陽キャの国の王子様

文字の大きさ
上 下
7 / 28

罠にはまった陰キャ

しおりを挟む
はぁ、買い物疲れた……。
玄関に到着すると共にどっと疲れが押し寄せてきた。

京平さんは帰るまでの道のりでも、庶民の買い物が楽しかったのか終始ご機嫌で。
また行こうと言ってくるが、お断りしたい。

いや、もちろん重い米は助かった。
ついつい貧乏人目線で、安いけど持ち帰るには重い米に飛び付いてしまい、迷惑をかけた。
お金がある人はしなくていい苦労だった。

「春澄~お米はキッチンに置いておくね~」
「うん」
俺もキッチンへ向かい、食材などを冷蔵庫へ入れる。
まだ作り出すには早いから、とりあえずお米だけ炊こう。
前の家政婦さんが置いてくれていた米櫃にお米を移し、どれだけ食べるか分からないから、お米を四合炊く。
余れば冷凍させればいいしな。

炊飯器にセットした後にリビングにいた京平さんを見ると、テーブルの上にさっき買ったポテチとチョコのお菓子をセッティングしてソファーに座っている。
もしかして、俺を待ってる……?

「京平さん」
とりあえず声をかける。
「春澄、ゆっくりしようよ。お菓子でも食べる?でも、せっかくの手作り晩御飯だから、いっぱい食べたいしなぁ。悩むね」

悩みが子供か!
この、見た目とのギャップは何なんだろう……。
「あ、の、コーヒーでも淹れるから、少しだけつまむ?」
あからさまに京平さんの顔が輝く。
だから、ギャップやめろ!!

キッチンでコーヒーを淹れる。
最新機種で使い方が分からなかったらどうしようかと思ったら、古典的なサイフォン式だった。
棚にも豆が数種類置いてあり、前の家政婦さんはコーヒー好きだったのかな?
豆の種類とかよく分からないから、聞いたことがあるキリマンジャロを挽く。
手動でミルを使うのは元ちゃんの実家以来で、楽しい。
こういう地味な作業、好きなんだよな……。
豆をガリガリ挽いていると、コーヒーの良い香りがしてくる。

「ご機嫌だね?」
ひっ。
突然、背後から声をかけられる。
気づかなかったが、いつの間にか近くにつめられていた。
「べ、別に、ふつー」
京平さんは腕を組みながらキッチンのシンクに軽くもたれる。
「さっきから、お顔がニコニコだよ?コーヒーが好きなの?」
「べ、別に、ふつー」

コーヒーは嫌いじゃないが、缶コーヒーは嫌い。
あと、ブラックも嫌い。
コーヒー好きはブラックを好むと元ちゃんに言われたから、それから僕はコーヒーは普通だと思っている。
……本当はブラックコーヒーに牛乳入れたカフェオレは、好き。
ま、そんな細かい好み、言わないけど。

「そうなの?あまりにご機嫌だから、ついつい見に来たけど、家でコーヒー挽いて飲むの久しぶりだな」
京平さんは不思議な表情をした。
少し、悲しそうな。
辞めてしまった家政婦さんを思い出してるんだろうか。
長く一緒だったみたいだから……。

「あの、コーヒー挽いて淹れるの、僕も久しぶりだから、ちょっと楽しみだったのかもしれません。だから、ニヤニヤしてたのかも。前の家政婦さんみたいに美味しくは淹れられないかもしれないですけど……ちょっと待ってて下さいね」
僕、優しいな。
ちゃんと、ちょっと寂しげな雇い主に気を遣ってるし。
コンビニバイトでスキルが上がったのかな?
うんうん。

ちょっと得意気になりながら、京平さんを見ると、なぜか顔が企み顔だ。
どうした?
「春澄……敬語使ったね?いやー、けっこう頑張ったよね。すぐ使っちゃうかと思ったのになぁ」

な、あの殊勝な表情は罠!?
こいつ、性格悪いな!

「罰ゲーム、どうしようかなぁ?コーヒー飲みながら、ゆっくり相談しようねぇ」
ウキウキの足取りでソファーに戻っている。
罰ゲームって、何……陽キャはすぐ罰ゲームとかではしゃぎ出すんだよ……。
そもそも、何で敬語という、相手を敬った素晴らしい言葉で罰ゲームなんてさせられるんだ……理不尽!

せっかくのコーヒーの香りがしなくなった……精神的苦痛のせいだ。
うぅ、リビングに行きたくない……。
サイフォンに挽いた豆をセットしながら、頭を抱えた。
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

【短編】乙女ゲームの攻略対象者に転生した俺の、意外な結末。

桜月夜
BL
 前世で妹がハマってた乙女ゲームに転生したイリウスは、自分が前世の記憶を思い出したことを幼馴染みで専属騎士のディールに打ち明けた。そこから、なぜか婚約者に対する恋愛感情の有無を聞かれ……。  思い付いた話を一気に書いたので、不自然な箇所があるかもしれませんが、広い心でお読みください。

例え何度戻ろうとも僕は悪役だ…

東間
BL
ゲームの世界に転生した留木原 夜は悪役の役目を全うした…愛した者の手によって殺害される事で…… だが、次目が覚めて鏡を見るとそこには悪役の幼い姿が…?! ゲームの世界で再び悪役を演じる夜は最後に何を手に? 攻略者したいNO1の悪魔系王子と無自覚天使系悪役公爵のすれ違い小説!

侯爵令息セドリックの憂鬱な日

めちゅう
BL
 第二王子の婚約者候補侯爵令息セドリック・グランツはある日王子の婚約者が決定した事を聞いてしまう。しかし先に王子からお呼びがかかったのはもう一人の候補だった。候補落ちを確信し泣き腫らした次の日は憂鬱な気分で幕を開ける——— ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 初投稿で拙い文章ですが楽しんでいただけますと幸いです。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

完結·助けた犬は騎士団長でした

BL
母を亡くしたクレムは王都を見下ろす丘の森に一人で暮らしていた。 ある日、森の中で傷を負った犬を見つけて介抱する。犬との生活は穏やかで温かく、クレムの孤独を癒していった。 しかし、犬は突然いなくなり、ふたたび孤独な日々に寂しさを覚えていると、城から迎えが現れた。 強引に連れて行かれた王城でクレムの出生の秘密が明かされ…… ※完結まで毎日投稿します

【完結】義兄に十年片想いしているけれど、もう諦めます

夏ノ宮萄玄
BL
 オレには、親の再婚によってできた義兄がいる。彼に対しオレが長年抱き続けてきた想いとは。  ――どうしてオレは、この不毛な恋心を捨て去ることができないのだろう。  懊悩する義弟の桧理(かいり)に訪れた終わり。  義兄×義弟。美形で穏やかな社会人義兄と、つい先日まで高校生だった少しマイナス思考の義弟の話。短編小説です。

獣人将軍のヒモ

kouta
BL
巻き込まれて異世界移転した高校生が異世界でお金持ちの獣人に飼われて幸せになるお話 ※ムーンライトノベルにも投稿しています

処理中です...