陽キャの国の王子様

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未来におびえる陰キャ

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「好きだ、春澄」

え?
今、好きって言った?
僕に好きって言った!?

陽キャたちの誰にでも言う「好き」じゃないってことくらい、僕にも分かる。
京平さんの顔は真剣だ。
本当に、こんな陰キャの僕のことを好き、なんだ。
陽キャの王子様が?なんでぇ??

ど、どうすれば……。

ぐるぐる考えている間に顔に熱がどんどん溜まる。
もう、沸騰して倒れこみそうなくらい。

京平さんは優しく笑いながら、僕の顔に手をあてるとふわりと触れる。
「真っ赤だよ、春澄。これは返事を期待してもいいのかな?」

えっ、僕が選ぶの?
京平さんと付き合うかどうかってこと!?
いやいやいやいや、釣り合わないでしょうが!!
無理だって。
この僕が、この京平さんと、お、お付き合い!?
どこの世界線でも、そんなのない!

「あっ、あの、僕と京平さんじゃ……」
「釣り合わないとかは聞かないよ」
先に潰された……。

無理。
とにかく、無理。
この王子様の下僕として城で働くのでさえギリギリの僕が、隣に立つのは無理。
シンデレラのように、魔法使いが変身させてくれる訳じゃない。

僕は僕のままだ。

京平さんは一緒に暮らして情が湧いただけだ。
尚さんが僕を恋人として、みたいに言ったから自分も流れでそうなっただけ。
冷静になれば、僕がただのその辺にいる平民Aだって気づくはず。

「あの、僕は……」
「春澄は、俺のこと、好きじゃない?」

ズルい。
いつもは紳士的に「私」って言うのに、時々出てくるこの「俺」にドキドキしてしまう。
京平さんのことを好きじゃないって人、いる?
言葉に詰まっていると「好き?好きじゃない?」と追いつめてくる。

「好きだよ!!」

追いつめられて、とうとう僕は陥落してしまう。

「優しいし、格好いいし、仕事も真面目にバリバリやって、なのに家事が全くできないとかスーパーの買い物ではしゃぐとかめちゃめちゃ可愛くて……どこに嫌うトコある!?」
顔を真っ赤にしながら、早口でまくしたてる。
「それなのに、僕のこと好きとか、無理だよ……そんなの、すぐ消えちゃうよ……僕は何もないのに……大事な人はもう……」
僕はその場にズルズルと崩れ落ちた。
泣き顔を見られたくなくて、下を向く。
声も後半は聞き取れなかったくらい小さかったと思う。
京平さんは崩れ落ちた僕の隣にすっと腰を落とす。

「私を春澄の大事な人にしてくれますか?」
「へ?」
「追いつめちゃって、ごめんね」
自覚あるんかいっ!
「春澄、押しに弱いからグイグイいったらコロンって落ちてきてくれると思って。でも、やっぱりゆっくりいこう。恋人の前に、まずは大事な人にして。雇い主でも友達でも従兄弟でもない。春澄のことを好きで、あわよくばエッチなこともしたいと思ってる私だけど、まずはハグから」

そこは、まず友達から、じゃないの?
あ、友達じゃないって言ってたか。
あと、エッチなことって!!
つっこみたいけど、つっこみたくない。
何を言われても、絶対上手く言葉を返せない。

でも、「大事な人」って、なんか不思議な響きだ。
もう僕にとって京平さんは大事な人だ。
ここまで京平さんに言わせてる。
僕も、気持ち、伝えなきゃ。

「春澄、ずっと待ってるんだけど?」
「え?」
京平さんの問いかけに思わず顔を上げる。
京平さんは僕の前に手を広げていた。
「まずはハグからって言ったでしょ?」
ハグ……くらいなら僕もできるか。
顔を見ながらよりもハグした状態の方が上手く話せるかもしれない。
恐る恐る京平さんに近づき、少し隙間を空けつつもハグの形を取ると、京平さんが隙間を埋めるべく、距離を詰める。
ふわりと香水なのか大人な香りが鼻をかすめる。

「京平さんのこと、もう、大事な人にしてる。だから、今まで通りでいい?」
「ダメ」
えぇ!?
勇気をふりしぼった言葉はすぐ却下された。

「もっと、心の中に入れて」
何それ……もう、入ってる。
これ以上、入ってこないで欲しい。

これ以上好きになって、心の中が京平さんだけになって、でも京平さんが僕のことを好きじゃなくなって、その後の僕の心のことなんて、考えてないくせに。
僕はそんな遠くない未来が怖くて仕方ないのに。

あぁ、こんなことばかりしか考えられない自分が嫌いだ。
幸せな未来なんて、欠片も想像できない。

京平さんはそんな僕の心を読んだかのようにぎゅっとハグした腕に力をこめる。
「大人のデート、しようか?」
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