運命なんていらない

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あんなに大冒険だと感じていた外出は、いざ出てみると特に何てこともなかった。

何より、蒼がいるという安心感。

家族でもない。恋人でもない。
ただの幼馴染み。

でも、それだけじゃない。蒼の存在はもう、幼馴染みでは括れない。

二人で、ぶらぶら歩く。

楽しかった。

俺のことなんか誰も知らない街で、蒼に「ここは最近出来たカフェだよ」とか「この前買って帰ったマグカップはココで買ったんだ」とかたわいもない話に「へー」とか「ふーん」と返す。

街中に溶け込んでる自分が嬉しくて、知らず知らず口許は緩んでいた。

特に目的もないとぶらぶら歩いていたつもりだったが、緑に覆われた一軒家にたどり着く。

「?」

建物は洋館のようだが、特に看板や表札すらない。

レストランか?と蒼を仰ぎ見ると、イタズラが成功したみたいにニヤリと笑った。

「美術館だよ」
「え?」

「個人の方が趣味で集めた絵画を展示してるんだって。カメラマンさんにチラッと聞いてね。今日、入れるようにお願いしたんだ」

ヤバい。
涙腺が崩壊しそうだ。

きっと、いろんな伝を使って此処に入れるようにしてくれたんだろう。
簡単ではなかったと思う。

ものすごくありがたい。

それに、蒼は信じてくれたんだ。
俺が誕生日に外に出て、歩いてここまで来るってことを。

ずっと何年も引きこもっていたのに、俺自身も俺の行動に驚いてるくらいなのに、蒼は、信じて此処を押さえてくれていた。

「やべぇ。お前、カッコよすぎだって」

潤んだ目を誤魔化しながら、肩に軽くパンチする。


二人で緑のアーチをくぐり、その洋館の入り口に不釣り合いな近代的な認証システムに番号を打ち込み、瞳をかざす。
わざわざ、別日に登録に来たらしい。

中は思っていたよりも広く、西洋、東洋、時代も織り混ざった絵画が並んでいた。

繊細な筆遣いやタッチ、色彩の多用さなど、時間を忘れて見いった。
特に興味のある絵画にはいろんな角度から見たり、ものすごく接近して見たり、時間をかけた。

蒼も無言で俺の好きなようにさせてくれていた。

見終わり、深いため息が出る。

「すげぇ、勉強になった……」

本物の生の迫力。
イラストレーターと画家はもちろん違う職業だし、アプローチの仕方は俺とは全く異なる作品ばかりだったが、感性が刺激された。
この一言に尽きる。

ぽーっとしたまま洋館を後にする。

「疲れたよね?昼ご飯にする?それとも軽くお茶する?」

「あ?あぁ……まだそんなに腹減ってないわ~朝食い過ぎ。昼ご飯の代わりに甘いもん食いたい」

「りょーかい」

蒼のオススメのカフェに行く。

ふわふわパンケーキ食べたいよね?と言われて、何度も頷いてしまった。

テラス席に案内され、俺は早速メニューを見ながら熟考する。

王道のチョコバナナにしようか……いや、抹茶のパンケーキもいいな……この季節限定って今だけか~ん~。

蒼はクスクス笑いながら、夜はケーキ食べるんだから、ほどほどにね?と言った。

結局、王道のチョコバナナにした。

ふわふわのパンケーキに大量のホイップクリーム……テンションが上がった。

蒼は優雅に紅茶を飲んでいる。

保護者と幼児か!……心の中で突っ込みながらも、目の前の幸せを堪能する。

「あの……モデルの蒼さんですよね?」

可愛い女子大生風の女の子二人組が声をかけてきた。

蒼はにこやかに対応している。

キャアキャア盛り上がってる二人に、あー女の子可愛い~と微笑ましく思っていた。

女の子たちが嬉しそうに立ち去った。

「可愛い女の子にもモテモテで、うらやましーな」

ニヤニヤしながら残りのパンケーキをパクつく。

「別に。好きじゃない相手にモテても仕方ないよ」

クール。

「俺なら誰でもいいからモテたいけどなー」

「じゃあ、僕でいいでしょ?」

なんでだよ!!

また、そういうこと言う……。
お前のファンの女の子たちなら倒れてるわ。

「ちゃんと、さっきの子達にもデートだからそっとしといてって言ったよ」

「おい!ふっざけんな!」

キャップのお揃いを許したことを後悔する。
まださっきの子達が店内にいるかもしれないので、急いでパンケーキを食べて店を出る。

「お前のせいで、ふわふわ満喫できなかったじゃねーか」

ぶつぶつ文句を言う俺をなだめながら二人で歩く。

「誕生日ディナーもって思ったんだけど、あんまり堅苦しいのも嫌でしょ?ケーキは注文してるからそれだけ受け取って、ピザパーティーにしよっか!」

さすが蒼!分かってるー!!

俺は小さい時から宅配ピザが大好きだった。
ピザパーティー最高♪

途中、オシャレなお店でケーキらしき物を受け取り、帰路に着く。
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