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たった一人の理解者~クリフト視点~

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「うるさい!黙れ!」

驚いた顔で俺を見ている。

「さっきから何をごちゃごちゃと!魔力などないっ!」

なぜ、ただの同室のこんな奴に俺は自分のことを話した!
言う必要などなかったのに。
魔力量の話ばかりされ、イラついた。

それだけじゃない。

コイツが平民だから……しかも俺のように、親の金が有り余るほどあり、親に同年の伝手を作りたいからなどと言い、魔力がないにも関わらず寄宿学校の入学を許して貰ったはずがない。

あるんだ。
貧しい身なりでこの学校に来たからには、絶対的な魔力量が!

嫉妬した。
この、ルカという男に、たまらなく嫉妬したんだ。

「クリフト、お前の夢は何だ?」

思わず、息をのんだ。
俺は夢の話なんて、していないのに。

「な、んで、そんなこと」

「魔力がないのに、寄宿学校に来るって夢でもないとしないだろ?」

ルカは当たり前のように問いかけてくる。
同年の伝手を作りに来たと言えばいい。
商会のために、親のために来たと。
……なぜ、俺はそれが言えないんだ。

「いや、言いたくないならいいんだ。でも、自分の胸に置いておくのもいいが、ココにはいろんな奴がいるんだから、言って楽になるのもいいんじゃないか?」

楽に?
俺は……ずっと、苦しかったんだ。
親にも兄たちにも言えず、無謀な夢を語り合う仲間もいない。
ずっと、小さい時から胸の中に在りつづけ、消しても消してもまた浮かんでくる。

「楽、に……は、はは……」

図星すぎて、笑えてくる。

誰にも気づかれなかったんだ。
今まで、俺が自分の夢を抱えて苦しんでいるなんて。

それが、出会ったばかりのこんな奴に?

……いいのか?
もう、この苦しみから解放されても。

「ど、どうした?クリフト」

まるで、俺の気持ちに添うかのように、背中にそっと触れ撫でてくれる。
ルカの気持ちが流れ込んでくるようだ。

「どこか痛いとかか?それとも、俺が何か気に触ることを言ったのか?」

あぁ、気づかなかった。
いつの間にか、泣いていたのか。
これが、涙か……温かいな……。
冷えきっていた俺からでも、こんなに温かいものが流れるのか。

「ルカ……」

「ん?」

俺は、やっと、出会えたんだ。

「宰相に……なりたいんだ」

幼子のように、ルカの服の袖を掴みながら、小さな声で言った。
初めて自分の心の内を曝すことが、怖くて、心細くて。

「そうか。宰相になりたいのか。クリフトなら、良い宰相になれるさ」

なっ……!

「そんな口だけのことっ」

ルカを信じたのに!
高揚から一気に突き落とされた気持ちになる。

「口だけで、言ってないぞ?心から思ってる。さっきまで読んでた本、国史だろ?俺がこの部屋に来るまでに、自分の荷物も片付けてるし、移動もあって疲れているだろうに、ベッドを使った形跡はない。そんな寸暇を惜しんで国史の本を読むような勤勉な奴が宰相になったら、ますます良い国になるさ」

そんなことまで、気づいてくれるのか?
魔力がないと分かった後も、止めることができなかった。
少しでも近づきたくて、でも、その遠さにいつも絶望しながら。

俺だって、分かってる。
平民が成り上がるには魔力しかない。
分かってる!

「なれない!魔力もない平民が、宰相なんて、なれるわけないっ」

ルカにまるで駄々っ子のようにすがり付く。
言って欲しくて。
なれないんだから諦めろ、と誰かに言って欲しい。

「あのなぁ!世の中のほとんどが平民なんだぞ?平民の暮らしを守るために中央では必死に政治をしてるんだ!なのに、なぜその平民が宰相になれないんだ?一番気持ちが分かって、一番最適だろ!」

「最適……」

そんな考え方……。
貴族は貴族のために政治をしている。
平民のためじゃない。
平民なんて、所詮貴族の生活を富ませるためだけの道具。

それじゃあ、ダメなんだ。

平民のために。
そんな政治がしたかった。

「中央には魔力多いやつなんかいくらでもいるんだ。術師だって、騎士だって。なら、魔力はそいつらに任せておいて、別のもので勝負しろ!宰相に魔力なんていらないだろ?」

魔力なんていらない?
そんなこと、聞いたことなんかない。
中央に行くには、魔力は絶対で。
それでも、どうしても、諦めきれずにここまで来た。

こんな気持ちを知られたら、親や兄にもバカにされると、取り繕って、必死で自分を誤魔化して、何重にも仮面を被って。

それを、こんなに簡単に、破る。

ずっと、自分の中で足掻いていた俺を、お前は救い上げてくれるのか?

「ルカ……ルカ……」

その質素な服に顔を埋める。
潔癖症だった俺には考えられない。
細く引き締まった身体にすがり付くと、優しく抱きしめ返してくれた。

たった一人の理解者。
ルカは、俺のだ。
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