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無自覚人たらし~テオドール視点~
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おいおいおい。
バーンが、うっとりとした顔をしてルカに抱きしめられている。
僕は何を見させられてるんだろう……。
これが、あの、バーン?
貴族主義で、冷徹な?
ルカがバーンのことを侯爵子息だと知らずに態度を注意した時は、本当に焦った。
なんとか、自分がバーンの怒りを収めないといけないと思ったのに。
「テオ!様をつけるな!ここでは身分差は関係ない。じゃないと、俺たちも友達になれない」
この言葉には、僕もはっとした。
僕がバーンに様をつけるなら、ルカも僕に様をつけなければいけない。
僕はルカに様をつけて呼んで欲しくなんてなかった。
「……っ、そのようなことを言われなくとも、分かっている!テオドール、お前もここにいる間は好きに呼ぶといい。……お前、名は?」
まさかバーンが、ルカに名を尋ねるなんて!
平民の名を知りたがるような奴じゃない。
「ルカだ!よろしくな、バーン!」
なぜそこで、抱きつく!
握手だろ、せめて!
そして、怒り狂うかと思ったら、バーンが恍惚の表情をしている。
「わ、私は、これで失礼するっ」
あのバーンだとはとても思えない無様な格好で去る。
ルカは、僕の時もそうだったけれど、人の心に入り込むのが上手い。
何か裏があるのではないか、と思えるほど。
あのバーンですら、あの態度。
ますます、ルカが分からない。
もっと、知りたい。
バーンが去り、ルカと一緒に自室に向かう。
まずは近い一階の僕の部屋に向かうことになった。
僕は個室だ。
侯爵以上が今年はバーンしかいないため、特例で個室になったと聞いた時は良かったと思ったが、ルカと出会った今はむしろ二人部屋が良かった。
「僕、個室を止めてルカと同室に変えて貰おうかな……」
軽いトーンで口にしたが、本心だった。
どんなに広い部屋で快適に過ごすよりも、ルカと一緒の方が……
「ダメだ!俺がテオの部屋に遊びに行けなくなるだろ?テオも、遊びに来てくれ!互いの部屋を行き来する……なんかいいよな!」
即座に同室拒否された。
拒否されたのに、二人の関係性は否定されない。
「互いの部屋を行き来する……って、なんかいいって、何!?」
なんだろう、このむず痒い気持ちは。
自分への好意は明らかに見て取れるのに、近付こうとするとふっといなくなる。
頭の中でグルグル考えていたら、示された自室に着く。
扉を開けると、すでに荷物が運ばれていた。
備え付けの本棚には本が並べられ、クローゼットにも運んできた家の者が衣類などをすでに仕舞っていた。
簡易的な浴室、備え付けの本棚、クローゼット、ベッドに机……広さも設備も、高位貴族が暮らすには手狭な印象だが、別に困るわけではない。
「テオ!ベッドがでかい。二人で寝られるな!」
突然の爆弾発言。
「えっ……そ、そうだね?」
どういうこと!?
二人って、僕とルカだよね?
え?
これは……夜のお誘い?
まさか、性に奔放なのか?
さすがに入学初日からダメだ。
せめて、明日……
「テオ、早く俺の部屋にも行きたい!」
!
僕は何を考えてるんだ!
慌てて持参した貴重品などを備え付けの金庫に仕舞い、鍵をかける。
「お待たせ。ルカの部屋に行こう?同室が良い人ならいいんだけど……」
ルカは、本当に危ない。
あの発言は僕じゃなかったらそのまま寝台に引き込まれても仕方ない。
変な奴が同室だと……嫌な予感しかしない。
二人で三階のルカの部屋へ向かう。
この少し離れているのも嫌だな……隣室ならすぐ駆けつけられるけど……。
「テオはどのコース志望なんだ?」
「僕はやっぱり、術師コースかなぁ。ルカは?」
ルカの実力は未知数だ。
水晶玉のこともそうだが、この寄宿学校に通うということは、皆目指すは中枢。
王都だ。
ルカから王都の希望も聞いたことがない。
「俺はまだ未定だから、決まるまでは三コースとも日替わりって言ってたけど、まぁ、いろいろやれて良かったかな。木こりなら……剣術コースで筋肉つける方がいいのか……術師コースで何か補助魔法を学ぶのも……国政コースは……いらないな!」
「やっぱり、木こりが基本なんだね……」
読めない!
