陽キャの国の王子様

文字の大きさ
上 下
5 / 28

遊ばれる陰キャ

しおりを挟む
ふぅ。
夜勤明けの元ちゃん家と、このマンションの往復などバタバタで疲れていたものの、とりあえず持ってきた自分の荷物をクローゼットにしまい終わった。

お昼は京平さんがデリバリーを注文し一緒に食べた。
定番のピザ。
こんなにお金持ちでも名の知れたデリバリーのピザなんか食べるんだと驚いたら、笑われた。
その辺は普通の感覚で助かる。

夜はさすがに何か作ろうかな……。
そういえば、食の好みなど聞いてない。
食べられない物など聞いておこう。
買い物に行くついでに京平さんの部屋に立ち寄る。

部屋をノックすると、イケボで「どうぞ」と言われる。
京平さんは高そうな椅子に座って、PCの画面を見ていた。
視線をこちらに向けてくれる。

「あの、夜ご飯の買い物に行こうと思うんですけど、好き嫌いを教えて貰ってもいいですか?」
「ああ。特にないよ。まかせる。今日は初日なんだから、また何かデリバリーでもいいよ。寝てないんだろう?寝たら?」
「いえ、大丈夫です。休みの日しか夜は食べないんですよね?なら、せっかくなので……」

数日でいなくなるしね、とは言わない。
大人だから。空気読めるし。

「そう?じゃあ、楽しみにしておく。あと、敬語は禁止。次に敬語使ったら……何か罰ゲームね?」

はぁっ?
勝手に決めんな!
くそぅ……雇い主めっ。

「じゃあ、行ってきま……行ってくる」
「あぁ、待って。私も行こう。重くなる?車だそうか」
京平さんは椅子から立ち上がると、ぐっと伸びをしながら僕の方へ歩いてくる。

「いや、買い物も僕の仕事だから。京平さんは、仕事でしょ?重いものはネットで注文するから大丈夫。今晩と明日の朝の食材だけ」
車って、どうせ高級外車とかだろ?
無理無理。
この汚いスニーカーで乗れるか!  

「いや、気分転換したいから、付き合う。食材を買いに行くって、そういえばしたことないなぁ」
「えっ」
人生初?その歳で?
ヤバイな、コイツ。
マジで王子様だ。  

「世間知らずだよねぇ。今まで気にしたことなかったけど、春澄にいろんな経験させて貰おうかな?」
おい。
エロい感じに言うな。
声と視線がエロい。
まぁ、僕はもう慣れたけどね?

ぶはっ。
また京平さんが吹き出してる。
何も言ってないけど?

「は、春澄っ、平気そうに顔作ってるけどっ、真っ赤だよっ……」
なっ……。
そこは大人として知らん顔しろよ!
空気読めないな!

「も、もう行くっ」
「ごめん、ごめん。もうからかわないよ。可愛くてつい、ね」

完全に僕をからかって気分転換してるじゃないか。
もう、気分転換できたなら行かなくていいだろ……。

「よし。じゃあ、買い物デートに行こうか」
より僕に近づくと、見下ろし微笑む。

くそー!
陽キャはすぐデートとか言うんだよ。
僕の人生初デートが京平さんなんてごめんだ!
「デートじゃないっ」

その視線から逃れるように、僕は玄関へと急いだ。
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

【短編】乙女ゲームの攻略対象者に転生した俺の、意外な結末。

桜月夜
BL
 前世で妹がハマってた乙女ゲームに転生したイリウスは、自分が前世の記憶を思い出したことを幼馴染みで専属騎士のディールに打ち明けた。そこから、なぜか婚約者に対する恋愛感情の有無を聞かれ……。  思い付いた話を一気に書いたので、不自然な箇所があるかもしれませんが、広い心でお読みください。

例え何度戻ろうとも僕は悪役だ…

東間
BL
ゲームの世界に転生した留木原 夜は悪役の役目を全うした…愛した者の手によって殺害される事で…… だが、次目が覚めて鏡を見るとそこには悪役の幼い姿が…?! ゲームの世界で再び悪役を演じる夜は最後に何を手に? 攻略者したいNO1の悪魔系王子と無自覚天使系悪役公爵のすれ違い小説!

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

完結·助けた犬は騎士団長でした

BL
母を亡くしたクレムは王都を見下ろす丘の森に一人で暮らしていた。 ある日、森の中で傷を負った犬を見つけて介抱する。犬との生活は穏やかで温かく、クレムの孤独を癒していった。 しかし、犬は突然いなくなり、ふたたび孤独な日々に寂しさを覚えていると、城から迎えが現れた。 強引に連れて行かれた王城でクレムの出生の秘密が明かされ…… ※完結まで毎日投稿します

6回殺された第二王子がさらにループして報われるための話

あめ
BL
何度も殺されては人生のやり直しをする第二王子がボロボロの状態で今までと大きく変わった7回目の人生を過ごす話 基本シリアス多めで第二王子(受け)が可哀想 からの周りに愛されまくってのハッピーエンド予定

見ぃつけた。

茉莉花 香乃
BL
小学生の時、意地悪されて転校した。高校一年生の途中までは穏やかな生活だったのに、全寮制の学校に転入しなければならなくなった。そこで、出会ったのは… 他サイトにも公開しています

【完結】義兄に十年片想いしているけれど、もう諦めます

夏ノ宮萄玄
BL
 オレには、親の再婚によってできた義兄がいる。彼に対しオレが長年抱き続けてきた想いとは。  ――どうしてオレは、この不毛な恋心を捨て去ることができないのだろう。  懊悩する義弟の桧理(かいり)に訪れた終わり。  義兄×義弟。美形で穏やかな社会人義兄と、つい先日まで高校生だった少しマイナス思考の義弟の話。短編小説です。

処理中です...