運命なんていらない

文字の大きさ
上 下
32 / 46

誕生日·その後(軽く*)

しおりを挟む
誕生日の昼、蒼にぐずぐずに抱かれ、夜はもう微動だにできず……。

「わりぃ。体力つけないとな」

甲斐甲斐しく蒼に世話をされながら、ちょっと申し訳なく感じていた。

「気にしないで。僕が我慢できなかっただけだし、カナの世話やくの好きだしね」

蒼は上機嫌で俺の髪を乾かしている。

「また、僕に戻ってるぞ?」

海里さんに言われるまで、気づかなかった『僕』だが、気持ちが通じあった今も蒼は使っている。

「あぁ、癖になっちゃったみたいで、これからも混じるかも。カナに優しくしたいって気持ちももちろんあるしね。海里は呪いとか言ってたけど、僕は誓いって感じだしね」

「誓い?」

蒼がドライヤーを止め、俺の髪を軽く手でセットしながらすまなそうに笑う。

「中学のバース性診断の日、僕、カナを傷つけたでしょ?」

あの日か。

「僕が、カナがΩで良かったって言って、傷つけた。あの時は自分のことしか考えてなかったんだよ。カナを番にできるって、縛り付けられるってことしか考えてなくて。ヒートに苦しむとか抑制剤飲まないといけなくなるとか、辛いことの方が多いのに。あの時、カナが僕のことを敵みたいな目で見てさ。もう、ショックで。あの時に誓ったんだよ。もう絶対に傷つけない。自分のことより、カナの幸せを優先するって。あの時のことがなかったら、我慢できずに襲って噛んでたかも」

わざと、口をあーっと開けておどける。
たぶん、蒼にとって俺が拒絶した態度を取ったあの日が、トラウマのようになっているんだろう。

次にまた傷つけたら、もう側にいられないかもしれないって自分の気持ちを押し込め続けた蒼……やっぱり、海里さんの呪いの方がしっくりくる。

でも、もう呪いは解けた。
蒼にも、自分の気持ちを出して欲しいし、俺も遠慮なんてしない。
それで喧嘩しても、仲直りすればいい。
俺たちは一生、そうやって一緒に生きていくんだ。

……自分が考えてることが恥ずかしくなってきた。

「なー、誕生日プレゼントは?」

髪を乾かし終わった蒼に背後から抱きしめられながら一人で赤くなってるのを誤魔化したくて、プレゼントのことを持ち出してみる。

「本当は車を買ってたんだけど、それより」

「ちょーーっと、待て。車!?」

すごいこと言われた。
甘い雰囲気出してたのが、吹っ飛んだ。

「移動の時に車なら安心でしょ?公共機関はやっぱり心配だから」

いやいやいや。
待て待て。

「俺、免許ないぞ?」

「短期で取れる所があるから、僕も一緒に付いていけばいいかなーって」

目立つわ!

「返品しろ」

蒼が吹き出す。
いや、本気だ。
俺に金をかけるな!!

「さすがに返品はできないよー。まぁ、僕が乗ってもいいしね。それに、もっと良い誕生日プレゼントを思い付いてね。マンション、買おうと思って」

……コイツ、ぶん殴らないと分からないのか?

「ちょっ、何でそんな怖い顔するの!聞いてー!」

背後を振り返り、拳を握りしめてた俺をぎゅっと抱きしめると、頭に顎を乗せてくる。
完全にホールドされた。

「離れてるの、嫌なんだ。カナが一人暮らししたいって言い出した時も、本当は嫌だったけど、父さんのマンションだったし、カナが自立したいってずっと思ってたのも知ってたから」

俺の思いを優先してくれてたのか。

「今は、ただ一緒にいたい。ちょうど父さんのマンションから出ようと思ってたしね。俺はこれからも、ヒート関係なくカナを抱きたい。毎日でも。あんなに溶け合ったのに、そんなカナを置いて家に帰るなんて、できないよ」