本気で木こりに?
そんなはずない!
裏がある!
……と思いたい。
ルカの部屋に到着し、軽くノックをする。
「……どうぞ」
「入るぞ!」
ルカの後について部屋に入る。
中の男……見たことがない。
しかし、平民にしては身なりが良い。
すでに本棚に並べてある書物の量も多く、裕福さが伺える。
父に同伴したパーティーなどにいなかったとなると、下級の貴族か?
見た目はこの国には珍しくメガネ姿だ。
暗めの茶色の髪、深緑の瞳もよくある色だが、顔立ちは整っている。
知的さも感じ、女性に好かれそうだ。
「俺はルカ!同室になった、よろしくな」
「あぁ」
「名前は?」
「クリフト」
ルカに対し、友好的ではなさそうだ。
なぜか、ほっとする自分がいる。
平民を嫌う下級貴族といった所か。
とりあえず、僕が間に入ってあげよう。
このままだと、ルカが可哀想だ。
二人の会話にスッと入る。
「初めまして。僕はルカの友人でテオドール」
クリフトが椅子から立ち上がる。
「ロレーヌ辺境伯テオドール様ですね?お噂はかねがね……同じ寄宿学校で学べるとは幸運です」
この感じ……商人の子息だな。
僕のことを金づるだと思っていそうだ。
「同じ寄宿生だ。テオでいい」
「なんと!恐れ多いことでございます。望外の喜びです。これからも親しくして頂けると……」
「クリフト!」
「……」
突然、僕とクリフトの会話にルカが入ってきた。
クリフトは返事すらせず、不快感を露にしている。
「お前は平民か?」
「……それが?」
「俺もだ!」
ルカらしい……空気を読めない会話……。
満足そうにニコニコ笑っているが、平民仲間だとか思っているんだろうか。
「魔力量は多いのか?」
「……」
「俺は魔力量が多くないと無料って知らなかったんだよー。クリフト、知ってたか?」
「……」
「コースはどこだ?俺は魔力量測定が……」
「うるさい!黙れ!」
とうとう、クリフトがキレた。
ルカは驚いた顔でクリフトを見ているが、当然の流れだ。
魔力量の話は基本、タブー視されている。
もちろん、バーンのように自他共に認める魔力を持っていると公言している者もいるが、それは少数。
基本は僕のように皆、自信がない。
誰でも、自信がない話を人に振ったりしない。
その例外が、ルカだ。
「さっきから何をごちゃごちゃと!魔力などないっ!」
この言葉には、驚いた。
魔力が、ない?
なのに、なぜ寄宿学校に?
裕福な商人の子息であれば、寄宿学校の費用などは下級貴族よりも容易く出せるだろうが、意味がない。
損得勘定で動く商人が、なぜ……。
「クリフト、お前の夢は何だ?」
夢?
突然、何だろう?
「な、んで、そんなこと」
「魔力がないのに、寄宿学校に来るって夢でもないとしないだろ?」
いや、夢があっても、魔力がなければ寄宿学校に入る意味がない。
お金の問題だけではなく、どのコースに入ろうと魔力がなければ上へはいけない。
時間とお金の無駄だ。
「いや、言いたくないならいいんだ。でも、自分の胸に置いておくのもいいが、ココにはいろんな奴がいるんだから、言って楽になるのもいいんじゃないか?」
「楽、に……は、はは……」
ほら。
ルカが意味がわからないことを言うから、クリフトが呆れて笑ってる。
「ど、どうした?クリフト」
ルカはクリフトが笑う意味がわからないみたいで、驚いてる。
……ん?
クリフト、泣いて、る?
「どこか痛いとかか?それとも、俺が何か気に触ることを言ったのか?」
どこに泣く流れがあった?
ルカは必死でクリフトを慰めているが、僕も理由がさっぱり分からない。
「ルカ……」
「ん?」
「宰相に……なりたいんだ」
はぁ?
ルカに背中を擦られながら、か細い声でクリフトが言い出す。
その手は、ルカの服の袖を掴んでいる。
「そうか。宰相になりたいのか。クリフトなら、良い宰相になれるさ」
なっ……!
