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ルカの選択
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もちろん、俺の全員で乗り込む案はネラル先生に鼻で笑われた。
休憩後に俺が挙手すると、三人が驚愕した表情で俺を見たからな……。
三人は冗談だったんだろうが、俺は本気だった。
「あの時のルカと言いましたよね?今の貴方のことじゃないんですよ?あの時のルカの周囲にその三人はいませんよね?意味分かりますね?」
うぅ……子供に諭すように言われた……。
他の奴らにもクスクス笑われる。
「あら。私はその考え嫌いじゃないけど?」
後方から声がする。
「シュ……シュラ先生」
危ない。またシュルツと言いそうになる。
今までも気づかなかったけど後方にいたのか?
あの目立つ赤髪に気づかないはずないか……気配を消していたのかな?
シュラ姿のシュルツは席に着き、机に頬杖をついた姿でこちらを見ていた。
見事な赤髪は高く結わえ、前と同じように身体のラインを強調したドレスにローブを羽織っている。
寄宿生たちはシュラの姿を見たとたんに色めきだつ。
まぁ、男ばっかりだし、美人なお姉さんって、男はみんな好きだよな……。
まぁ、俺にとってはいつまでも可愛いシュルツなんだけど。
「シュラ先生、授業の邪魔はしないで下さい」
「邪魔じゃないわよ。見学してたら面白い意見だったから擁護したいと思っただけよ」
ゆっくりと立ち上がると、そのまま前へと歩く。
俺たちの列の横を通る時に、ふと俺を見つめ、笑顔になる。
俺は苦笑で返した。
歩きながら、皆に聞こえるように話し始める。
「あの時のルカの側にも優秀な魔法師や騎士もいたわ。転移魔法でディーグに飛ぶことも可能。召集する時間もあった。では、なぜそうしなかったか分かるかしら?」
ネラル先生の横に登壇した。
「ネラル、貴方は分かる?」
ネラル先生を見て微笑むと、反対にネラル先生は苦虫を噛み潰したような顔をした。
「……まずは寄宿生に聞きましょう。誰か挙手を」
テオが挙手する。
「テオドール」
「ディーグに数人が向かっても多勢に無勢、ということではないでしょうか」
シュルツとネラル先生が目を合わせる。
シュルツが薄く微笑む。
口を開いたのはネラル先生だった。
「魔法師は数ではありません。騎士として対峙するならば数は重要ですが、ディーグに騎士はいない。全て魔法師と考えるならば、数多の魔法師よりもたった一人の強大な力を有する魔法師がいれば、いずれ殲滅できます」
バーンが挙手する。
「バーン」
「場所を正確に特定できていなければ、転移魔法は使えません。ディーグ側もそれを見越して秘匿していたのでは?」
また口を開くのはネラル先生だ。
「場所は特定できていました。あの時は一ヵ所に当時のディーグの魔法師が集められていましたから。ディーグ側も隠そうとはしてませんでした。背水の陣、でしたからね」
クリフトが挙手する。
「クリフト」
「しなかったのではなく、できなかった、のでは?命懸けになりますから、誰の同意も得られなかった、とは考えられませんか?」
やはり、ネラル先生が答える。
「国の危機ですよ?まぁ、もちろん国の中枢にいる者すべてが、とは言いませんが、少なくともルカが自分の近くにいることを許した者たちは喜んでディーグに乗り込んだと思いますよ」
挙手する者が誰もいなくなる。
「もう意見はないみたいね。では、ネラル先生?回答をどうぞ」
シュルツのからかうような口調にため息をつきながら、ネラル先生は皆に聞こえるように言った。
「最善ではないからです。ルカを含めた精鋭でディーグに向かっても、もちろん止められたでしょうが、ディーグ側もそれは想定していた。必ず、何か罠があったでしょうから、犠牲が出たでしょう。それをよしとしなかった。先ほど、問いを出しましたが、答えなどありません。ルカの行動こそ、最善です。あれからいろんな方法を考えましたが、ルカの取った行動以上のものはありません。それを瞬時に考え、行動に移す。ルカの偉大さです。我々は民を導く側として、常に最善を選びとらなければいけない。それを肝に銘じるように」
パチパチ。
シュルツの拍手の音が響く。
「これが模範解答よ。ルカは完璧だった。あれ以上の選択はないの。他にいくらでも選択はあったのよ。民の中にはルカが追い込まれて自らを犠牲にしたと思ってる者もいるけれど、そうじゃないの。この国の民にとって、それが最善だから、そうした。……でも、それはルカのことを愛していた者たちにとっては、最悪の道。他の道を選んで欲しかった」
当時のことを思い出してか、シュルツの顔が曇る。
「今、この場にいる子達は、いつか選択を迫られるかもしれない。その時に、国にとっての最善を、例え愛する者にとっての最悪であっても、選びとることができる?常に、このことを考えなさい。これが、この基礎的な授業の最後にこれを選んだ理由よ」
静まり返っている。
まだ、学び始めた段階の者たちには重い話だった。
「ルカ」
「はい」
突然、シュルツから呼び掛けられる。
「貴方の意見はきっとルカは思いつかなかったと思うわ。自分以外の誰かが犠牲になるかもしれない選択なんてね。優しい人だから……だから、思いついてくれて、嬉しかったわ」
シュルツ……。
そうだな。
そんな選択はなかった。
二人は最善を選択したと言うが、俺にはこの一択しかなかった。
見えてなかったんだよな。
こうやって、皆で話し合って、選びとれば良かったのに。
たった一人で決めて、走ったんだ。
後ろに残された者たちのことを見ないふりして。
休憩後に俺が挙手すると、三人が驚愕した表情で俺を見たからな……。
三人は冗談だったんだろうが、俺は本気だった。
「あの時のルカと言いましたよね?今の貴方のことじゃないんですよ?あの時のルカの周囲にその三人はいませんよね?意味分かりますね?」
うぅ……子供に諭すように言われた……。
他の奴らにもクスクス笑われる。
「あら。私はその考え嫌いじゃないけど?」
後方から声がする。
「シュ……シュラ先生」
危ない。またシュルツと言いそうになる。
今までも気づかなかったけど後方にいたのか?
