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密約~テオ&クリフト視点~

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このまま二人を部屋に帰してはいけない!
ルカの貞操が危ない!!

「ルカ、夜間着とか明日の服を取りに部屋に寄って」
「おぉ、ありがとな!まぁ、今日は特に汚れることしてないから、またコレ着ようかなって思ってたんだけどな」
「えっ……同じ服を?」

クリフトがルカの発言に驚いてる。
まぁ、ね……。

「俺の服を差し上げましょうか?」
ルカがクリフトを上から下まで見る。
「気持ちだけ……な……」

クリフトは長身なので、確かにルカはサイズ的に無理がある。
その点、僕なら大丈夫だ。
これから、伸びる予定ではあるけど!

「クリフトは先に部屋に戻るか?」

僕はクリフトに話があった。
「クリフトも寄りなよ」

思惑げにクリフトを見る。

「……では、お邪魔します」

通じたようだ。

僕の部屋により、できるだけ質素な品をいくつか選ぶ。
高価な品だと、ルカが気を遣うかもしれないから。

ルカは手渡した服を見て、触ったりして確かめている。
着心地は悪くないとは思うけど、どうかな?

「テオ……あの、思ってたよりイイ服で……俺、これだと出世払いできないかもしれないから……もっと安いやつないか?」

もっと安い物!?
ルカはルカだなぁ。
黙って、貰っておけばいいのに。

「ルカはもし僕が同じ立場だったら、服くれない?」
「……やる」
「なら、僕があげてもいいよね?」

ルカにはこの説得の方がいい。

「ありがとな、テオ」

二人でヘヘヘと笑い合う。

「……防寒着はルカのサイズで仕立てた物を俺が差し上げます!」

突然、クリフトがルカの手を取り宣言する。

「いや、そんなことしなくていーって。俺は寒さには強いんだ!」

クリフトはちょっと不思議な物を見つめる目でルカを見ている。
寒さに強いからって本気で言ってるからね……。

「心配しなくても、セリアン商会に用意できない物はありません!」

「セリアン商会!?」

この国一の商会だ!

「クリフトはセリアン商会の子息なのか」
「ロレーヌへも販路はございますから、いろいろとお世話になっています」
クリフトは商売人の悪い顔で笑った。

クリフトの自信の源をようやく理解した。
ちょっとした裕福な商人の息子かと思っていたら、まさかのセリアン商会。

「並みの貴族よりも力がある。ルカのように、平民としての苦労もなさそうだ。良い防波堤にはなるのかな?」

セリアン商会の子息ならば、その気になれば貴族位も金で買えそうだ。
領地にセリアン商会の販路がない貴族などいないだろう。
先ほど、クリフトは『いろいろ世話になっている』と言っていたが、それはこちらのセリフだ。
セリアン商会の販路がなくなると、生活が成り立たないのはこちらの方だからだ。
よほど、高位の貴族でない限り、クリフトの機嫌を損ねるのは避けたいはず。
クリフトの側にいれば、ルカも先ほどのような貴族のいやがらせには合わない、か。

だが、問題はそこじゃない。

「そろそろ、風呂じゃないか?」
「そうですねっ!」
「……」

問題は……風呂だ!!




「そろそろ、風呂じゃないか?」

心の中で小躍りする。
「そうですねっ!」
楽しみすぎて、顔のニヤケが止まらない。

ルカが入った後の浴槽に自分が入る……。
ルカの裸体が触れた湯に自分が……。
少し早めに浴室に行って……いや、それはさすがに……でも……。
湯上がりのルカ……我慢できるのか……。

「……ルカ、魔導石の浴室は使ったことある?」

妄想していると、突然テオドール様が魔導石の浴室の話を振ってきた。
先ほどから自分に話がありそうだったからな……まぁ、ルカのことだと思うが。

テオドール様が上手く誘導して、ルカがこの個室の風呂に入ることになったようだ。

まぁ、一日くらいはいいか。楽しみは後にとっておけば……。

ルカはテオドール様のお風呂を見に行ったようだ。
テオドール様は先ほどまでルカと話していた時のニコニコ顔から真顔になり、こちらを振り返る。

「さて、クリフト。ちょっと、腹をわって話そうか?」

少し、怒気を纏わせた声音。
いつもの穏和な雰囲気は欠片もない。
これがテオドール様の本性か。

「君、ルカをどうするつもり?同室だし、先ほどからルカとの風呂でよからぬことを考えているようだし……僕はルカの友人として、心配なんだ」

友人として?笑わせる。
テオドール様こそ、ルカと笑い合う俺を嫉妬をはらんだ目で見ていたというのに。

「俺は何もするつもりはありませんよ。風呂も共に入るわけではなく、ルカの後に入って楽しむ……いえ、お風呂を楽しむだけで……」

「君、潔癖症だよね?さっき食堂で椅子に座る前に自分の椅子を拭いたり、わざわざ自分の手で食べられる軽食を注文したのは、誰が触れたか分からないナイフとフォークを使いたくなかったのでは?」

