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寄宿学校のトップ

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あっ、やべ。

あまりの衝撃で立ち上がってしまった。

「そこのコ、どうしたの?」

えーっと、えーっと、どう誤魔化せば……。

「あ、あの、突然現れたので、驚いてしまいまして……」

転移魔法見たことないって感じで逃げ切ろう。

誤魔化し笑いをしながら、ゆっくりと座る。

「あら。転移魔法はけっこう一般的だけど、見たことなかった?」
「田舎者なので……へへ」

もう、俺のことはそっとしといてくれー!
誤魔化し笑いがつらすぎる。

「まぁ、いいわ」

よ、良かったー!

「この、ルーツ寄宿学校は私が管轄しているからにはどんなコも叩き上げるわ。ついてこられないなら、転学しなさい」

シュルツは不適に笑った。

わー。
シュルツ、変わったなぁ~。
前はオドオドしてる奴だったのに。
でも、三人みたいに上を目指す奴はココで良かったな。
シュルツは昔から魔法の実力があった。
剣術は小柄さを活かし、相手の懐に入るのが上手かったし、頭も良かった。

二人で稽古した日々を思い出す。

アクラムやフォルクスにも会える日がくるんだろうか……。
いや、今回が特別か。
たまたまこの寄宿学校に通うことにしたから、シュルツに会えたんだ。

無料でもなく、女の子とも出会えなかったが、シュルツに会えただけで甲斐があった。
ルカだと名乗ることはできないが、まさかこうして以前の友に会えることなど、キキ村で過ごしている時には想像すらしてなかったから。

「私のシゴキは過酷よ?かの救国の騎士様直伝だもの」

会場がざわつく。
そんな中、誰かが挙手した。
シュルツは発言を許したようだ。

「あの、救国の騎士様についてはお名前以外はほぼ伝えられていないのですが、どのような方だったのですか?」

「そうね……ここにいる貴方たちが目指すべき実力を持った人だった。魔力は甚大、剣術は秀逸。まぁ、国政にはあまり関わってなかったわ。優しい人だから。バカだったし」

をーーーーーーーい!
良いこと言ってくれると感動してたのに、まさかのバカ。

「あの人が命をかけたこの国を担う者を育成するのが、私の勤め。生半可なことは許さない。この寄宿学校に中途半端な実力の者は必要ない」

会場はシュルツの圧で静まり返る。
いや、最初からプレッシャーかけるなって、教えたはずだけど、俺。

仕方ないな。
俺も手を挙げる。

「あら。立ち上がったコね?まだ何かあるの?」

一応軽く頷かれたので、その場で立って発言する。

「あの、シュルツ先生は中途半端な実力の奴はいらないって言われたんですけど、俺はいろんな奴がいろんな形で国を支えたら良いと思います。一人の強大な力なんて、害悪でしかない。そんな一人よりも、無数の手で支える国こそ、健全だ」

ちょっと、反抗的すぎた?
でも、俺はシュルツの考え方を改めて欲しかった。
できない奴は必要ない、じゃない。そんな奴らこそ、必要なんだ。

俺の発言に、開場中が引いてた。
やばい。
ちょっと、以前指導してたことがよぎってしまった。
初日から、管轄しているトップに意見する学生って問題児なんじゃあ……。
まさか、退学とか、ないよね?

シュルツは無言で俺を見ている。
こ、怖い……。

「な、なーんて。シュルツ先生のお話だと、俺みたいなのなんてダメだなーって思って焦っちゃってー。へへっ」

またも、誤魔化し笑い!
なんで手を挙げちゃったんだよ、俺!
立場が生徒なんだから、まずいよな……誤魔化された?どう??

「貴方、名前は?」
「る、ルカです」

シュルツが驚いた顔をする。
名前だけ!名前だけ同じ!!

「……後で、私の執務室へいらっしゃい」

やばい!最速で退学かもしれない!!

「お待ち下さい!」

後ろから誰かの声がする。
……バーンだ。

「その者はただ自分の意見を言ったまで。上の者は鷹揚おうようたる態度で構えるべきです。何卒、ご容赦を」

バーンが、俺を庇ってくれてる!
嫌われたと思っていたのに……。

「「私からもお願いいたします!」」

テオ!
クリフト!

