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それぞれの始まり~バーン~

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努力……?
そんな言葉で片付けられるものならいくらでもする。
早朝からの鍛練も詠唱の暗記も歴史書の読破も、なんら苦痛ではない。
やれることはすべてやる。
私はこの国の全土に名を轟かせるのだ。
救国の騎士ルカのように。
それが、私の使命。
我が命はそのためだけに在る。

それなのに。

お前のためにこの命を捧げるのも悪くはないと思った私を……貴女は叱るだろうか?





円形の中庭に剣術を志す者たちが集まる。
もちろん、中には魔力不足で魔法士になれなかった者もいるだろう。
基本的に剣術を志す者は魔法が不得手な者が多い。
この国では魔力量の多さをそのまま価値とする風潮がある。
その元は貴族の血筋に魔力の多い子息が生まれるからだ。
だからこそ、もし魔力量が少なく生まれた場合は剣術で身を立てるしかない。
この場にいる者も、ほぼその流れだろう。
私のように、魔力量も多い上に剣術をも身に付けようとする者は少ない。
中途半端になるからだ。
もちろん、私はそんな愚行は犯さない。

「バーン様、今日はご一緒できて光栄です。まだ、剣術に長けている訳ではありませんので、ぜひご指導を……」
……親しげに声をかけてきたこの男……子爵のライル!
コイツがルカに毒を……。
もちろん、証拠もないのにそのことを持ち出したりしない。

しかし、私に話しかけてくるとは……毒を口にしたのは私とテオドールだと知らないのか。
「話しかけるな。私は気分が優れない」
「失礼しました!」
慌てて去っていく。
小物だな。
よくこんな小物が毒を……あぁ、ルカが平民だからか。
もし、私が「お前が差し向けた毒を口にしたのは私とテオドールだ」などと告げたら、腰を抜かすかもしれないな。

そのライルの周囲には数人取り巻きがいて、私に無碍にされたライルが荒々しく接している。
同じ子爵家といえど、その治める地などにより多少の優劣が生じる。
小物ほどその優劣に敏感だ。

確かに、あの関係性ならば、ライルに毒を、と言われれば平民に毒を飲ませることなど容易に行うのだろう。

反吐が出る。
ライルにも、その取り巻きにも。

「お待たせしました」
指導をする者は……ネラル先生か。
剣術の指導をするような感じではないが……。

「えー、剣術においてはある程度までは各自で鍛えてもらいます。実践あるのみ。まず、今日は勝ち抜き戦で、各々の実力を見ますから。私がいますので、死なない程度でしたら攻撃してもらって構いません。武器はそこにある物を」

ネラル先生が指差す方向を見ると、様々な種類の武器が用意されていた。
剣、短剣、槍、棍棒、弓……すべて実戦用のものだ。
これが身体にあたれば、確かに怪我をする。
ネラル先生が来る訳か。

私が最も得意とするのは剣だ。

「勝ち抜き戦とは言いましたが、特に順番などは決めていません。やりたい方からどうぞ。相手を指名しても構いませんよ」

そうか。
微笑みを浮かべ、挙手をする。
「バーン。貴方が一番手に?相手はどうしますか?」
「……では、そこのライルに」
一瞬、ことの顛末を知っているネラル先生が表情を変えた。
しかし、ネラル先生自身が相手を選んでもかまわないと言った以上、私の選択を無視もできない。
もちろん、何も知らない他の者にライルを選ばせない訳を説明もできず、仕方がない、といった様子で頷いた。

「回復魔法の範囲で、ですよ?」
私が勝つとは思って頂いているようだ。

「武器は?まずはライルから選びなさい」
ライルは自分が私に選ばれたのだと得意気だ。
顔も興奮し紅潮している。
「では、短剣で」

先ほど、剣術には長けていないと言っていたので、まぁ、妥当な選択だ。
重い武器は扱えないだろう。

「バーンは?」
「私はこれで」

場の空気が変わる。
ネラル先生も、私の手にした武器を見て、ため息をついた。
ライルは、先ほどまでの得意気な表情を一変させ、ぶるぶると震えていた。
自分は私の相手に相応しいと選ばれた訳ではない、と皆に知らしめられたからだ。

私が手にしたのは武器の間に転がっていた木の枝だ。
風で折れ、飛んできたのだろう。まだ葉もついている。
子供でも扱える大きさだ。

「……好きにしなさい。両者、前へ」
ネラル先生は仕方がないと言った様子で、続行を決めた。

中庭の真ん中で、ライルと対峙する。
「殺す気で来い」
不敵に笑い、挑発する。
「……傷を負わせても、恨まないで下さいね?」
ライルが短剣を構える。
ふっ、私に傷を負わせるつもりか?
笑わせる。

「始め」

ネラル先生の声が響いたと同時にライルが短剣を持ち、突進してくる。
私は微動だにせず、その短剣が私の右手を狙っていると察し、躱すと同時に木の枝をその右腕に突き刺した。

「ぐあぁぁぁぁぁぁっ」
ライルの絶叫が響く。
右腕から流れ落ちる鮮血を押さえながら、地面をのたうち回っている。
私はそんな絶叫など聞こえていないかの如く平然と近づき、突き刺した木の枝を引き抜く。
「がぁっ、あぁぁっあぁあっ」
ライルは地面を虫のようにうねうねと動き回っている。
見苦しい。
血に濡れた木の枝を持ち、そのまま蠢くライルに振りかざした瞬間、
「終わりです!」
ネラル先生の声が響く。

もう、終わりか。
目でも突いてやろうと思っていたのに。

ネラル先生は回復魔法を唱えているようだ。
ライルの口からはひゅーひゅーと音がしている。
ネラル先生の回復魔法により傷は回復し、痛みもないはずだが、震えが止まらないようだ。
ネラル先生の指示でライルは医務室に運ばれていった。

「バーン、やりすぎです。あの一撃で勝負はついていた。一人の相手に固執することは戦況を不利にさせる可能性があります。反撃できない状態であれば、もう追撃はしない。基本ですよ」
「……はい」

言われるまで、そんなことにも気づかなかった。
冷静でいたつもりが……いつからライルへの怒りで我を忘れていたのか。
ネラル先生に止められなければ、回復魔法も追い付かないほどの致命傷を与えていた。

私は自分が思っているよりも、ルカに手を出されたことに怒っていたのか。
ルカの存在が……私の思っている以上にこんなにも私の心を占めている。

制御、しなければ。

ルカの存在を自分の足枷にしてはいけない。
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