあえず、視察目的で来たんだから、授業内容を見て回りましょう」
「そうだな」
シュラ先生とフォルクス様に続き、僕と父も執務室を出る。
重苦しい空気だ。
父もまさか僕があんな態度を取るとは思っていなかったんだろう。
以前の僕なら、父がシュラ先生やルカを糾弾する様を何も考えずにその場に立って聞いていただろう。
それこそ、人形のように。
僕はそうなることを望まれていたから。
そのための、命だから。
視察に同行する。
他の生徒たちが魔法をネラル先生に教わっている所を自分が視察する……不思議な感覚だ。
「テオドール」
「何か?」
「お前は、テオドール、か?」
「息子の顔をお忘れですか?」
「この寄宿学校で、何があった?お前があのような態度を取るとは……」
「気づいたんですよ、自分が人間だと。いえ、教わったんです」
「……」
あぁ、早くこんな無駄な時間は終わらせて、自分もみんなと一緒に学びたい。
三人は今頃何を学んでるんだろう?
魔法も剣術も特にこれといったこともなく、最後に国政を学んでいる場へ向かう途中の中庭でルカを見つける。
一人で、何をしてるんだろう?
二人はいないけど……。
僕は気づくかな?と思いつつ、軽く手を振ると、ルカも気づいて大きく振り返してくれた。
可愛いなぁ。
殺伐とした気持ちがふっと軽くなる。
ルカの存在に気づいたフォルクス様とシュラ先生が何か言葉を交わし、フォルクス様がルカの所に歩いていかれ、何か言葉を交わしている。
大丈夫かな……ちゃんと宰相閣下だと分かって会話してるかな……。
フォルクス様が険しい顔で帰ってこられた。
こんな表情のフォルクス様は初めてで、僕もシュラ先生も驚いている。
ルカはその場に立ち尽くしたままだ。
フォルクス様は何かシュラ先生と会話を交わし、足早に次の視察に向かわれた。
ルカ……何をしたの!!
ハラハラした気持ちが全面に表情に出ていることにも気づかず、僕はフォルクス様とシュラ先生を追った。
そんな僕の表情を、父が凝視していたことにも気づかずに。
「早く回復させろ!休ませるな!ギリギリまで命を削って魔力を増やすんだ!」
「これ以上は、ご子息の精神が……」
「精神など、どうでもいいわ!生きて魔力さえ多ければ人形で構わん!」
……あぁ、僕は人形なのか。
壊れてもかまわない。
ただ、父親の雪辱を果たせればいい。
そんなことのために生まれてきたのか。
僕の人生はほの暗い中で進み、虚ろな目で出会った君は、そんな世界を吹き飛ばすほど、輝いていた。
__人生に、抗おうか。
「テオドールです」
シュラ先生の執務室から話し声が聞こえる。
伝えられた予定時間より早めに来たが、すでにフォルクス様も父も来ている?
「……入りなさい」
シュラ先生の許可が下りたので執務室の扉を開けると、中にはシュラ先生とフォルクス様だけだった。
あの人はまだか。
「失礼します。フォルクス様、お久しぶりです。ロレーヌ辺境伯の子息、テオドールです」
礼をとる。
「格式張ったことはいらない。ここではただのテオドールだ。今日は視察ということで来た。体はもう、大事ないか?」
……お優しい方だ。
「はい。すぐに処置して頂いたので、問題ありません。父がこんなに大事にしてしまい……申し訳ありません」
シュラ先生とフォルクス様に頭を下げる。
「テオドール、貴方が謝罪する必要はないの。毒の件はこちらの落ち度でもある。貴方もバーンも賢明で、犯人捜しをしなかったけど、もし望まれれば無駄な混乱を招いてた。こちらこそ、謝罪したいわ。貴方達のおかげであの子も罪悪感に苛まれずに済んでる」
そうだ。
ルカに少しでもつらい思いはさせたくない。
下らない貴族主義で傷ついて欲しくない。
笑っていて欲しい。
「そんな甘い対応でどうする!シュラ」
聞き慣れた声。
振り向かなくても、誰か分かる。
