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金づるとその他~クリフト視点~
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魔力量測定を終え、やっと自室に入る。
……狭いな……。
高位貴族しか個室には入れないので仕方ないが、この粗末な部屋に一年間……気が滅入る。
しかし、反対を押しきってまで、自分で決めたことだ。
受付では同室がまだ決まっていないと言われたが、どうなるのだろう……。
家から運ばせた書物や衣類などを早速仕舞う。
自分の物は他人に触れさせたくないので、運び込むことは任せたがそこからはすべて自分で片付ける。
軽い潔癖症だ。
こんなことで、同室の輩と上手くやっていけるのか……やはり一人がいい。
片付けも終わり、まだ時間も早い。
書物でも読もうか。
備え付けの机に国史の書物を数冊置き、家から運ばせたビロードのカバーをかけた椅子に座る。
もう少し、座り心地の改善が必要だな。
数ページ目を通した後、部屋をノックする音が聞こえた。
わざわざ俺の部屋を訪ねてくる者などいない。
同室、いたのか……
「……どうぞ」
少し、不機嫌な声音になってしまった。
貴族だと面倒だ。
「入るぞ!」
中に入ってきた二人組……明らかに一人は貴族だ。
身なりや雰囲気で分かる。
もう一人は従者……にしては身なりが貧しい。
貴族の従者ならば、それなりの身なりをしているものだ。
しかも、先程の声はこの貧しそうな身なりの男が出していた。
まさか、この男が同室か?
「俺はルカ!同室になった、よろしくな」
「あぁ」
やはり!
……平民だな。
しかも、どこかの田舎の平民だ。
こんな者が、同室……最悪だ。
せめて下位でも貴族であれば伝手として使えたのに……。
「名前は?」
話す気などないのに、空気を読め。
「クリフト」
はぁ、名を告げるのすら惜しい。
貧しそうなこの男……ルカだったか。
善良そうではあるが、荷物には気を付けなければな……。
「初めまして。僕はルカの友人でテオドール」
もう一人の男……テオドールだと!
ロレーヌ辺境伯だ!
今年はオルレラ侯爵バーンと、高位貴族はこの二名。
絶対に押さえなければならない人物!
即座に椅子から立ち上がり、笑顔で対応する。
「ロレーヌ辺境伯テオドール様ですね?お噂はかねがね……同じ寄宿学校で学べるとは幸運です」
「同じ寄宿生だ。テオでいい」
「なんと!恐れ多いことでございます。望外の喜びです。これからも親しくして頂けるとは!私はクリフトと申します。ロレーヌでは…」
「クリフト!」
「……」
……コイツ、今、俺がテオドール様と話していたのを聞いてなかったのか?
このテオドール様は大事な金づるだぞ!?
このルカとかいう平民と話した所で何一つ利などない!
これからこのテオドール様のご機嫌を取りつつ、私を有用な人間だと認識してもらわなければならないのに、邪魔をしやがって!
「お前は平民か?」
はあ?なぜお前にそんなことを聞かれないとならない!
「……それが?」
「俺もだ!」
そんなの一目見た時から分かってる!!
なんだ……なぜ、そんなに嬉しそうに笑ってるんだ……?
そもそも、なぜ高位の貴族であるテオドール様と連れだって来た?
後ろ楯になっていることのアピールだろうか……確かに会話に割り込んできたことに、テオドール様はお怒りになっていない。
「魔力量は多いのか?」
……っ。
知らず、奥歯を噛み締める。
「俺は魔力量が多くないと無料って知らなかったんだよー。クリフト、知ってたか?」
そんなことはとっくに知っている!
何年前から施行されたと思ってる?
バカにしてるのか?
「コースはどこだ?俺は魔力量測定が……」
「うるさい!黙れ!」
驚いた顔で俺を見ている。
「さっきから何をごちゃごちゃと!魔力などないっ!」
そう。
俺は魔力がない。全くだ。
全くないというのも珍しい。
俺の両親はセリアン商会という、この国において知らない者はいない大きな商会を営んでいる。
俺は両親の三番目の子供だった。
上には兄が二人いて、両親は女の子が欲しかったらしい。
男でがっかりしたと後に言われたが、別に放棄された訳ではない。
何不自由なく育てられた。
望むものはいつでもすべて与えられた……魔力以外は。
この国において、魔力は絶対だ。
国の養成機関である寄宿学校が、魔力量によって行く末を振り分けられることでも分かる。
魔力が全くないと分かっても、両親も兄二人も、特に俺を憐れんだりしなかった。
商いに魔力は必要ない。
だが、俺は絶望した。
俺には、夢があったからだ。
誰にも言っていなかった……とてつもなく無謀な夢。
それには、魔力が必要だった。
別に、商いが嫌いだった訳ではない。
両親や上の兄二人を見て育った俺も、いろんな物事を利益、不利益として考える癖がついていた。
人間関係でも、自分にとって利益となる人物しか側に寄せ付けず、友達と呼べる者などいない。
特に、それを必要としてもいなかった。
俺は商いに向いている。
両親も兄も喜んでいた。
俺は、そんな両親や兄たちを前に、日々鬱々としていた。
自分に魔力がないことによって、夢を口にすることもできない。
恵まれた環境にいることも分かっていた。
将来、困ることはない。
いずれ、この大きな商会の一角を任されることになるのだろう。
だが、それはまるで自分の未来が大きな薄い幕によって閉ざされているようだった。
とても大きくて、自由に動き回ることができるのに、その先には行くことができない。
それを破る魔力もないのだから。
……狭いな……。
高位貴族しか個室には入れないので仕方ないが、この粗末な部屋に一年間……気が滅入る。
しかし、反対を押しきってまで、自分で決めたことだ。
受付では同室がまだ決まっていないと言われたが、どうなるのだろう……。
家から運ばせた書物や衣類などを早速仕舞う。
自分の物は他人に触れさせたくないので、運び込むことは任せたがそこからはすべて自分で片付ける。
軽い潔癖症だ。
こんなことで、同室の輩と上手くやっていけるのか……やはり一人がいい。
片付けも終わり、まだ時間も早い。
書物でも読もうか。
備え付けの机に国史の書物を数冊置き、家から運ばせたビロードのカバーをかけた椅子に座る。
もう少し、座り心地の改善が必要だな。
数ページ目を通した後、部屋をノックする音が聞こえた。
わざわざ俺の部屋を訪ねてくる者などいない。
同室、いたのか……
「……どうぞ」
少し、不機嫌な声音になってしまった。
貴族だと面倒だ。
「入るぞ!」
中に入ってきた二人組……明らかに一人は貴族だ。
身なりや雰囲気で分かる。
もう一人は従者……にしては身なりが貧しい。
貴族の従者ならば、それなりの身なりをしているものだ。
しかも、先程の声はこの貧しそうな身なりの男が出していた。
まさか、この男が同室か?
