陽キャの国の王子様

文字の大きさ
上 下
11 / 28

お風呂と陰キャ

しおりを挟む
京平さんより先にお風呂に入る。
京平さんがまだ仕事があるから先にお入りと言ってくれたが、僕の後に!?
む、むりぃ!
陰キャはめちゃめちゃそんなの気にする。
余計疲れる。
そう思ったんだけど、京平さんは湯船に浸からないタイプらしくて、さっとシャワーだけだから、その辺は気にしなくて良かった。
「疲れただろう?ゆっくりしておいで」なんてイケボで言われたから、そこは素直に従った。
僕は湯船に浸かりたい!
一日の終わりは絶対。
深夜のコンビニバイト終わりに泥のように疲れてご飯は抜いても、お風呂だけは楽しみだったくらいなんだから。

お風呂場はさすがにライオンの口からお湯は出てなかった。
ちょっとソレ期待してた。
でも、とにかく広くて。
浴槽は京平さんでも身体をゆっくり伸ばせる。
使い方分かる?と言われて大丈夫!と言ったけど、シャワーが思ってたのと違ってて……。
手で持つタイプではなく、突然上から降ってくるやつ。
ちょっとビビった。
シャワーの水が細かいのかあたりが柔らかい。
置いてある高そうなシャンプーやボディソープも使わせて貰った。
めちゃめちゃ香りが良い!
欲しいな……僕でも買えるレベルじゃないよな……。

お湯に浸かる。
僕の身長だと、身体を伸ばしても端に届かない。
普通に浮かべる。
なのに、いつもの癖でちょっと身体を曲げた状態で入り、今日のことをぼーっと考える。

元ちゃんが言った通り、京平さんは聖人君子だった。
僕のオドオドした態度や声の小ささも何も指摘しない。
嫌な顔もしない。
それどころか、買い物にも付き合ってくれたし、ご飯の味も気に入っててくれて。
雇い主のはずなのに、威張るどころかずっと僕に気を遣ってくれていた。
それに、僕のことも可愛いとか良い子とか、褒める。
ここの所、コンビニのお客さんに怒られたり、嫌な顔をされてばかりで、褒められたことなんて久しぶりだった僕には、想像以上に効いてる。

はぁ……困るよ……。

そんなことをぐるぐる考えていたら、
長湯してしまった。
快適すぎて、お昼とかもムダに入りたい。

ふわふわのバスタオルも使わせて貰った。
鏡に写るのは安物のパジャマに身を包んだ、貧相な僕。
顔も不細工……ではないけれど、元ちゃんと血が繋がっているはずなのに、そのイケメン要素は皆無だ。
確かに、最上級の褒め言葉は格好いいではなく、可愛いかもしれない。
美容室なんて、もう行った記憶すらない。
いつも自分で長くなってきたら適当に切っているせいか左右のバランス悪いどころかガタガタだ。
前髪もいつも元ちゃんに切れと言われていたが、視線が遮られた方が安心するので長め。
印象は薄暗い。
こんなの……よく採用してくれたなぁ。

少しずつ、京平さんへの感謝の気持ちが芽生えてきていた。

お風呂から出て、自分の部屋に寝に行く流れで、一応挨拶をしようと京平さんの仕事部屋に行く。

軽くノックして扉を開けると、京平さんは電話中だった。
どうしよう、タイミング悪いし……とオロオロしていたら、笑顔で手のジェスチャーが待って、と示す。
「Je... je vous tiens au courant」

ひーっ、英語ですらないし!
すごいなぁ……。
素直に感心しつつ、格好いいと思ってしまう。
日本人の外国語できない奴って、こんな風に自然に話してる人への憧れが強いよね。
僕はそう。
一気にぽーっとなった。

「ごめんね、お待たせ」
「こっちこそ!お仕事中にごめ、ん。お風呂、快適すぎた。あり、がとう。寝る前に挨拶をって思ったんだけど……」
「あぁ、そうだね。これからも、おやすみの挨拶くらいしようか。仕事でどんなに遅くても待ってるの?」
「待ってるけど、気にしないで。コンビニバイトで一晩中起きてるの慣れてる」
「分かった。じゃあ、私はまだ少し仕事するから、おやすみ」
「おやすみなさい」

部屋を出ようとすると、「春澄」と声をかけられる。
振り返ると、
「パジャマ、似合ってる。可愛いね」
と爽やかな笑顔の京平さん。
僕はぎこちなく薄く笑うと、ぺこりと頭を下げて、そそくさと部屋を出た。

こんな陰キャの安物パジャマ姿ですら褒めてくるなんて!
さすが、外国語が話せるだけある!

そんな意味不明なことを思いながら、自室に帰った。
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

【短編】乙女ゲームの攻略対象者に転生した俺の、意外な結末。

桜月夜
BL
 前世で妹がハマってた乙女ゲームに転生したイリウスは、自分が前世の記憶を思い出したことを幼馴染みで専属騎士のディールに打ち明けた。そこから、なぜか婚約者に対する恋愛感情の有無を聞かれ……。  思い付いた話を一気に書いたので、不自然な箇所があるかもしれませんが、広い心でお読みください。

例え何度戻ろうとも僕は悪役だ…

東間
BL
ゲームの世界に転生した留木原 夜は悪役の役目を全うした…愛した者の手によって殺害される事で…… だが、次目が覚めて鏡を見るとそこには悪役の幼い姿が…?! ゲームの世界で再び悪役を演じる夜は最後に何を手に? 攻略者したいNO1の悪魔系王子と無自覚天使系悪役公爵のすれ違い小説!

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

完結·助けた犬は騎士団長でした

BL
母を亡くしたクレムは王都を見下ろす丘の森に一人で暮らしていた。 ある日、森の中で傷を負った犬を見つけて介抱する。犬との生活は穏やかで温かく、クレムの孤独を癒していった。 しかし、犬は突然いなくなり、ふたたび孤独な日々に寂しさを覚えていると、城から迎えが現れた。 強引に連れて行かれた王城でクレムの出生の秘密が明かされ…… ※完結まで毎日投稿します

6回殺された第二王子がさらにループして報われるための話

あめ
BL
何度も殺されては人生のやり直しをする第二王子がボロボロの状態で今までと大きく変わった7回目の人生を過ごす話 基本シリアス多めで第二王子(受け)が可哀想 からの周りに愛されまくってのハッピーエンド予定

見ぃつけた。

茉莉花 香乃
BL
小学生の時、意地悪されて転校した。高校一年生の途中までは穏やかな生活だったのに、全寮制の学校に転入しなければならなくなった。そこで、出会ったのは… 他サイトにも公開しています

【完結】義兄に十年片想いしているけれど、もう諦めます

夏ノ宮萄玄
BL
 オレには、親の再婚によってできた義兄がいる。彼に対しオレが長年抱き続けてきた想いとは。  ――どうしてオレは、この不毛な恋心を捨て去ることができないのだろう。  懊悩する義弟の桧理(かいり)に訪れた終わり。  義兄×義弟。美形で穏やかな社会人義兄と、つい先日まで高校生だった少しマイナス思考の義弟の話。短編小説です。

処理中です...