陽キャの国の王子様

文字の大きさ
上 下
10 / 28

満腹の陽キャ

しおりを挟む
京平さんとは和解して、とりあえず晩ご飯の準備だ。
今日は炒飯と野菜スープだからすぐできる。
味付けは濃いめでいいかな?
男二人だし。
量も多めに作って冷凍しておこう。
僕の昼ご飯にしてもいいしね。

炒飯用の大根の葉や葱をみじん切りにして、野菜スープ用には少し大きめに切る。
出汁はもう鶏ガラスープの素で煮込もう。
もやしやしめじと一緒に切った野菜を鍋に入れ、煮込むだけ。

あとは、炒飯。
これもさっき切った野菜と焼豚とご飯と玉子を中華調味料で炒めて終わり。
簡単。

こ、こんなのでいいのかなぁ~。
めちゃめちゃ大学生の同居人が作りそうな料理。
いや、大学どころか高校も行ってないから分からないけど、あくまでイメージ。
今まで、ちゃんとした訓練を受けた家政婦さん達が作った、ちゃんとした料理だっただろうに……。
いざこれを食卓に並べるって……勇気がない。
京平さんのことだから、もちろん罵倒したりしないだろうけど、少しでも残念そうな顔されたら……ショックだ。

ほら、もう弱くなってる。
心を許したらダメ。

でも、もうウダウダしてても仕方ない。
料理も冷める。

高級そうな食器に平凡な料理を盛って、テーブルに並べる。

晩ご飯が出来たら呼んでくれと言われていたので、京平さんの部屋をノックする。

「どうぞ」
「ご飯、できた」
「もう!?」

短時間でできたことに驚いている。
ヤバい……やっぱり手の込んだやつじゃないとダメなのかも。

「あれだよ?簡単なやつだよ?僕は京平さんが食べるようなすごい料理は作れないから、もう庶民のやつで……」
「すごい料理って。ふっ。私も十分庶民だから大丈夫だよ」

いや、庶民はこんな王子様オーラないから。

京平さんはPCの画面を閉じ、一緒にテーブルに向かう。

「そういえば、お酒とか僕は飲まないから分からないけど、準備した方が良かった?」
「いや、お酒はどうせ付き合いで外で飲むから、休みの時は別にいいよ。春澄が飲みたくなったら付き合うからいつでも言って。甘いのもダメ?」
「うーん。甘いのは美味しいけど、ちょっとだけ元ちゃんと飲んだ時に、すぐ酔っぱらって。酒癖悪いからもう飲むなって言われたんだ」
「へー」

京平さんのマンションはダイニングキッチンになっている。
リビングも繋がってはいるが、広いので別空間に感じる。
そんなダイニングキッチンのテーブルには、ショボい野菜スープと普通の炒飯。
うぅ……反応が怖い。

「すごいねぇ。あの間に本当にできてる」
と、とりあえず、しょぼいとは言われなかった。
「あの、こんなのしかこれからも作れないよ?まぁ、朝ご飯がメインだから大丈夫だとは思うけど……休みの日も外で食べてきてもいいからね?」
「十分だよ。美味しそうだ。ありがとう」

……モテるな。
いや、それは分かってたけど。
さらっと「ありがとう」だって。
当たり前なのに。
お金貰ってやってることなんだから、ありがとうなんて、必要ないのに。

「じゃあ、食べようか?頂きます」
「頂きます」

2人で手を合わせる。
一緒に頂きますと言ったものの、僕は箸を持ったまま、チラチラ京平さんの様子を伺ってしまう。
野菜スープ飲んでる……何て言うかな?
うぅ……緊張する。 

「美味しいよ、春澄。野菜の甘みも出てる」  
「よ、良かった」
味見もしたし、ただの工夫もない野菜スープなのに、ドキドキした。
ようやく、一息ついて僕も野菜スープを一口飲む。
うん、定番の味だ。

ほっとしていたら、京平さんは炒飯をムシャムシャ食べていた。
「美味しいよ!味も濃いめで進むね!あっさりの野菜スープに濃いめの炒飯……食べすぎてしまいそうだ」

よ、良かったーー。
京平さんがちょっとわんぱく気味に食べている姿に肩の荷が降りた。
やっぱり、男だからね!
濃いめがいいよね!

安心して、炒飯へと進む。
うん、ちゃんとパラパラしてるし、良い出来だな。
あんなに不安だったくせに、少し褒められると我ながら簡単に浮上してきた。

結局、京平さんは、お代わりまでしてくれた。
こんな、平凡な料理を好んでくれた。
「春澄の味付けは私の味覚に合うね」なんて言われて、キスされて引きこもってたくせに、ウキウキで後片付けしている今がある。

あー、手の平の上で転がされてるのかなぁ……。
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語

紅林
BL
『桜田門学院高等学校』 日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である

被虐趣味のオメガはドSなアルファ様にいじめられたい。

かとらり。
BL
 セシリオ・ド・ジューンはこの国で一番尊いとされる公爵家の末っ子だ。  オメガなのもあり、蝶よ花よと育てられ、何不自由なく育ったセシリオには悩みがあった。  それは……重度の被虐趣味だ。  虐げられたい、手ひどく抱かれたい…そう思うのに、自分の身分が高いのといつのまにかついてしまった高潔なイメージのせいで、被虐心を満たすことができない。  だれか、だれか僕を虐げてくれるドSはいないの…?  そう悩んでいたある日、セシリオは学舎の隅で見つけてしまった。  ご主人様と呼ぶべき、最高のドSを…

お客様と商品

あかまロケ
BL
馬鹿で、不細工で、性格最悪…なオレが、衣食住提供と引き換えに体を売る相手は高校時代一度も面識の無かったエリートモテモテイケメン御曹司で。オレは商品で、相手はお客様。そう思って毎日せっせとお客様に尽くす涙ぐましい努力のオレの物語。(*ムーンライトノベルズ・pixivにも投稿してます。)

同僚に密室に連れ込まれてイケナイ状況です

暗黒神ゼブラ
BL
今日僕は同僚にごはんに誘われました

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

家事代行サービスにdomの溺愛は必要ありません!

灯璃
BL
家事代行サービスで働く鏑木(かぶらぎ) 慧(けい)はある日、高級マンションの一室に仕事に向かった。だが、住人の男性は入る事すら拒否し、何故かなかなか中に入れてくれない。 何度かの押し問答の後、なんとか慧は中に入れてもらえる事になった。だが、男性からは冷たくオレの部屋には入るなと言われてしまう。 仕方ないと気にせず仕事をし、気が重いまま次の日も訪れると、昨日とは打って変わって男性、秋水(しゅうすい) 龍士郎(りゅうしろう)は慧の料理を褒めた。 思ったより悪い人ではないのかもと慧が思った時、彼がdom、支配する側の人間だという事に気づいてしまう。subである慧は彼と一定の距離を置こうとするがーー。 みたいな、ゆるいdom/subユニバース。ふんわり過ぎてdom/subユニバースにする必要あったのかとか疑問に思ってはいけない。 ※完結しました!ありがとうございました!

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

【連載再開】絶対支配×快楽耐性ゼロすぎる受けの短編集

あかさたな!
BL
※全話おとな向けな内容です。 こちらの短編集は 絶対支配な攻めが、 快楽耐性ゼロな受けと楽しい一晩を過ごす 1話完結のハッピーエンドなお話の詰め合わせです。 不定期更新ですが、 1話ごと読切なので、サクッと楽しめるように作っていくつもりです。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーー 書きかけの長編が止まってますが、 短編集から久々に、肩慣らししていく予定です。 よろしくお願いします!

処理中です...