「そんな口だけのことっ」
なれるかっ!
宰相だって?
国の中枢のトップだよ?
魔力がない平民が?
バーンが語っても大それた夢だと言うのに……。
ルカもそんな簡単に言うものじゃない。
「口だけで、言ってないぞ?心から思ってる。さっきまで読んでた本、国史だろ?俺がこの部屋に来るまでに、自分の荷物も片付けてるし、移動もあって疲れているだろうに、ベッドを使った形跡はない。そんな寸暇を惜しんで国史の本を読むような勤勉な奴が宰相になったら、ますます良い国になるさ」
そんなことまで、見ていたのか?
僕は……そんなこと全く気づいていなかった。
短時間で、そこまでクリフトのことを理解するなんて、僕にはできない。
「なれない!魔力もない平民が、宰相なんて、なれるわけないっ」
「あのなぁ!世の中のほとんどが平民なんだぞ?平民の暮らしを守るために中央では必死に政治をしてるんだ!なのに、なぜその平民が宰相になれないんだ?一番気持ちが分かって、一番最適だろ!」
「最適……」
そんな考え方……。
貴族は貴族のために政治をしている。
平民のためじゃない。
貴族である僕は、それが当然だと思ってしまっている。
胸に突き刺さった。
「中央には魔力多いやつなんかいくらでもいるんだ。術師だって、騎士だって。なら、魔力はそいつらに任せておいて、別のもので勝負しろ!宰相に魔力なんていらないだろ?」
魔力なんていらない?
今まで、そんな考えを持ったことがない。
中枢で働くのは、魔力量が多く、剣術に優れ、権謀術数にたけた人物。
どれかが損なわれれば、その道は狭い。
……でも、何かを極めることができれば、否ではない……?
「ルカ……ルカ……」
あれほど、嫌悪感を露にしていたクリフトが、ルカにすがり付き、その名を呼ぶ。
それはそうだ。
目の前が真っ暗なまま突き進んできた道に、優しい光を降らせた相手。
落ちない奴なんていない。
ルカはされるがままに、オロオロと助けて欲しそうにこちらを見ている。
はぁ……バーンに続き、クリフトも……。
僕も人のことは言えない、か。
バーンが、うっとりとした顔をしてルカに抱きしめられている。
僕は何を見させられてるんだろう……。
これが、あの、バーン?
貴族主義で、冷徹な?
ルカがバーンのことを侯爵子息だと知らずに態度を注意した時は、本当に焦った。
なんとか、自分がバーンの怒りを収めないといけないと思ったのに。
「テオ!様をつけるな!ここでは身分差は関係ない。じゃないと、俺たちも友達になれない」
この言葉には、僕もはっとした。
僕がバーンに様をつけるなら、ルカも僕に様をつけなければいけない。
僕はルカに様をつけて呼んで欲しくなんてなかった。
「……っ、そのようなことを言われなくとも、分かっている!テオドール、お前もここにいる間は好きに呼ぶといい。……お前、名は?」
まさかバーンが、ルカに名を尋ねるなんて!
平民の名を知りたがるような奴じゃない。
「ルカだ!よろしくな、バーン!」
なぜそこで、抱きつく!
握手だろ、せめて!
そして、怒り狂うかと思ったら、バーンが恍惚の表情をしている。
「わ、私は、これで失礼するっ」
あのバーンだとはとても思えない無様な格好で去る。
ルカは、僕の時もそうだったけれど、人の心に入り込むのが上手い。
何か裏があるのではないか、と思えるほど。
あのバーンですら、あの態度。
ますます、ルカが分からない。
もっと、知りたい。
バーンが去り、ルカと一緒に自室に向かう。
まずは近い一階の僕の部屋に向かうことになった。
僕は個室だ。
侯爵以上が今年はバーンしかいないため、特例で個室になったと聞いた時は良かったと思ったが、ルカと出会った今はむしろ二人部屋が良かった。
「僕、個室を止めてルカと同室に変えて貰おうかな……」
軽いトーンで口にしたが、本心だった。
どんなに広い部屋で快適に過ごすよりも、ルカと一緒の方が……
「ダメだ!俺がテオの部屋に遊びに行けなくなるだろ?テオも、遊びに来てくれ!互いの部屋を行き来する……なんかいいよな!」
即座に同室拒否された。
拒否されたのに、二人の関係性は否定されない。
「互いの部屋を行き来する……って、なんかいいって、何!?」
なんだろう、このむず痒い気持ちは。
自分への好意は明らかに見て取れるのに、近付こうとするとふっといなくなる。
頭の中でグルグル考えていたら、示された自室に着く。
扉を開けると、すでに荷物が運ばれていた。
備え付けの本棚には本が並べられ、クローゼットにも運んできた家の者が衣類などをすでに仕舞っていた。
簡易的な浴室、備え付けの本棚、クローゼット、ベッドに机……広さも設備も、高位貴族が暮らすには手狭な印象だが、別に困るわけではない。
「テオ!ベッドがでかい。二人で寝られるな!」
突然の爆弾発言。
「えっ……そ、そうだね?」
どういうこと!?