さっきまでの二人を思い出して、顔が赤くなる。

「だから、これは俺へのプレゼントでもある。受け取ってくれる?」

「でも、そんな高いのは……」

「いや、マンションは元々買おうと思ってたから、カナはそこへ引っ越してくるだけ。プレゼントはココからソコへの引っ越し代!……って、そう考えたらしょぼいね?」

へへへ、と笑う。
俺に負担をかけないように、わざとふざけているのが丸分かりだ。
 
俺は後ろから抱きしめている蒼の腕をほどき、向かい合う体勢に変える。
蒼の両足を俺の足で挟み、上に乗り上げる。
目線が蒼より上にくる……新鮮だ。

「わーったよ。そのプレゼント貰う。ありがとな。俺も、一緒にいたい」

軽く、ちゅっとキスをする。

蒼は鳩が豆鉄砲をくらったみたいな顔。

俺と蒼に格差があるのなんか最初から分かってる。
もう、変なプライドもいらない。
甘える所は甘えて、支える所はお互い支えればいい。

蒼の反応に調子に乗った俺は、また軽くちゅっとしてやろうと、顔を寄せる。
目を閉じようとした瞬間、大きく口を開けた蒼が見えた。
反射的に顔を反らそうとしたが、後からがっちり手で頭部を押さえつけられ、そのまま貪られる。

「んむっ、んっんっ」

容易く侵入した舌は、上顎を軽く擽り、俺の舌に絡まってくる。
歯列を丁寧になぞられ、溢れた唾液が零れないようにコクコクと飲み込む俺をあやすように頬を撫でる。

ようやく解放された時には、息が上がっていた。

「カナ、そんなことされたら、我慢できないよ……」

ぐっと俺の腰を持ち、蒼の高ぶりを尻に擦り付けてくる。

「やっ、あおっ」

蒼の濃厚なキスで俺も勃ってしまい、お互いの腹に挟まれて擦られ、両方からの刺激で射精感が強まる。

雄の顔をした蒼は、俺の服を脱がしにかかっている。

アレだけしたのにっ……!
数時間前のことを思い出しながら、また俺は蒼の首にしがみついた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

好きなあいつの嫉妬がすごい

カムカム
BL
新しいクラスで新しい友達ができることを楽しみにしていたが、特に気になる存在がいた。それは幼馴染のランだった。 ランはいつもクールで落ち着いていて、どこか遠くを見ているような眼差しが印象的だった。レンとは対照的に、内向的で多くの人と打ち解けることが少なかった。しかし、レンだけは違った。ランはレンに対してだけ心を開き、笑顔を見せることが多かった。 教室に入ると、運命的にレンとランは隣同士の席になった。レンは心の中でガッツポーズをしながら、ランに話しかけた。 「ラン、おはよう!今年も一緒のクラスだね。」 ランは少し驚いた表情を見せたが、すぐに微笑み返した。「おはよう、レン。そうだね、今年もよろしく。」

罰ゲームから始まる不毛な恋とその結末

すもも
BL
学校一のイケメン王子こと向坂秀星は俺のことが好きらしい。なんでそう思うかって、現在進行形で告白されているからだ。 「柿谷のこと好きだから、付き合ってほしいんだけど」 そうか、向坂は俺のことが好きなのか。 なら俺も、向坂のことを好きになってみたいと思った。 外面のいい腹黒?美形×無表情口下手平凡←誠実で一途な年下 罰ゲームの告白を本気にした受けと、自分の気持ちに素直になれない攻めとの長く不毛な恋のお話です。 ハッピーエンドで最終的には溺愛になります。

薫る薔薇に盲目の愛を

不来方しい
BL
代々医師の家系で育った宮野蓮は、受験と親からのプレッシャーに耐えられず、ストレスから目の機能が低下し見えなくなってしまう。 目には包帯を巻かれ、外を遮断された世界にいた蓮の前に現れたのは「かずと先生」だった。 爽やかな声と暖かな気持ちで接してくれる彼に惹かれていく。勇気を出して告白した蓮だが、彼と気持ちが通じ合うことはなかった。 彼が残してくれたものを胸に秘め、蓮は大学生になった。偶然にも駅前でかずとらしき声を聞き、蓮は追いかけていく。かずとは蓮の顔を見るや驚き、目が見える人との差を突きつけられた。 うまく話せない蓮は帰り道、かずとへ文化祭の誘いをする。「必ず行くよ」とあの頃と変わらない優しさを向けるかずとに、振られた過去を引きずりながら想いを募らせていく。  色のある世界で紡いでいく、小さな暖かい恋──。

平凡な男子高校生が、素敵な、ある意味必然的な運命をつかむお話。

しゅ
BL
平凡な男子高校生が、非凡な男子高校生にベタベタで甘々に可愛がられて、ただただ幸せになる話です。 基本主人公目線で進行しますが、1部友人達の目線になることがあります。 一部ファンタジー。基本ありきたりな話です。 それでも宜しければどうぞ。

