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一難去ってまた一男

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「えぇっ、荷物これだけなの!?」

テオに驚かれる。
俺は荷物として、あと一揃えの服と下着を持ってきているだけだ。

「いや、寄宿舎に全部揃ってるって聞いたんだけど……」

「いや、それにしても少なすぎでしょ……」

テオは呆れ顔だ。

「制服や勉強道具は一式支給されるけど、休みの日の服は?」

「あと一揃えあるぞ!今着てるのと交互に洗って着れば問題ない!」

胸を張る。

「一年間だよ?一年間二枚!?寒くなったらどうするの?」

「俺は寒さには強い!」

再び、胸を張る。

はぁーっとため息をつかれる。
何か問題があるんだろうか……?

「買う……つもりはなさそうだし、いいよ、僕は余分に持ってきてるからいくつか君に合うのを見繕ってあげるよ」

「く、くれるのか!?」

あ、勢いよすぎて、テオがちょっと引いてる。
お金はある所にはあるが、ない所にはない。

俺の所には、ない!!

「テオはどこの所有領だ?」

有名な所なら、知ってるかな?

「ウチはロレーヌだよ」

「ロレーヌ!!めちゃめちゃすごいじゃん!今は辺境伯?」

「そうだね。元々父上は伯爵だったみたいだけど、ロレーヌをまかされて、辺境伯になったんだ。……詳しいね?」

「お、おぅ。なら、くれ!出世払いするからっ」

テオの所にはめちゃめちゃ金がある。
ロレーヌは銀山があるから、工業も商業も盛んだ。
貧しい平民に服の一枚や二枚どうってことない。

まぁ、俺が木こりになったら、初めて伐った木で熊でも彫って送ってやろう。

「ロレーヌの銀山は一度行ってみたいと思ってたんだけど、機会がなくてな。坑夫たちは病におかされたり、短命な者が多いだろ?術者を派遣しようにも、中央との折り合いもあって難しい……って話を聞いたことがあってー」

や、やばい。
ついつい、前のルカ時代に気になってたことをベラベラ話してしまった。

テオは……おぉ、安定のほんわかテオだ。
気づかれてない~鈍いテオで良かった~。

「そんなにロレーヌのことを考えてくれてる人がいるんだね~ありがたいよ~」

にこにこ。ほわほわ。

「僕も、そこがずっと気になってるんだ……父上は仕方がないって言うけど、そんな訳ない。命の礎で成り立つ物はいつか瓦解する。民のために、何か策を考えないといけない」

さっきまでのほんわかテオはどこにいったのか。
為政者の顔だ。
ロレーヌはこれから、もっと発展するな。
いや、こんな人材、中央がほっとかないかー。

「私と同じ光量の者がいると聞いたら、お前かテオドール」

背後から冷めきった声が聞こえる。
振り返ると、そこには長身の美丈夫がいた。

長い金髪を後ろで一つに束ね、瞳は深海のような暗い蒼、鼻筋は通り、物語に出てくる妖精のような美しい顔立ちだ。
だが、その眼光が鋭く、表情も冷淡だ。

「……バーン様」

あ、あれぇ?
にこにこなテオが俺が見ても分かるレベルの不機嫌顔に変わった!?

誰??
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