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医務室にて~テオドール&バーン視点~

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ルカとクリフトが自室に戻った。

「ふーっ」

僕もバーンも腹から息を吐く。
正直、話すのもキツかった。
毒のせいか解毒の副作用か分からないけど、全身の倦怠感と頭痛。
なんとかルカの前では平然としていられた。
正直、僕はギリギリだった。
あと少しでも長ければ、顔をゆがめていたかもしれない。
目を閉じ、力を抜き、ベッドに全身を委ねる。

「テオドール、よく耐えたな」
「ギリギリだよ」

目を開け、横のバーンをちらりと見る。
身体を鍛えているバーンは回復も早いのか、ルカ達と話していた時と同じように上半身を起こした常態のままでいる。

「もう、寝たら?二人ともいないから無理しなくても」
「いや、こんな毒で休んでいる場合ではない。いつ、またルカが狙われるか……私が守ってやらないと」
「さすがに、すぐはないよ。あいつらも、先生方が警戒している今はやらない。むしろ、休める時に休んで回復しないと」
「……そうだな」

バーンも珍しく素直に従って、ベッドに横たわった。

「まさか、昔からやらされていた毒に慣らすことが役に立つなんてね」
医務室の天井を見ながら、泣きながら毒を飲まされていた幼少期を思い出す。
「そうだな。ルカがもし口にしていたらと思うと……」

二人とも、ぐっと押し黙る。
もし、ルカが……想像するのも嫌だ。
こんなに心を許した相手は初めてだった。
それなのに、目の前からいなくなってしまったら……正気ではいられないかもしれない。

ルカはそもそも危うかった。
田舎の木こりの息子として育ったからこそなのか、天真爛漫で人を疑うことを知らない。
悪意ある言葉も、それが悪意だと気づかない。
自分の中に、そういった考えがないからだろう。
だからこそ、僕やバーン、クリフトは警戒していた。
必ず、害するものが現れるとは思っていた。
それが、こんなに早く、しかも命に関わるほどの毒だとは……。
今回のことで、ルカも自分で警戒するようになるだろう。
その方が守りやすい。
ルカには知らずにそのままでいて欲しかった気もするが……。

「クリフトの話も……貴族として耳が痛かったな……」
バーンの言葉に頷く。
典型的な貴族主義のもたらす悪弊だ。
命は皆平等などという綺麗事を言うつもりはない。
でも、命は尊いものだ。
そんなことも分からない、愚かな貴族は掃き捨てるほどいるのが現実。
「バーンはどう思ってた?本当は?」




テオドールの声に力が戻ってきている。
さすが、魔力量を高めるために死線をくぐってきただけはある。
私よりも、回復は早いな。
テオドールは私の方が毒に強いと思っているかもしれないが、そんなことはない。
ただ、弱っている所を見せない術に長けているだけのこと。

「どう思った……というのは貴族主義のことか?下らない。命は平等だ」
テオドールが意外そうな顔をして見ている。
「そんなことを言っている私が意外か?命ぐらい、平等でもいいだろう?他が平等ではないのだから」
そう。
平等ではない。
なにもかもが。
そんなことは、私が一番分かっている。

「クリフトはルカのこと、これからますます本気になるね。あの顔見た?ルカを見る目が心酔してた。過去のことできっとルカが救いになったんだろうね。負けてられない。ただでさえ、今回のことでルカは貴族に対して嫌悪感を抱いただろ……不利だ」
「ルカは肩書で人を見ていない」
「それでもさー、過去の傷がまた開いたクリフトにキスでもせがまれたら、してあげそうじゃない?」
「なっ……なっ……」

そんなはずないだろう!
キ、キスなど……ルカとキス……。

「……バーンさぁ、何でそんなに性的なことに敏感なの?高位の貴族なんだから、閨の教育受けてるよね?」
「……していない。そんなもの、吐き気がする」
「えぇっ!?」
テオドールが心底意外そうな顔で見てくる。
冗談じゃない。
そんなもの、書物で十分だ。
好意のない相手と肌を合わせてどうする。
誰にも劣情を抱いたことはない。
ルカに会うまでは。
なぜ、こんなにも惹かれるのか……分からない。
ただの、田舎の少年だ。
見目も、特別麗しい訳でもない。
なのに、あの黒い瞳に見つめられると、すべてを見透かされているような不思議な気持ちになる。
それが、まさか少し触れられたくらいで……。
父の差し金か、寝台に忍び込んできた全裸の女に身体をまさぐられたことだってある。
男も同様に。
それでも、私は何一つ反応することはなかった。
興味もなかった。
それが、ルカとキスというだけで、その唇の感触を想像するだけで、滾りそうだ。

「童貞をこじらせてるのか……」
テオドールの憐れんだ声が聞こえる。
「テオドール、そんなことを言う貴様はあるのか?」
「そりゃ、あるでしょ」
「なっ……」

信じられん!!

「まぁ、好きな人は抱いたことないから、そこはバーンと一緒だよ?あ、ルカには言わないでね」

何が一緒だ!
こいつ……清純そうな顔して……。
もちろん、ルカに言ったりなどしない。
そんな卑怯な真似はしない。

「ルカは初めてだろうから、僕は君と違ってがっつかずに優しく抱いてあげられると思う。僕の方がルカも楽しめていいよ」
「ふっざけるな!お前などに誰が渡すか!!」
「興奮しないの。身体に障るよ?……バーンはそのくらいの方が張り合いがあっていい。じゃあ、僕寝るから」

……貴族主義の話をしていた時に少し気持ちが翳ったことを悟られていたのか。
わざわざ、私を怒らせるように仕向けたな。
テオドール、お前もやはり変わった。
父に連れられたお前は、ただの人形のように感情がこもっていない瞳で笑っていた。

ルカ……お前はいろんな人間を変える。
良くも悪くも。
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