良く見ている……さすがだな……。

「……そうですね。そこまでひどくはないのですよ?給仕した物は食べられますし。ただ、食堂では入り口に大量に置かれたナイフなどを自分で取る形でしたので、多数の者が触れているとなると……」

「それで、お風呂は入れるの?多数の者が入ってるけど?」

「それは……」

痛いところをつかれる。
実際、寄宿舎生活で一番の難題だった。
どんなに金を積んでも、個室は与えられず、自分が入る度にお湯を抜き、また貯めるのは時間がかかる。
自分は待てても、他の者はそうはいかないだろう。
一番風呂を金で買うことも考えたが、応じる貴族は限られる。

そこに現れたのがルカだ。
ルカの後に風呂に入ることは何一つ気にならなかった。
むしろ、喜びを感じたくらいだ。
憂鬱だった入浴がまさか楽しみになるとは……自分の中のルカの大きさに驚く。

「僕の個室のお風呂を使わせてあげようか?」

思ってもみない提案だった。

「テオー!使い方が分からないー」

ルカの声がすると、テオドール様はまたにこやかな顔に戻り、ルカの元へと向かった。

毎日、ここの風呂に……。
それならば、風呂の順番を待つことなく、抜いてまた貯めることも魔導石の風呂ならば時間はかからない。
そもそも、使う者がテオドール様に限定されている。
それだけでも、精神的な負担は少ない。

悩んでいるうちに、テオドール様が戻ってきた。

「魔導石のお風呂に目をキラキラさせてたよ。これから、ルカにもココのお風呂を使って貰おうと思ってるんだ。それなら、僕も安心できる」

安心?

「ルカは純真だ。だから、皆を惹き付ける。特に、貴族社会の汚い部分を知ってる僕らのような人間は。僕はルカにそのままでいて欲しい。クリフト……手を結ばないか?ルカへの不可侵だ。この寄宿学校で学ぶ一年間……ルカを見守る。ルカは必ず中央へ行くと思う。それから、ルカに自分を選んで貰うために動く、というのはどう?」

自分に自信があるのだろう。
ルカに選ばれると。

「ルカは中央に?そんなに魔力量が?不手際で水晶玉の測定ができなかったと聞きましたが」

「分からない。けど、なぜか僕は確信している」

テオドール様の顔は真摯だ。
本当に腹をわっているとは思っていないが、口にしていることは嘘ではないのだろう。

「この一年間はなぜダメなのですか?」

「この一年間、僕は自分に構ってる場合じゃないんだ。僕は出来た人間じゃない。ルカを手に入れてしまったら、溺れる。この一年間、一時も無駄にはできない」

はっとした。
そうだ。
俺は、ルカに出会えて浮かれていた。
この一年間にすべてを賭けてきたのに。
魔力量のない自分が上りつめるのは、並大抵の努力ではなし得ない。

「テオドール様……手を結びましょう。俺も、同じ気持ちです」

「良かった!僕は手を出さないと決めても、他の者が手を出すのも許せないんだ」

同じ気持ちだ。

「もし、この一年間で誓いを破ったら、僕は君を全力で潰す」

本当に同じ気持ちだ。
俺は頷いた。
二人で誓いの握手を交わす。

「テオ、風呂ありがとな!めちゃめちゃ気持ち良かった!」

話がまとまった所でルカが風呂から出てきた。

「それは良かった。……ねぇ、クリフトとも話していたんだけど、毎日ココにお風呂に入りに来ない?寄宿舎のお風呂も浴槽の大きさは変わらないし、僕の部屋なら待たずに入れる。クリフトもその方がいいなって」

テオドール様の負担を気にするであろうルカに畳み掛ける。

「ルカ、実は俺、潔癖症なんです……大勢が入るお風呂は実はすごく嫌で、テオがそれならと言ってくれて……でも、俺だけだと皆にいろいろ言われるのが……ルカも一緒だと風当たりも強くないかと思って……」

少し目を臥せ、真実に少し嘘を混ぜる。
ルカならば、俺のことを気にして了解してくれるはず。

「分かった!テオがいいなら……」

やはり。

「もちろん、大丈夫だよ!」

テオドール様は笑顔で頷く。
このままでは、テオドール様が良い人だという印象しか与えていない。

「石鹸などの消耗品や湯拭き用の布などはセリアン商会から取り寄せます。もちろん、お代は頂きませんから、ルカももちろん、使って下さい」

「俺もいいのか?ありがとな!」

ルカは輝く笑顔で礼をいう。
これくらいの攻防ならばいいだろう。

しかし、湯上がりのルカ……。

「ルカ、顔も火照って、美味しそう……」
「本当に……美味しそうです」

二人で思わず口に出してしまう。
この密約の一番の敵はルカ本人だ。
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