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それぞれの始まり

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良い朝だ。
今日から、各々別々に学ぶことになる。

テオは魔法、バーンは剣術、クリフトは国政。
最初は多かった寄宿生も少なくなり、各十人程度の少人数での授業だ。

まぁ、俺は一人なんだけど……遅れてるから……。
もちろん、すぐ追い付くつもりだ!

クリフトと一緒に医務室に行くと、もうテオとバーンは自分の部屋に戻ったらしい。

まずは、テオを迎えに行く。
部屋をノックすると、もう制服を身に付け、準備万端なテオが出てきた。
「迎えにきてくれたんだね、ありがとう」
もう、声も元気そうでほっとする。
「テオ、体は平気か?」
「うん。もうダルさもなくなったよ。ちゃんと初日の授業に参加できて良かった」
お互い微笑み合う。
「バーンの様子も見に行こうと思ってるんだ」
「じゃあ、僕も一緒に行くよ」

三人で廊下に出た所でちょうどバーンも自室から出てきた。

「バーン!どうだ?体は大丈夫か?」
「問題ない。朝の鍛練もしたが、体の動きもいつも通りだった」
「良かった」

とりあえず、授業の妨げにはならなかったみたいで、安心した。
それでも、二人は攻めないが、俺の代わりになったせいで苦しんだんだ。
そのことを、俺は忘れてはいけない。

「ルカは先生と二人で補習授業ですよね?」
「そ、そうだ!すぐ追い付くから」

何をするんだろう……暗記かなぁ……。

「みんなはもう授業の内容は決まってるのか?」
「いえ、知らされてません」
テオもバーンも頷く。

「じゃあ、またどんな感じだったか教えてくれよな!」
「そうだね」
「あぁ」
「解りました」

俺たちは講堂の前で分かれた。

俺は一人、昨日指定されていた教室に入る。
誰もいない。
少し、椅子に座って待っていると、教室をノックする音がする。
「はい」
「お待たせ」
「えっ」

シュルツだ。

「私が今日からルカを教えるわ。よろしくね」
「えっ、お前、いや、シュラ先生が直接?ここのトップが落ちこぼれ指導でいいのか?」
「ルカ、貴方自分で落ちこぼれとか思ってるのね?そんなことでは困るわよ、師匠」

シュルツに笑われる。
かつての教え子に……気まずい。

「さて、ルカに歴史やら教えても仕方ないんだから、その辺はもういいわ。昔も、私にそんなこと教えてくれなかったしね?実践あるのみ、でしょ?」
「えっ、いいのか?」
俺の顔はたぶん輝いてる。
座学……嫌いなんだよ……。
いや、大切なのは分かるんだけど、俺には向いてない。

「まず、ルカ、貴方、魔法は使ったことあるの?」
「ない」
即答だ。

木こりの息子は魔法なんて使えないんだから、俺が使えるのはおかしい。
あくまで、今の俺ができることしかやってこなかった。

「じゃあ、使えるの?」
「分からん」
これも即答だ。
使ったことないから、使えるかどうかも分からない。

「じゃあ、まずはそこから、ね」
「おー」

試しに魔法を使って大爆発を起こしたりするのはまずいから、普通の授業は結界を張っている部屋で行うらしい。
その部屋は魔法コースの奴らが使っているので、シュルツが特別にこの部屋に結界を張った。

「まずは攻撃魔法から。防御からやりたいけど、万が一でも傷つけたくないから。私がそこに幻影で対象を作るから、そこに攻撃魔法を。火水土風どれでもいいわ」
「了解」

教室の一角に黒い幻影が現れる。
攻撃魔法……とりあえず、何か打ってみるか。
弱めでいいかな……いや、最大値知っておいた方がいいのか?
いや、それは今度正式な部屋で試すとして、今回はあの幻影を消すくらいのつもりでやるか。
実践だからな。

火……いや、消すなら火と風で爆風にするか。
俺は瞳を閉じ、内の魔力を高めながら練り、無詠唱で放つ。

その瞬間。

轟音と共に部屋中に大爆発が起きた。
目の前にその爆風が迫る。
ヤバい。
そう思った瞬間に
「ルカッ!」
シュルツが俺の眼前に転移し、防護壁をはった。
風の圧を一瞬感じたものの、すぐに収まり部屋に静寂が訪れる。

幻影は吹き飛んだが、なんとか結界のおかげで部屋は無傷だった。
俺もシュルツの防護壁のおかげで無事だ。

「大丈夫なの!?」
シュルツに詰め寄られたが、俺は何ともない。
「わ、わりぃ」
まさか、こんな大爆発になると思ってなかった。
シュルツが防護壁で守ってくれなかったら大怪我だっただろう。

「どういうこと?なぜ、最大値で放ったの?魔法使ったことないのよね?しかも、火と風を混ぜたわね?そんな高位魔法を無詠唱、しかも、一瞬で、簡単に放つなんて……」
「あの、最大値じゃないんだ。加減がちょっと分からなくてな。あの影を消すには爆風がいいかなーって思って試してみたくて……」

俺の言葉を聞いたシュルツは呆気にとられた後、その美しい赤髪を乱雑に掻きむしる。
「相変わらず、とんっでもないわね!」

そこから、俺は魔法を試すことは許されず、ずっとシュルツの小言を聞く羽目になった。
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