「……ロレーヌ辺境伯、久しぶりね」
「ふん。大切な息子を預けているのにまさか毒を飲まされるとはな!ルーツ寄宿学校を選んだのは間違いだったのか?とにかく、その原因の平民は即刻辞めさせろ!」
「ダメです!」
振り返ると、今まで人形のように父の意に従ってきた僕が、初めて反抗したことに驚く父の顔が見えた。
「テオドール!お前は毒を飲まされたんだぞ?聞けば、その平民を狙った犯行だと言うではないか!それに巻き込まれたんだ……そいつがいなければ下級の貴族にそのようなことをされるはずがない!」
「僕で良かったと思っています」
「何を馬鹿なことを!平民の代わりに死ぬつもりか?お前はこのロレーヌを継ぐ者だぞ!」
見るからに激昂している。
「僕は死ぬことに慣れているので」
「……っ」
そう。慣れてる。
毒を飲んだ苦しみなんて、大したことじゃない。
もっと苦しいことを父親に強いられてきたんだから。
「……とりあえず、視察目的で来たんだから、授業内容を見て回りましょう」
「そうだな」
シュラ先生とフォルクス様に続き、僕と父も執務室を出る。
重苦しい空気だ。
父もまさか僕があんな態度を取るとは思っていなかったんだろう。
以前の僕なら、父がシュラ先生やルカを糾弾する様を何も考えずにその場に立って聞いていただろう。
それこそ、人形のように。
僕はそうなることを望まれていたから。
そのための、命だから。
視察に同行する。
他の生徒たちが魔法をネラル先生に教わっている所を自分が視察する……不思議な感覚だ。
「テオドール」
「何か?」
「お前は、テオドール、か?」
「息子の顔をお忘れですか?」
「この寄宿学校で、何があった?お前があのような態度を取るとは……」
「気づいたんですよ、自分が人間だと。いえ、教わったんです」
「……」
あぁ、早くこんな無駄な時間は終わらせて、自分もみんなと一緒に学びたい。
三人は今頃何を学んでるんだろう?
魔法も剣術も特にこれといったこともなく、最後に国政を学んでいる場へ向かう途中の中庭でルカを見つける。
一人で、何をしてるんだろう?
二人はいないけど……。
僕は気づくかな?と思いつつ、軽く手を振ると、ルカも気づいて大きく振り返してくれた。
可愛いなぁ。
殺伐とした気持ちがふっと軽くなる。
ルカの存在に気づいたフォルクス様とシュラ先生が何か言葉を交わし、フォルクス様がルカの所に歩いていかれ、何か言葉を交わしている。
大丈夫かな……ちゃんと宰相閣下だと分かって会話してるかな……。
フォルクス様が険しい顔で帰ってこられた。
こんな表情のフォルクス様は初めてで、僕もシュラ先生も驚いている。
ルカはその場に立ち尽くしたままだ。
フォルクス様は何かシュラ先生と会話を交わし、足早に次の視察に向かわれた。
ルカ……何をしたの!!
ハラハラした気持ちが全面に表情に出ていることにも気づかず、僕はフォルクス様とシュラ先生を追った。
そんな僕の表情を、父が凝視していたことにも気づかずに。
23
お気に入りに追加
3,808
あなたにおすすめの小説
【完結】別れ……ますよね?
325号室の住人
BL
☆全3話、完結済
僕の恋人は、テレビドラマに数多く出演する俳優を生業としている。
ある朝、テレビから流れてきたニュースに、僕は恋人との別れを決意した。
悪役令息に転生して絶望していたら王国至宝のエルフ様にヨシヨシしてもらえるので、頑張って生きたいと思います!
梻メギ
BL
「あ…もう、駄目だ」プツリと糸が切れるように限界を迎え死に至ったブラック企業に勤める主人公は、目覚めると悪役令息になっていた。どのルートを辿っても断罪確定な悪役令息に生まれ変わったことに絶望した主人公は、頑張る意欲そして生きる気力を失い床に伏してしまう。そんな、人生の何もかもに絶望した主人公の元へ王国お抱えのエルフ様がやってきて───!?