二人って、僕とルカだよね?
え?
これは……夜のお誘い?
まさか、性に奔放なのか?
さすがに入学初日からダメだ。
せめて、明日……
「テオ、早く俺の部屋にも行きたい!」
!
僕は何を考えてるんだ!
慌てて持参した貴重品などを備え付けの金庫に仕舞い、鍵をかける。
「お待たせ。ルカの部屋に行こう?同室が良い人ならいいんだけど……」
ルカは、本当に危ない。
あの発言は僕じゃなかったらそのまま寝台に引き込まれても仕方ない。
変な奴が同室だと……嫌な予感しかしない。
二人で三階のルカの部屋へ向かう。
この少し離れているのも嫌だな……隣室ならすぐ駆けつけられるけど……。
「テオはどのコース志望なんだ?」
「僕はやっぱり、術師コースかなぁ。ルカは?」
ルカの実力は未知数だ。
水晶玉のこともそうだが、この寄宿学校に通うということは、皆目指すは中枢。
王都だ。
ルカから王都の希望も聞いたことがない。
「俺はまだ未定だから、決まるまでは三コースとも日替わりって言ってたけど、まぁ、いろいろやれて良かったかな。木こりなら……剣術コースで筋肉つける方がいいのか……術師コースで何か補助魔法を学ぶのも……国政コースは……いらないな!」
「やっぱり、木こりが基本なんだね……」
読めない!
本気で木こりに?
そんなはずない!
裏がある!
……と思いたい。
ルカの部屋に到着し、軽くノックをする。
「……どうぞ」
「入るぞ!」
ルカの後について部屋に入る。
中の男……見たことがない。
しかし、平民にしては身なりが良い。
すでに本棚に並べてある書物の量も多く、裕福さが伺える。
父に同伴したパーティーなどにいなかったとなると、下級の貴族か?
見た目はこの国には珍しくメガネ姿だ。
暗めの茶色の髪、深緑の瞳もよくある色だが、顔立ちは整っている。
知的さも感じ、女性に好かれそうだ。
「俺はルカ!同室になった、よろしくな」
「あぁ」
「名前は?」
「クリフト」
ルカに対し、友好的ではなさそうだ。
なぜか、ほっとする自分がいる。
平民を嫌う下級貴族といった所か。
とりあえず、僕が間に入ってあげよう。
このままだと、ルカが可哀想だ。
二人の会話にスッと入る。
「初めまして。僕はルカの友人でテオドール」
クリフトが椅子から立ち上がる。
「ロレーヌ辺境伯テオドール様ですね?お噂はかねがね……同じ寄宿学校で学べるとは幸運です」
この感じ……商人の子息だな。
僕のことを金づるだと思っていそうだ。
「同じ寄宿生だ。テオでいい」
「なんと!恐れ多いことでございます。望外の喜びです。これからも親しくして頂けると……」
「クリフト!」
「……」
突然、僕とクリフトの会話にルカが入ってきた。
クリフトは返事すらせず、不快感を露にしている。
「お前は平民か?」
「……それが?」
「俺もだ!」
ルカらしい……空気を読めない会話……。
満足そうにニコニコ笑っているが、平民仲間だとか思っているんだろうか。
「魔力量は多いのか?」
「……」
「俺は魔力量が多くないと無料って知らなかったんだよー。クリフト、知ってたか?」
「……」
「コースはどこだ?俺は魔力量測定が……」
「うるさい!黙れ!」
とうとう、クリフトがキレた。
ルカは驚いた顔でクリフトを見ているが、当然の流れだ。
魔力量の話は基本、タブー視されている。
もちろん、バーンのように自他共に認める魔力を持っていると公言している者もいるが、それは少数。
基本は僕のように皆、自信がない。
誰でも、自信がない話を人に振ったりしない。
その例外が、ルカだ。
「さっきから何をごちゃごちゃと!魔力などないっ!」
この言葉には、驚いた。
魔力が、ない?