あの目立つ赤髪に気づかないはずないか……気配を消していたのかな?
シュラ姿のシュルツは席に着き、机に頬杖をついた姿でこちらを見ていた。
見事な赤髪は高く結わえ、前と同じように身体のラインを強調したドレスにローブを羽織っている。
寄宿生たちはシュラの姿を見たとたんに色めきだつ。
まぁ、男ばっかりだし、美人なお姉さんって、男はみんな好きだよな……。
まぁ、俺にとってはいつまでも可愛いシュルツなんだけど。
「シュラ先生、授業の邪魔はしないで下さい」
「邪魔じゃないわよ。見学してたら面白い意見だったから擁護したいと思っただけよ」
ゆっくりと立ち上がると、そのまま前へと歩く。
俺たちの列の横を通る時に、ふと俺を見つめ、笑顔になる。
俺は苦笑で返した。
歩きながら、皆に聞こえるように話し始める。
「あの時のルカの側にも優秀な魔法師や騎士もいたわ。転移魔法でディーグに飛ぶことも可能。召集する時間もあった。では、なぜそうしなかったか分かるかしら?」
ネラル先生の横に登壇した。
「ネラル、貴方は分かる?」
ネラル先生を見て微笑むと、反対にネラル先生は苦虫を噛み潰したような顔をした。
「……まずは寄宿生に聞きましょう。誰か挙手を」
テオが挙手する。
「テオドール」
「ディーグに数人が向かっても多勢に無勢、ということではないでしょうか」
シュルツとネラル先生が目を合わせる。
シュルツが薄く微笑む。
口を開いたのはネラル先生だった。
「魔法師は数ではありません。騎士として対峙するならば数は重要ですが、ディーグに騎士はいない。全て魔法師と考えるならば、数多の魔法師よりもたった一人の強大な力を有する魔法師がいれば、いずれ殲滅できます」
バーンが挙手する。
「バーン」
「場所を正確に特定できていなければ、転移魔法は使えません。ディーグ側もそれを見越して秘匿していたのでは?」
また口を開くのはネラル先生だ。
「場所は特定できていました。あの時は一ヵ所に当時のディーグの魔法師が集められていましたから。ディーグ側も隠そうとはしてませんでした。背水の陣、でしたからね」
クリフトが挙手する。
「クリフト」
「しなかったのではなく、できなかった、のでは?命懸けになりますから、誰の同意も得られなかった、とは考えられませんか?」
やはり、ネラル先生が答える。
「国の危機ですよ?まぁ、もちろん国の中枢にいる者すべてが、とは言いませんが、少なくともルカが自分の近くにいることを許した者たちは喜んでディーグに乗り込んだと思いますよ」
挙手する者が誰もいなくなる。
「もう意見はないみたいね。では、ネラル先生?回答をどうぞ」
シュルツのからかうような口調にため息をつきながら、ネラル先生は皆に聞こえるように言った。
「最善ではないからです。ルカを含めた精鋭でディーグに向かっても、もちろん止められたでしょうが、ディーグ側もそれは想定していた。必ず、何か罠があったでしょうから、犠牲が出たでしょう。それをよしとしなかった。先ほど、問いを出しましたが、答えなどありません。ルカの行動こそ、最善です。あれからいろんな方法を考えましたが、ルカの取った行動以上のものはありません。それを瞬時に考え、行動に移す。ルカの偉大さです。我々は民を導く側として、常に最善を選びとらなければいけない。それを肝に銘じるように」
パチパチ。
シュルツの拍手の音が響く。
「これが模範解答よ。ルカは完璧だった。あれ以上の選択はないの。他にいくらでも選択はあったのよ。民の中にはルカが追い込まれて自らを犠牲にしたと思ってる者もいるけれど、そうじゃないの。この国の民にとって、それが最善だから、そうした。……でも、それはルカのことを愛していた者たちにとっては、最悪の道。他の道を選んで欲しかった」
当時のことを思い出してか、シュルツの顔が曇る。
「今、この場にいる子達は、いつか選択を迫られるかもしれない。その時に、国にとっての最善を、例え愛する者にとっての最悪であっても、選びとることができる?常に、このことを考えなさい。これが、この基礎的な授業の最後にこれを選んだ理由よ」
静まり返っている。
まだ、学び始めた段階の者たちには重い話だった。
「ルカ」
「はい」
突然、シュルツから呼び掛けられる。
「貴方の意見はきっとルカは思いつかなかったと思うわ。自分以外の誰かが犠牲になるかもしれない選択なんてね。優しい人だから……だから、思いついてくれて、嬉しかったわ」
シュルツ……。
そうだな。
そんな選択はなかった。
二人は最善を選択したと言うが、俺にはこの一択しかなかった。
見えてなかったんだよな。
こうやって、皆で話し合って、選びとれば良かったのに。
たった一人で決めて、走ったんだ。
後ろに残された者たちのことを見ないふりして。
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