「俺はルカ!同室になった、よろしくな」
「あぁ」
やはり!
……平民だな。
しかも、どこかの田舎の平民だ。
こんな者が、同室……最悪だ。
せめて下位でも貴族であれば伝手として使えたのに……。
「名前は?」
話す気などないのに、空気を読め。
「クリフト」
はぁ、名を告げるのすら惜しい。
貧しそうなこの男……ルカだったか。
善良そうではあるが、荷物には気を付けなければな……。
「初めまして。僕はルカの友人でテオドール」
もう一人の男……テオドールだと!
ロレーヌ辺境伯だ!
今年はオルレラ侯爵バーンと、高位貴族はこの二名。
絶対に押さえなければならない人物!
即座に椅子から立ち上がり、笑顔で対応する。
「ロレーヌ辺境伯テオドール様ですね?お噂はかねがね……同じ寄宿学校で学べるとは幸運です」
「同じ寄宿生だ。テオでいい」
「なんと!恐れ多いことでございます。望外の喜びです。これからも親しくして頂けるとは!私はクリフトと申します。ロレーヌでは…」
「クリフト!」
「……」
……コイツ、今、俺がテオドール様と話していたのを聞いてなかったのか?
このテオドール様は大事な金づるだぞ!?
このルカとかいう平民と話した所で何一つ利などない!
これからこのテオドール様のご機嫌を取りつつ、私を有用な人間だと認識してもらわなければならないのに、邪魔をしやがって!
「お前は平民か?」
はあ?なぜお前にそんなことを聞かれないとならない!
「……それが?」
「俺もだ!」
そんなの一目見た時から分かってる!!
なんだ……なぜ、そんなに嬉しそうに笑ってるんだ……?
そもそも、なぜ高位の貴族であるテオドール様と連れだって来た?
後ろ楯になっていることのアピールだろうか……確かに会話に割り込んできたことに、テオドール様はお怒りになっていない。
「魔力量は多いのか?」
……っ。
知らず、奥歯を噛み締める。
「俺は魔力量が多くないと無料って知らなかったんだよー。クリフト、知ってたか?」
そんなことはとっくに知っている!
何年前から施行されたと思ってる?
バカにしてるのか?
「コースはどこだ?俺は魔力量測定が……」
「うるさい!黙れ!」
驚いた顔で俺を見ている。
「さっきから何をごちゃごちゃと!魔力などないっ!」
そう。
俺は魔力がない。全くだ。
全くないというのも珍しい。
俺の両親はセリアン商会という、この国において知らない者はいない大きな商会を営んでいる。
俺は両親の三番目の子供だった。
上には兄が二人いて、両親は女の子が欲しかったらしい。
男でがっかりしたと後に言われたが、別に放棄された訳ではない。
何不自由なく育てられた。
望むものはいつでもすべて与えられた……魔力以外は。
この国において、魔力は絶対だ。
国の養成機関である寄宿学校が、魔力量によって行く末を振り分けられることでも分かる。
魔力が全くないと分かっても、両親も兄二人も、特に俺を憐れんだりしなかった。
商いに魔力は必要ない。
だが、俺は絶望した。
俺には、夢があったからだ。
誰にも言っていなかった……とてつもなく無謀な夢。
それには、魔力が必要だった。
別に、商いが嫌いだった訳ではない。
両親や上の兄二人を見て育った俺も、いろんな物事を利益、不利益として考える癖がついていた。
人間関係でも、自分にとって利益となる人物しか側に寄せ付けず、友達と呼べる者などいない。
特に、それを必要としてもいなかった。
俺は商いに向いている。
両親も兄も喜んでいた。
俺は、そんな両親や兄たちを前に、日々鬱々としていた。
自分に魔力がないことによって、夢を口にすることもできない。
恵まれた環境にいることも分かっていた。
将来、困ることはない。
いずれ、この大きな商会の一角を任されることになるのだろう。
だが、それはまるで自分の未来が大きな薄い幕によって閉ざされているようだった。
とても大きくて、自由に動き回ることができるのに、その先には行くことができない。
それを破る魔力もないのだから。
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