【王国至宝のエルフ様×元社畜のお疲れ悪役令息】
▼この作品と出会ってくださり、ありがとうございます!初投稿になります、どうか温かい目で見守っていただけますと幸いです。
▼こちらの作品はムーンライトノベルズ様にも投稿しております。
▼毎日18時投稿予定
もう人気者とは付き合っていられません
花果唯
BL
僕の恋人は頭も良くて、顔も良くておまけに優しい。
モテるのは当然だ。でも――。
『たまには二人だけで過ごしたい』
そう願うのは、贅沢なのだろうか。
いや、そんな人を好きになった僕の方が間違っていたのだ。
「好きなのは君だ」なんて言葉に縋って耐えてきたけど、それが間違いだったってことに、ようやく気がついた。さようなら。
ちょうど生徒会の補佐をしないかと誘われたし、そっちの方に専念します。
生徒会長が格好いいから見ていて癒やされるし、一石二鳥です。
※ライトBL学園モノ ※2024再公開・改稿中
美貌の騎士候補生は、愛する人を快楽漬けにして飼い慣らす〜僕から逃げないで愛させて〜
飛鷹
BL
騎士養成学校に在席しているパスティには秘密がある。
でも、それを誰かに言うつもりはなく、目的を達成したら静かに自国に戻るつもりだった。
しかし美貌の騎士候補生に捕まり、快楽漬けにされ、甘く喘がされてしまう。
秘密を抱えたまま、パスティは幸せになれるのか。
美貌の騎士候補生のカーディアスは何を考えてパスティに付きまとうのか……。
秘密を抱えた二人が幸せになるまでのお話。
主人公のライバルポジにいるようなので、主人公のカッコ可愛さを特等席で愛でたいと思います。
小鷹けい
BL
以前、なろうサイトさまに途中まであげて、結局書きかけのまま放置していたものになります(アカウントごと削除済み)タイトルさえもうろ覚え。
そのうち続きを書くぞ、の意気込みついでに数話分投稿させていただきます。
先輩×後輩
攻略キャラ×当て馬キャラ
総受けではありません。
嫌われ→からの溺愛。こちらも面倒くさい拗らせ攻めです。
ある日、目が覚めたら大好きだったBLゲームの当て馬キャラになっていた。死んだ覚えはないが、そのキャラクターとして生きてきた期間の記憶もある。
だけど、ここでひとつ問題が……。『おれ』の推し、『僕』が今まで嫌がらせし続けてきた、このゲームの主人公キャラなんだよね……。
え、イジめなきゃダメなの??死ぬほど嫌なんだけど。絶対嫌でしょ……。
でも、主人公が攻略キャラとBLしてるところはなんとしても見たい!!ひっそりと。なんなら近くで見たい!!
……って、なったライバルポジとして生きることになった『おれ(僕)』が、主人公と仲良くしつつ、攻略キャラを巻き込んでひっそり推し活する……みたいな話です。
本来なら当て馬キャラとして冷たくあしらわれ、手酷くフラれるはずの『ハルカ先輩』から、バグなのかなんなのか徐々に距離を詰めてこられて戸惑いまくる当て馬の話。
こちらは、ゆるゆる不定期更新になります。
突然異世界転移させられたと思ったら騎士に拾われて執事にされて愛されています
ブラフ
BL
学校からの帰宅中、突然マンホールが光って知らない場所にいた神田伊織は森の中を彷徨っていた
魔獣に襲われ通りかかった騎士に助けてもらったところ、なぜだか騎士にいたく気に入られて屋敷に連れて帰られて執事となった。
そこまではよかったがなぜだか騎士に別の意味で気に入られていたのだった。
だがその騎士にも秘密があった―――。
その秘密を知り、伊織はどう決断していくのか。
転生悪役令息、雌落ち回避で溺愛地獄!?義兄がラスボスです!
めがねあざらし
BL
人気BLゲーム『ノエル』の悪役令息リアムに転生した俺。
ゲームの中では「雌落ちエンド」しか用意されていない絶望的な未来が待っている。
兄の過剰な溺愛をかわしながらフラグを回避しようと奮闘する俺だが、いつしか兄の目に奇妙な影が──。
義兄の溺愛が執着へと変わり、ついには「ラスボス化」!?
このままじゃゲームオーバー確定!?俺は義兄を救い、ハッピーエンドを迎えられるのか……。
※タイトル変更(2024/11/27)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる