運命なんていらない

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蒼との二人暮らしはあっさりと両親からも認められた。

ずっと引きこもってた俺を見ているだけでつらかったんだと思う。

生活費も仕送りをすると言われた。
さすがにそれは申し訳なかったが、まだ外に出るのが怖くて、ちゃんと働けるようになったら返す、と甘えることにした。

蒼も家賃はかからないとはいえ、俺が住むことで部屋は確実に狭くなるし、光熱費も上がる。
親の仕送りで生活する以上、お金はあまり出せないから、家賃は大学生の蒼の代わりに家事をすることでお互い納得した。

「俺はカナが居てくれるだけでいいんだけどね?」

蒼は優しい。

俺は蒼と暮らすことによって、少しずつ前を向くようにになっていった。

このままじゃいけない。
でも、関係ない蒼に迷惑をかけてはいけない。

今思えば、俺の性格的に蒼と暮らすことで負担になり、それが嫌で力ずくで前を向いたんだと思う。
蒼はそれも計算ずくで同居を勧めたんじゃないかな。

相変わらず外に出るのは怖くて、スマホで俺にもできることはないのか探した。
そして、在宅でできることをいろいろ始めた。

主婦がやってるような内職などしてみたが、やはり一定以上稼ぐのは大変で。
しかも、俺は不器用で遅かった。

いずれはこのマンションを出ていかないといけない。
実家にも、戻りたくはない。
……どうしても、また出会うんじゃないかと思ってしまう。

SEなど、在宅でも出来てある程度収入が得られる職に就けるような専門学校などにも通えず、何か通信教育か……と考えていると、蒼が「これは?」とスマホに表示されている広告を見せてきた。

それは雑誌のイラストレーターを募集しているという内容だった。

イラスト……考えてもなかった。
特別な学校にも行っていない俺がイラストレーターになんて……。

「カナ、絵を描くの好きだったよね?学祭の時も看板描いてた。すごかったよ、アレ」

少し、顔が赤くなる。

実は、俺は絵が好きだった。
本当は、美術系の大学に行きたいと思っていたくらいに。
ちゃんとデッサンとか指導を仰がないと無理だと知って諦めた。

学祭の時は、校門に掲げる看板にその年のテーマにちなんで昇龍の絵を描いた。
自信作だった。
みんなにスゲーと言われて、心の中で何度もガッツポーズをした。

それからも、受験の息抜きにタブレットで絵を描いて楽しんでいた。
それをインスタにあげて、みんなからのコメントを嬉しそうに眺めたりしていた。

「……送って、みようかな?」

選ばれることはなくても、挑戦してみたい。
久しぶりにワクワクした。

「イラスト、描くの時間かかるでしょ?その間は僕が家事をするよ。ちょうどレポートも落ち着いてるし」

「でも、それは……」

「カナは集中してるとそれだけになっちゃうから、もう焦げたハンバーグやだな」

「う」

俺は不器用だから、ついつい内職の完成した物を丁寧に箱詰めしていたらハンバーグが焦げてしまって……。

「……じゃあ、今回だけ甘える」

「いつでも甘えて」

「ばーか」

おどけて投げキッスをしてくる蒼に笑いながらつっこむ。

あ、笑ったの……久しぶりだ……なんだか泣けてきた。
誤魔化すように、すぐ部屋に戻って作業をする。

描きたい物をリストアップし、とりあえずタブレットでラフを描いてみる。

いや、構図はもう少し工夫して……
インパクトも欲しいから、もう少し大きくした方がいいかな……
……んー、直す前の方が良かったか?いや、それよりもっと……

「カナ!カーナー」

蒼の声にはっとした。

「本当に集中してると他のこと忘れちゃうけど、声も聞こえないんだね?」

「わりぃ」

「いいけど、倒れるまではダメだよ?ちゃんと僕が大学行ってる時も御飯食べたりしてよ!」

「分かってる」

……たぶん、食べない。
少々食べなくても死なねぇし。

「どうせ、食べないつもりだろうけど、食べてなかったら大学から食べさせに帰るよ?」

「アホか!幼児か!」

これ以上、迷惑はかけられない。

「ちゃんと食べて」

「……わーったよ」

ウチの親より過保護だ。

「じゃあ、一緒に食べよう?いただきます」

「いただきます!」

……うっまっっ。

「……蒼、お前は料理人にでもなるのか?旨すぎだろ!俺の作ったのよく食べれたな!?」

「ははっ。そこまでじゃないよ~。カナが一生懸命作ってくれたご飯、尊かったよ」

「……おい、そこは嘘でも旨いって言えよ」

「え、ごめん」

二人で笑う。
あぁ、こんなに楽しい夕食久しぶりだ。

あんなに狭まっていた世界が広がった気がした。
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