陽キャの国の王子様

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癒される陽キャ

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「ただいま」
「お、お帰りなさい」

な、慣れない……。
朝の「いってらっしゃい」と晩のこの挨拶、慣れない!
京平さんは部屋のルームキーを持っているので、何もしなくても入ってこられるが、必ず玄関でチャイムを鳴らし、僕が開けるのを待つ。
深夜になっても、僕が起きているのが分かっているのでそうしているみたいだ。
ちゃんと帰宅を知らせて、僕が眠りやすいように、という意味もあるのかもしれない。

そうなると、帰宅時にはこの挨拶が必須になる。
なぜか、照れる。

「あの、何か必要なら用意するけど?」
「あぁ、じゃあ軽くつまめる物を頼もうかな」

今日は帰りが少し早い。
食事は済ませたと聞いているので、晩酌用にチーズや生ハムなどを用意した。
「春澄、まだ早いから寝ないよね?少し付き合って?」
確かに、まだ寝るには早い。
俺は頷くと、自分用にはカフェオレを淹れた。

少しスペースを開けて、同じソファーに座る。
京平さんはスーツのジャケットを脱ぎソファーの背にかけると、ネクタイをはずし首元を少し緩めている。

うーわー。
これが大人の色気ってやつか。
フェロモン?すごい。
仕事終わりで気だるげな感じも余計にそのフェロモンを強めているように思う。

そのフェロモンにあてられたみたいにぼーっと見つめていると、京平さんが「どした?」と笑う。
僕は慌ててカフェオレを飲んだ。
やばい。
なんか変になってた。

「春澄、少しはこの生活に慣れた?」

そう。
もう、京平さんと暮らすようになって二週間になる。
当初の予定では、もう元ちゃんのマンションに帰ってるはずで。
それが、まだ僕はここにいる。

つまりは……居心地がいい。

もちろん、楽ってのもある。
仕事として拘束される時間は本当に短くて、しかも僕のたいしたことない家事スキルでも京平さんは満足してくれている……たぶん。
とりあえず、何も注意はされてない。

絶対、こんな陰キャすぐに出ていけと言われると思っていたのに、京平さんは相変わらず優しいままだ。

京平さんのお仕事がお休みのはずの土日も、この二週間でちゃんと休みだったのは一日だけで。
あとは、仕事に出ていた。
その一日の貴重な休みをなんと、僕に使ってくれた。

その日はまず、二人で京平さんが懇意にしているテーラーでスーツを発注しに行った。
完成後、取りに行く時間がなかなか作れないかもしれないので、場所を知るためとテーラーさんに受け取る僕の顔を見せる目的で一緒について行ったのに、まさかの僕の物も作ってくれることになって。

スーツなんて、必要ないって言ったんだけど、一着は絶対良い物を持っておいた方がいいと言われ……。
お値段は怖くて見られなかった。
ローンで買います!と言うと、京平さんにも初老のテーラーさんにも笑われた。
二人で、僕を可愛いとか言い出し、めちゃめちゃ恥ずかしかった。
結局、甘えることになり、いろんな所を採寸され、色とか形とか聞かれたけど分からないので、すべて京平さんにおまかせした。

初老のテーラーさんは、もちろん僕が大切なお客様の連れだからだろうけど、優しくて。
採寸しながら、京平さんが誰かを連れて来るのも、こんなにこだわってスーツを作るのも初めてだと笑って言ってくれた。
自分のスーツはいつもお任せらしい。
採寸されながら、ちらっと京平さんを見ると、色見本を見ながらまだ迷っていた。
なんとなく、くすぐったい気持ちだ。

正直言うと……ちょっと完成が楽しみなんだ。

その後は、慣れない採寸で疲れただろうと、デパ地下で豪華な惣菜などを買って家でゆっくり映画を観た。

僕は引きこもり気味の陰キャなので、外を連れ回されるのはキツイ。
突然、BBQ行くよ!とか言われるのは地獄だけど、京平さんはそんな僕のことを分かってくれているのか、外出した後は家で過ごさせてくれる。

ここまでされて、慣れない奴いる!?
慣れちゃダメなのに……。

「あの、快適すぎてっ」
「それは良かった」

あー、色気駄々漏れの笑顔。
女の人、ほっとかないだろうな……。
そういえば、奥さんはいないと元ちゃんから聞いてるけど、彼女さんは?
お泊まりとか。
かなり深夜に帰ってくることは何度もあったけど、泊まったことはない。
え、えっちして、帰ってきてくれてるのかな?
僕のために。
それって申し訳ないな……。

「京平さん、彼女さんは……?」
「ん?いないよ?」

うっそ。
世の中の美女たち、何してるの?
こんな優良物件が……!

「今はねぇ、春澄がいてくれてるから十分癒されて、彼女とかいらないなぁ」

癒し?陰キャの僕が?
言われたことない……ストレス貯まるって言われたことなら何度もあるけど。

「マイナスイオンが出てるのかなぁ?」

仕事、忙しすぎておかしくなってるのかなぁ?

「ふふ、その意味分からないって顔が……ふっ」

また顔見て笑いだした。
そんな笑える顔をしてるのか……元ちゃんにはそこそこって言われてたのに!

ご機嫌にお酒飲んでる京平さんを見ながら、僕はこんな毎日がいつまで続いてくれるんだろうって不安をカフェオレと一緒に飲み込んだ。
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