「その者は田舎の村から出てきたばかり。まだ物事を知りません。これから学んでいく過程です」
「純粋ゆえの暴挙。お目こぼし頂きたく」

三人とも俺のために頭を下げてくれている。
俺の勝手な言動が、仲間の負担になるなんて。

誤魔化して笑って済ませようとしていたが、それは以前の知識や立場があったからこそ許された。

今は、ただの、ルカだ。

俺も立ち上がり、頭を下げる。

「すみませんっ!俺は、」
「待ちなさい」

シュルツの涼やかな声が響く。

「貴方たち、勘違いしてるわ。別にこのコを放逐しようなんて考えてない。私は自分の意見を否定されて怒り狂うような矮小な人間のつもりはない。ただ、このコと話してみたくて執務室に呼んだだけよ」

三人とも、ほっとした表情をした。

「でも、貴方たちの行動は早計すぎる。私への批判とも取れる嘆願は、この場でするべきではないし、私がもし卑小な人間なら、全員退学よ。権力のある人間について、その人間性を知らない内に行動するのは浅はかだわ。今回は、ただ幸運だっただけ」

三人とも、ぐっと顔をしかめる。
シュルツの言うことは最もだった。

「それは、庇われた貴方にも言えるのよ、ルカ」

赤い瞳が俺を見据える。

「貴方の言動で、三人もの若者が人生を狂わせたかもしれない。自分の身一つではないの。周囲に貴方を大切だと思う者がいれば、貴方の言動はそれらすべてに影響を与える。熟考しなさい」
「はい」

その通りだな。
俺のことで、三人に迷惑をかけるなんてことになったら、俺は俺を許せない。

「さぁ、みんな座って。良い国政の授業になったわね」

俺たち四人は着席し、シュルツもまた壇上にて話の続きを始める。

「まず、魔法士を目指す子達はこちらから指定します。最初の魔力量測定の結果を踏まえてね。異議は認めない。剣術は二つコースを設けてるわ。剣士になるためのクラスとあくまで予備的な防御として習得するクラス。国政は希望すれば誰でも可能よ。ただ、専科にするならば、相当な頭脳が必要」

どこもキツそうだな……。
まわりもそう思ったのか、空気が重くなる。

「途中、それぞれ試験も設けるわ。合否も出す。不合格でも退学ではないけど、まぁ、お家に帰った方がいいわね」

えー!
試験もあるのかー。
まぁ、お家には帰りたくても帰れないんだけどねー。

「こんなものかしら。とにかく、ウチは厳しいわ。高位の貴族も平民も変わらない。完全な実力主義よ。もし、高位の貴族とお知り合いになりたかっただけのコがいるなら、悪いことは言わないからこの後実家に連絡して、寄宿学校を変わるなり、領地に戻るなりしなさいね」

少し会場がざわつく。
ホントなら、女の子とお知り合いになりたかっただけの俺は村に帰るべきなんだろうけど。

今は、違う。

「じゃあ、私のお話は終わり。あとは事務的なことをやって、今日は解散。明日、どれだけのコが残っているのか楽しみにしてるわね」

シュルツはまた転移魔法を使い、消えた。

再び、ネラル先生が登壇する。

「えー、とりあえず、制服一式とこれから学ぶべき資料などを受け取ってもらいます。この会場の外のテーブルに袋を置いてます。中は見た目よりもある程度物を収納できるように魔法をかけてますので、自分の名前の刻印されている袋を持ち帰って下さい。そこにすべて入ってます」

おぉ!便利だ!
その袋に教科書などを入れて通うことになるのか。

「もし、先ほどシュラが言っていたように、辞退する者はこの袋も事務室に返却するように」

んー、そんな奴なんているのかな?
初日を迎えて、これから!って燃えてる奴らばかりだろう。
まだ、具体的な内容も分からないし、わざわざ高位の貴族と知り合いになるためだけに一年間過ごすつもりの奴なんていないだろ。


……そう思っていたのに。
翌日には寄宿生は半数になっていた。
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