前世は救国の騎士だが、今世は平民として生きる!はずが囲われてます!?

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たった一つの望み~シュルツ視点~

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「もう、置いていかないで」

声が震えてしまう。
また消えてしまいそうで、ルカを抱き寄せた腕に力を込める。

「約束して。今なら、役に立てるから。何も言わずにどこかに行かないで」

置いていかれた自分。
どんなに泣き叫んでも、誰にも届かない。

違和感を感じていたのに……いつもならすぐ次に教える魔法について嬉々として説明していた師匠が何も言わなくて。
次の指導の日も、決めないまま別れようとするから追いすがった。
困った顔の師匠が頭を撫でながら最後に言った言葉は、私にとって呪いだった。

「俺がいない時も研鑽しろよ。お前はきっと、すごい魔法師になれる」

すごい魔法師になりたいなんて、一度も思ったことなんてなかった。
でも、声をかけてもらえたことが嬉しくて、頷いた。
本当は、ただ師匠の隣に立っていたかっただけ。
それだけなのに。

師匠は約束を守る。
だから、私と約束はしてくれなかった。
私も師匠との約束を守らないと。
研鑽し、誰もが認める魔法師になるの。
そうすれば、次は、連れていってもらえる……?

あの時の気持ちが甦り、次から次へと涙が溢れる。
もう、一生分泣いたと思ったのに。
ルカの肩口に顔を埋める。

ルカはそんな私の背をゆっくりと撫でる。
あの時の私にしていたように、諭すようにゆっくりと話す。

「お前が役に立たないから連れて行かなかったんじゃないぞ?俺はお前が可愛くて仕方なかったんだ。そんなお前にあんな姿を見せたくなかった」

分かってる。
もし私が役に立てたとしても、師匠は私を連れていかなかったって。
そんなことは分かっているけど、どうして連れていってくれなかったのかと責める資格すら持っていなかった。

今は違う。
だから、約束が欲しい。

「約束して。じゃないと、上に報告して身動きとれないくらいがっちがちに回り固めるわよ」
抱き締める腕に力を込める。
アクラム様やフォルクス様が知れば、こんな寄宿学校で一年間過ごすことなど許すはずがない。
「……分かったよ。約束する。勝手にどこかに行かないし、行く時にはちゃんと言う。これでいいか?」

約束、して、貰えた。

「約束……守ってよ」
子供のような甘えた口調になってしまう。
「俺が約束守らなかったことがあるか?」
ルカがあの日のように頭を撫でる。
約束は必ず守ってくれる。
側に置いてくれる。
「約束してくれるなら、誰にも言わない。もちろん、寄宿学校でも、ちゃんとルカを生徒として扱うわ」
「おぅ。よろしくな」
ルカを抱き締めていた腕をゆるめる。
イイ歳してるのに、子供のように泣いてしまったことが今更ながら恥ずかしくなってきた。
そっと目を拭いながら、元のソファーに座る。

それから、ルカに疑問に思っていたことを聞く。
一連の話はルカが意図したことではないようで、想像の域を出ない。
知識の範疇を越えた話に詰めた息を吐いた。

「あと、なぜ水晶玉を割って目立つようなことをしたの?」
それがなければ、私も注目しなかった。
「そう!お前、ちゃんと寄宿学校の情報は国中に行き渡るようにしろよ!魔力量が少なかったら有料とかきいてないし!あと、女の子は別の学校とかも!知らなかったんだよ……。無料だし、女の子と出会えるって来たらこんなことになってな。無料にするために魔力流したら、割れた」
「割れたって簡単に言わないで。アレが割れるって、前と同じくらい魔力あるってことよね……それを上にバレないように一年間過ごすのは無理じゃない?キキ村に帰ったら?」

呆れた。
相変わらす、無鉄砲だ。
「そんな金ないし」
「出すわよ。私も着いて行くし」
着いていく。絶対に。
約束、したもの。

「んー、ちょっと揺らぐが、あいつらのことも一年間見てやりたいし、シュルツが管轄してるのにいなくなる訳にいかないよ。まぁ、なんとかやってみる!」
「ふーん」
もちろん、この寄宿学校を蔑ろにするつもりはない。
でも、ルカの側にいるためならいくらでも後任を連れてくる。
その理由なら何とでもなるが……あいつらねぇ……。
「あいつらって、ルカを庇った子達のことよね?……相変わらずの人たらし」

知り合ったばかりなのに、すぐ自分の懐に入れる。
ルカの側にいて、好きにならないはずがない。
優秀な人間ほど、特に。
「もちろん、あいつらも何も知らない。ただの友達だ」
「友達だと思ってるのはルカだけなんでしょうけど?」
「おい!失礼だろ!」

はぁっ。
無自覚無意識に人をたらしこむくせに、人の好意に対して鈍感すぎる。

「そういう意味じゃないの。まぁ、気づかなくていいわ」
そう。
気づかなくていい。
ルカの隣をガキ共には渡さない。

「あと!女の子って何?私がいるでしょう?」
「いや、お前は男だろ。って、何でずっと女言葉だ?」
「ずっと女として生きてきたもの。女性の方が私と同じで美意識高いし、ガサツな連中より付き合いやすかったわよ。この口調も気に入ってるの。でも、ルカが呼び方も困るだろうし、戻ろうかしら。貴方の前では身体も男でいたいし、ね」

美しい自分は好き。
女の口調も悪くない。
もちろん、女の身体も。
今まで、この姿でいろんな女を抱いてきたけど、男の姿で抱きたいのはルカだけ。
ルカでしか、勃たない。
今はまだ、早いかしら?
私が雄の顔をしたら……師匠、驚く?

「まぁ、いいわ。しばらくは混乱してもいけないから、女性体のままでいるわ。いずれ、ね」

変化の法を用いて女性体に変わる。

「どう?女の子いなくても、私がいるからいいでしょ?その辺の子よりも美しいしね!」
「お前は男だろって」

そう。
男だよ?
いつか、分からせてあげる。

「まだ聞きたいことはたくさんあるけど、遅くなってもいけないから今日はいいわ。また話しましょうね、ルカ」
「分かった。シュラ先生」

師匠に先生って呼ばれるのね。
立場が逆転するなんて。
お互い、顔を見合わせて笑う。

寄宿舎に戻るルカを見送るために立ち上がると、出口付近でルカが振り返る。

「男でも女でも自信満々に胸を張って生きてるお前が俺は一番好きだよ。変わってなくて、嬉しい」
「……ほんっと、そういうトコ、ルカも変わってない」

顔を見たくなくて、執務室から追い出す。

いつもそう。
いつも私の味方でいてくれた。
誰よりも肯定してくれた。
……私だけ、どんどん好きになっていく。

はぁっ。
一人になった執務室で、何度目かの息を吐く。
精神的に疲れすぎて、そのままソファーに倒れこんだ。

姿形は変わっても、ルカはやはりルカだ。
心を捕らえて離さない。
きっと、それは私だけではない。

「一年間……お二人から逃げ切れるかしら」

脳裏にお二人の姿を思い浮かべる。
ルカが何も起こさないように平穏を願いながら、再び出会えたことを神に感謝しつつ、そっと瞳を閉じた。
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