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最高の時間

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満腹になり、部屋に戻る。
途中、テオに夜間着をあげるから部屋に寄ってと言われた。

別に今日は汚れることなどしていないので、お風呂の後にまた同じ服を着るつもりだと言うと、クリフトがかなり驚いていた。

クリフトにも自分の服をあげると言われたが、どう考えてもデカイ。
ちょっと傷つきながら、丁重に断った。

テオの部屋に寄り、夜間着やいくつかこれからの服を渡される。
どう考えても、今まで着ていた物と生地が違う。
木彫りの熊では……足りないっ。

「テオ……あの、思ってたよりイイ服で……俺、これだと出世払いできないかもしれないから……もっと安いやつないか?」

一瞬驚いていた顔をしたテオは、穏やかに笑って言った。

「ルカはもし僕が同じ立場だったら、服くれない?」
「……やる」
「なら、僕があげてもいいよね?」

そうか。そうだな。
テオの気持ちを貰おう。

「ありがとな、テオ」

二人でヘヘヘと笑い合う。

「……防寒着はルカのサイズで仕立てた物を俺が差し上げます!」

突然、クリフトが俺の手を取り宣言する。

「いや、そんなことしなくていーって。俺は寒さには強いんだ!」

クリフトはちょっと不思議な物を見つめる目で見てきた。
あれ?

「心配しなくても、セリアン商会に用意できない物はありません!」

「セリアン商会!?」

テオが驚いている。
セリアン商会?知らん。

「クリフトはセリアン商会の子息なのか」
「ロレーヌへも販路はございますから、いろいろとお世話になっています」

クリフトは商売人の悪い顔で笑った。

「並みの貴族よりも力がある。ルカのように、平民としての苦労もなさそうだ。良い防波堤にはなるのかな?」

なぜか、テオも悪顔になってる。
防波堤って、なんの話だ?
ロレーヌに防波堤を作るのか?

よく分からないが、クリフトは有名な商人の息子らしい。

辺境伯、侯爵、商人、木こり、いろんな環境で育ったヤツがこの寄宿舎で学ぶ。
そして、国を支える。

これからの寄宿学校の毎日が楽しみで仕方ない!

服ももらい、もう大分夜も更けてきた。
「そろそろ、風呂じゃないか?」
「そうですねっ!」
「……」

クリフトは、風呂が好きなのか嬉しそうだ。
反対にテオは険しい顔をしている。

「……ルカ、魔導石の浴室は使ったことある?」

魔導石で水を温めるってヤツだよな?
前世のルカ時代に使ったことはあるが、当時とはまた変わってるんだろうな。
もちろん、今のルカは水浴びだけだ。
たまに父さんと売れない木で簡易的な風呂を沸かすことはあったが、魔導石は高価なため使ったことはない。

「ないぞ!」

「僕の部屋には簡易的だけど、魔導石の浴槽があるんだ。もうこのままここでお風呂に入っていったら?」

「いいのか?」

使ってみたい!

「どうぞ。今から入っておいで。石鹸とかも自由に使って構わないよ」
「ありがとな!」

テオに礼を言うと、早速使わせてもらうために見に行く。
自分達の部屋には顔や手を洗ったりするための洗面所はあったが、テオの部屋にはその横に浴室もあった。

さすが、個室。

「テオー!使い方が分からないー」

何かクリフトと話していたが、使い方が分からず、会話の邪魔をしてしまう。

「あぁ、ごめんね。この二つ並んでる魔導石の右を動かすと水、左を動かすと湯が出るから、調節して使うんだよ」
「温度が好きに決められるのか!すごいな!じゃあ、早速入るなー」

浴室に入ると早速使ってみる。
魔導石が二つ、壁の側面に埋め込まれてある。
魔導石は、その名の通り石に魔力を封じ込めた物であり、何か指定の操作をすることによって効果を生む。
この場合は、水や湯が魔導石と繋がっている筒上の木材から出る、という効果のようだ。

木で作られた浴槽は、少し足を曲げると座れ、十分に寛げる広さだ。
久しぶりの、しかも魔導石を使った風呂にワクワクしてくる。

魔導石にはそれぞれ可動域があり、まずは右側を動かすと、筒上の木材からは水が出てきた。
次に左側に動かすと湯が出てきたので、そっと手で温度を確認し、調整する。

「すごい!」

以前の魔導石ならば、このような繊細な調整はできなかった。
水を貯め、その上から湯を入れ、少々の熱さ冷たさは我慢して入っていた。

魔導石も以前に比べ、進歩している。
魔法も違うのだろうか?

学ぶのが楽しみだ!

お湯を貯めている間に、まずは身体を洗う。
テオの石鹸はいつも使っている物より高級で、泡立ちも匂いも最高だった。
何かの果実の香りだろうか?

全身洗っている間にお湯も貯まり、湯船に浸かることにする。
「あ~っ」と声が出る。

最高だーー!
このまま長く入っていると寝てしまいそうだ……。

長時間馬車に揺られていたし、水晶玉を割るというデカイやらかしもしたが、テオもバーンもクリフトも友達になって、良い一日を過ごしたように思う。

思いを馳せていると本当に寝てしまいそうで、慌てて風呂から上がる。
布で拭き、テオにもらった夜間着を身に付けて部屋に戻ると、なぜかテオとクリフトが握手していた。

「テオ、風呂ありがとな!めちゃめちゃ気持ち良かった!」

「それは良かった。……ねぇ、クリフトとも話していたんだけど、毎日ココにお風呂に入りに来ない?寄宿舎のお風呂も浴槽の大きさは変わらないし、僕の部屋なら待たずに入れる。クリフトもその方がいいなって」

確かに。
寄宿舎の交代制の風呂ならその時間まで待たないといけない。
でも、毎日入りに来るというのはさすがに……。

「ルカ、実は俺、潔癖症なんです……大勢が入るお風呂は実はすごく嫌で、テオがそれならと言ってくれて……でも、俺だけだと皆にいろいろ言われるのが……ルカも一緒だと風当たりも強くないかと思って……」

言いにくそうにクリフトが目を臥せる。

そんな理由が……確かに一人だけだと皆に気を遣うのか……。

「分かった!テオがいいなら……」

「もちろん、大丈夫だよ!」

テオは笑顔で頷いてくれる。

テオ、イイヤツだなっ……!

「石鹸などの消耗品や湯拭き用の布などはセリアン商会から取り寄せます。もちろん、お代は頂きませんから、ルカももちろん、使って下さい」

「俺もいいのか?ありがとな!」

クリフト、イイヤツだなっ……!

「ルカ、顔も火照って、美味しそう……」
「本当に……美味しそうです」


二人とも、軽食だったから腹が減ってるのか?
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