なのに、なぜ寄宿学校に?
裕福な商人の子息であれば、寄宿学校の費用などは下級貴族よりも容易く出せるだろうが、意味がない。
損得勘定で動く商人が、なぜ……。
「クリフト、お前の夢は何だ?」
夢?
突然、何だろう?
「な、んで、そんなこと」
「魔力がないのに、寄宿学校に来るって夢でもないとしないだろ?」
いや、夢があっても、魔力がなければ寄宿学校に入る意味がない。
お金の問題だけではなく、どのコースに入ろうと魔力がなければ上へはいけない。
時間とお金の無駄だ。
「いや、言いたくないならいいんだ。でも、自分の胸に置いておくのもいいが、ココにはいろんな奴がいるんだから、言って楽になるのもいいんじゃないか?」
「楽、に……は、はは……」
ほら。
ルカが意味がわからないことを言うから、クリフトが呆れて笑ってる。
「ど、どうした?クリフト」
ルカはクリフトが笑う意味がわからないみたいで、驚いてる。
……ん?
クリフト、泣いて、る?
「どこか痛いとかか?それとも、俺が何か気に触ることを言ったのか?」
どこに泣く流れがあった?
ルカは必死でクリフトを慰めているが、僕も理由がさっぱり分からない。
「ルカ……」
「ん?」
「宰相に……なりたいんだ」
はぁ?
ルカに背中を擦られながら、か細い声でクリフトが言い出す。
その手は、ルカの服の袖を掴んでいる。
「そうか。宰相になりたいのか。クリフトなら、良い宰相になれるさ」
なっ……!
「そんな口だけのことっ」
なれるかっ!
宰相だって?
国の中枢のトップだよ?
魔力がない平民が?
バーンが語っても大それた夢だと言うのに……。
ルカもそんな簡単に言うものじゃない。
「口だけで、言ってないぞ?心から思ってる。さっきまで読んでた本、国史だろ?俺がこの部屋に来るまでに、自分の荷物も片付けてるし、移動もあって疲れているだろうに、ベッドを使った形跡はない。そんな寸暇を惜しんで国史の本を読むような勤勉な奴が宰相になったら、ますます良い国になるさ」
そんなことまで、見ていたのか?
僕は……そんなこと全く気づいていなかった。
短時間で、そこまでクリフトのことを理解するなんて、僕にはできない。
「なれない!魔力もない平民が、宰相なんて、なれるわけないっ」
「あのなぁ!世の中のほとんどが平民なんだぞ?平民の暮らしを守るために中央では必死に政治をしてるんだ!なのに、なぜその平民が宰相になれないんだ?一番気持ちが分かって、一番最適だろ!」
「最適……」
そんな考え方……。
貴族は貴族のために政治をしている。
平民のためじゃない。
貴族である僕は、それが当然だと思ってしまっている。
胸に突き刺さった。
「中央には魔力多いやつなんかいくらでもいるんだ。術師だって、騎士だって。なら、魔力はそいつらに任せておいて、別のもので勝負しろ!宰相に魔力なんていらないだろ?」
魔力なんていらない?
今まで、そんな考えを持ったことがない。
中枢で働くのは、魔力量が多く、剣術に優れ、権謀術数にたけた人物。
どれかが損なわれれば、その道は狭い。
……でも、何かを極めることができれば、否ではない……?
「ルカ……ルカ……」
あれほど、嫌悪感を露にしていたクリフトが、ルカにすがり付き、その名を呼ぶ。
それはそうだ。
目の前が真っ暗なまま突き進んできた道に、優しい光を降らせた相手。
落ちない奴なんていない。
ルカはされるがままに、オロオロと助けて欲しそうにこちらを見ている。
はぁ……バーンに続き、クリフトも……。
僕も人のことは言えない、か。
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