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罪の在処

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翌朝、ネラル先生から二人が意識を取り戻したと聞き、クリフトと医務室へ急いだ。

「テオ!バーン!」
「静かに!」

勢いよく部屋に入ると、医務室の先生に怒られた。
気持ちが焦ってしまった。

「ルカ、心配かけたね」
「もう大丈夫だ」

二人ともまだ少し声に元気がないが、顔色は悪くない。
本当に良かった。

「お二人に、話が、あります」

クリフトは視線を床に落としていたが、覚悟を決めたように顔を上げた。

昨日俺が聞いたクリフトの過去の胸糞悪い話。
今でも信じられない。
命の価値が平等じゃない?
そんな訳あるか!

二人は表情も変えず、クリフトの話を聞いていた。
クリフトは苦しそうな声音だったが、あくまで事実のみを伝えている。

テオは開口一番、
「バカな貴族の典型だ」
と言った。
「救いようがない」 
バーンも、顔は無表情だが、怒りに満ちた声音だった。

「クリフトの潔癖症はここからきてたんだね。確かに、そんなことがあったら人が触れた物や、特に食材に嫌悪感を感じるのは仕方ないね。ルカが作った物が食べられるってことも、絶対的に信頼してるから、ってことか」

クリフトは苦笑しながら頷く。
それは、嬉しいな!

「この話をしたのは、三人が初めてです。やっと、胸の内を話せて……少し楽になりました」
クリフトが一瞬顔をほころばせたが、また元の厳しい顔に戻る。

「過去のことは過去のことです。今回のこととは関係ありません。たぶん、ルカが思った通り、廊下で出会った奴らの仕業ではないかと思います」
「廊下で会った奴ら?」

今度は俺が説明する番だ。
俺も昨日あったことを説明した。

「怪しいな」
やはり、バーンもそう思うか!
「容姿は?どんな感じ?」

「容姿……茶色の髪で普通の顔だ。食堂で会った気がするんだけどな……。イマイチ思い出せないんだ……。あっ、テオと話してた奴だ!思い出した!!」
「僕と?……あぁ、子爵家のライルだね。周囲にいつも自分の取り巻きを連れてる。同じ子爵家の連中だけど、ライルの子分みたいに使われてるから、ライルに同調して毒も入れかねない」
「しかし、高位貴族のお二人に毒を入れるなんて大それたことができるでしょうか?」
「そこ、だね……」

三人がうーん、と考え込んでいる。

「俺、そういえば、お前たちに作って食べさせるって言ってないかも」
「え?」
三人の声がハモる。
「普通に作って食べるってことしか言ってないから、俺を狙っただけかも」
「それ、だね……」
「間違いないな」
クリフトも頷く。

「でも、俺、そいつらとちょっと話しただけだぞ?何もやってないのに、毒なんか……」
「ルカ」
「貴族は、平民を害しても罪にはならない」
テオとバーンは真顔だ。

「でも……」
「目障りな平民を苦しめることなんて、遊びのようなものなんです。彼らにとって、悪ふざけにすぎない。それで死んでしまっても、特に何も心は揺れない。動物が消えたくらいの感覚です」
「そ、んな……」

ただ、普通に暮らしていただけで、俺は殺されそうになったのか?
平民というだけで?
そんな道理が通っていいのか?

クリフトの話は、もちろん腹が立った。
一人の命も失われている。
でも、そのことを予想できなかった子供の所業だと思っていた。
制度の、大人達の影響で、自分の行動の是非が分かっていなかった、悲しい結末だと思っていた。

それが。

もう、善悪の判断もつき、毒を口にした後の結果も分かっているのに……それなのにっ……。

この国はそんなに腐ってたのか?
前の俺はそんなことも気づかずに、命をかけて守った。
救国の騎士などと言われているが、外から守っただけだ。

「ルカ……」
いつの間にか強く拳を握りしめていたせいで爪が食い込み血が滲んでいた。
その手をテオがそっと握る。
「大丈夫。僕たちがこれから変えるんだ。そのために、ココに来たんだから。ね?」

「すべての貴族がそんは意識な訳ではない。だが、実態はこうだ。ルカ、お前が毒に触れなくて良かった。これは我々の受けるべき毒だった」
俺のせいで、今も苦しいだろうに。
バーンはそれでも俺を守れて良かったと言う。

「問い詰めても、証拠もなく、はぐらかされるだけです。むしろ、侮辱したと罪に問われる可能性もある。もしかしたら、そこまで考えて組まれているかもしれません。悔しいですが、なす術がない。でも、これで終わるとも思えません。また何か仕掛けてきた時に罪を暴くことができるかもしれない。待てますか?ルカ」
クリフトに問われ、俺は頷く。

正直、悔しいし、俺が罪に問われようと二人にしたことを認めさせたいが、実際毒を口にした二人が行動を起こさないと決めたのなら、俺は二人に従う。

「大人になってるじゃない、ルカ」
声をした方を向くと、シュルツが立っていた。
姿はシュラだ。
いつの間に部屋にいたのか。
また転移魔法だな。

「二人、体調は大丈夫そうね?話は聞いたわ。賢い選択よ。貴方達の中でそう決めたのなら、こちら側からは何もしないわ。常に警戒を怠らないこと。特に、ルカ」
「分かってます」
「そう?」
妖艶に微笑むと、俺の近くまで歩みより、三人には聞こえないように耳元で囁く。
「ルカにもしものことがあったら、この寄宿舎にいるガキは全員殺すわ」
「なっ……」

驚きの声をあげた俺を三人は不思議そうに見ている。

「みんなを守るためにも、自分のことを大切に、ね?」
また転移魔法で消えた。

なんで、みんな殺すって脅してきたんだ!?
ま、まぁ、それは冗談だろうが、それくらい警戒しろということだよな。

「シュラ先生は何を?」
「え?えっと、また何か起こったら連帯責任で辞めさせるぞって」
「あぁ」

さすがに、過激な発言は伝えないでおこう。
冗談でも。うん。

まだ病み上がりの二人を残し、俺たちは自室へ帰ることにした。
明日から授業は再開されると帰り際に医務室の先生から伝えられる。

もう、気は抜けない。
ここは戦場だ。
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