貴族軍人と聖夜の再会~ただ君の幸せだけを~

倉くらの
BL
「こんな姿であの人に会えるわけがない…」 大陸を2つに分けた戦争は終結した。 終戦間際に重症を負った軍人のルーカスは心から慕う上官のスノービル少佐と離れ離れになり、帝都の片隅で路上生活を送ることになる。 一方、少佐は屋敷の者の策略によってルーカスが死んだと知らされて…。 互いを思う2人が戦勝パレードが開催された聖夜祭の日に再会を果たす。 純愛のお話です。 主人公は顔の右半分に火傷を負っていて、右手が無いという状態です。 全3話完結。

嘘の日の言葉を信じてはいけない

斯波良久@出来損ないΩの猫獣人発売中
BL
嘘の日--それは一年に一度だけユイさんに会える日。ユイさんは毎年僕を選んでくれるけど、毎回首筋を噛んでもらえずに施設に返される。それでも去り際に彼が「来年も選ぶから」と言ってくれるからその言葉を信じてまた一年待ち続ける。待ったところで選ばれる保証はどこにもない。オメガは相手を選べない。アルファに選んでもらうしかない。今年もモニター越しにユイさんの姿を見つけ、選んで欲しい気持ちでアピールをするけれど……。

からっぽを満たせ

ゆきうさぎ
BL
両親を失ってから、叔父に引き取られていた柳要は、邪魔者として虐げられていた。 そんな要は大学に入るタイミングを機に叔父の家から出て一人暮らしを始めることで虐げられる日々から逃れることに成功する。 しかし、長く叔父一族から非人間的扱いを受けていたことで感情や感覚が鈍り、ただただ、生きるだけの日々を送る要……。 そんな時、バイト先のオーナーの友人、風間幸久に出会いーー

恋のキューピットは歪な愛に招かれる

春於
BL
〈あらすじ〉 ベータの美坂秀斗は、アルファである両親と親友が運命の番に出会った瞬間を目の当たりにしたことで心に深い傷を負った。 それも親友の相手は自分を慕ってくれていた後輩だったこともあり、それからは二人から逃げ、自分の心の傷から目を逸らすように生きてきた。 そして三十路になった今、このまま誰とも恋をせずに死ぬのだろうと思っていたところにかつての親友と遭遇してしまう。 〈キャラクター設定〉 美坂(松雪) 秀斗 ・ベータ ・30歳 ・会社員(総合商社勤務) ・物静かで穏やか ・仲良くなるまで時間がかかるが、心を許すと依存気味になる ・自分に自信がなく、消極的 ・アルファ×アルファの政略結婚をした両親の元に生まれた一人っ子 ・両親が目の前で運命の番を見つけ、自分を捨てたことがトラウマになっている 養父と正式に養子縁組を結ぶまでは松雪姓だった ・行方をくらますために一時期留学していたのもあり、語学が堪能 二見 蒼 ・アルファ ・30歳 ・御曹司(二見不動産) ・明るくて面倒見が良い ・一途 ・独占欲が強い ・中学3年生のときに不登校気味で1人でいる秀斗を気遣って接しているうちに好きになっていく ・元々家業を継ぐために学んでいたために優秀だったが、秀斗を迎え入れるために誰からも文句を言われぬように会社を繁栄させようと邁進してる ・日向のことは家族としての好意を持っており、光希のこともちゃんと愛している ・運命の番(日向)に出会ったときは本能によって心が惹かれるのを感じたが、秀斗の姿がないのに気づくと同時に日向に向けていた熱はすぐさま消え去った 二見(筒井) 日向 ・オメガ ・28歳 ・フリーランスのSE(今は育児休業中) ・人懐っこくて甘え上手 ・猪突猛進なところがある ・感情豊かで少し気分の浮き沈みが激しい ・高校一年生のときに困っている自分に声をかけてくれた秀斗に一目惚れし、絶対に秀斗と結婚すると決めていた ・秀斗を迎え入れるために早めに子どもをつくろうと蒼と相談していたため、会社には勤めずにフリーランスとして仕事をしている ・蒼のことは家族としての好意を持っており、光希のこともちゃんと愛している ・運命の番(蒼)に出会ったときは本能によって心が惹かれるのを感じたが、秀斗の姿がないのに気づいた瞬間に絶望をして一時期病んでた ※他サイトにも掲載しています  ビーボーイ創作BL大賞3に応募していた作品です

処理中です...