陽キャの国の王子様

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追い出される陰キャ

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「ありがとうございました……」

はぁ……疲れた……。
コンビニの深夜バイト……つらー。

「おい、お前、辛気クセー顔してんじゃねーよ」

出たっ!
酔っぱらいのオヤジ!!
深夜バイトの一番の敵が出ました~。

酔っぱらいのオヤジは赤ら顔に酒臭い息を撒き散らしながら、レジに近付いてくる。

華麗にスルー。
無反応、これ一番! 

「無視してんじゃねーぞ、をいっ」

拳をダンッとレジのテーブルに叩きつける。

ひーーーー!
一番じゃなかったぁ!
たまに通じない奴います。

とにかく、謝ろう。
悪いことしてないけど。

「申し訳ありません」
「申し訳ありませんじゃねぇよっ」

声を荒げ今にも暴れだしそうで、店内にいた他のお客さん達がチラチラ見ている。

「どうされました?」

店の裏から、髪をキッチリと撫で付け、店長と書いたプレートをつけたイケメンが出てきて間に入る。
お店の上着は着ているものの、下はスーツ姿、長身でイケメン、いかにも仕事ができそうな出で立ちに、酔っぱらいのオヤジも怯む。

助けてっ!

「コイツが暗い顔してるから注意してやったのによぉ、無視しやがって!お客様を何だと思ってるんだ、このやろー」

店長は僕の顔をチラッと見ると、平身低頭して謝った。

「申し訳ございません。こちらからも、注意いたしますので」

何度も言うが、僕は悪くない。
でも、僕も一緒に頭を下げる。

「店長さんも、人手不足なのはわかるけどさぁ、こんな奴雇うなよー」

店内の多くの目に気づいた酔っぱらいのオヤジは、捨て台詞をはいて去った。

余計なお世話だ!
僕だってコンビニバイトしたくてしてる訳じゃない!

「……日下部くさかべくん?交代来たら、声かけてね?」

うぅ……店長の目が笑ってない。
怒られる。
店長はムダに美形なので、怒るとますます怖い。
あんなに待ち遠しかった交代時間なのに、胃がキリキリ痛む。



「おっ前、いーかげんにしろよ!」

ひっ。

「だって、げんちゃ……」

「店長!」

「……店長。僕は何も悪いことしてなくて、あの酔っぱらいのオヤジが僕の顔を辛気臭いって失礼なこと言ってきて」
「辛気くせぇだろーがよぉ」

店長、口が悪い。
さっきまで、あんなに仕事ができますイケメンビジネスマンだったのに、インテリヤクザにジョブチェンジしてる。

「おぃ、もう何件お前でクレームがきてると思ってる?全部俺が処理してるんだぞ!もう、クビだ、クビ」

「それは無理ーー」

げんちゃ……店長にすがり付く。

僕はここで働くしかない。
最終学歴中卒だし、いつもビクビクしている陰キャのせいでバイト面接採用されたことないし。
深夜に働けて、環境的にも最高の職場だ!

「確かに週7で深夜バイトは正直助かるが、それよりもクレーム対応に時間がかかる!俺がハゲる」

「大丈夫!ハゲても格好いいよ!」

僕の必死のフォローに青筋たてた店長が、アイアンクローを仕掛けてくる。

「いだだだだだだ」
僕は涙目になりながら、タップする。

「おぃ春澄はると、俺も鬼じゃない。この優しい従兄の俺が次の就職先も世話してやる」

「えっ」

思わず疑いの眼差しで店長もとい、従兄のげんちゃんを見てしまう。

「なんだぁ?その目は。それがこんな陰キャの引きこもりをここまで雇ってやった優しい従兄に対する目か?お前、俺のマンションからも出てけよ」

ひーーーっ。
無理です無理です。

僕は田舎でずっと引きこもっていた所を伯母さんに無理やり引きずり出され、その息子のげんちゃんの元に送られた。
げんちゃんは大学卒業後に商社に就職して、何年か勤めた後に退職し、コンビニ経営を何軒かしていたので、そのどこかで働かせろ、との御達しだった。
母に頭が上がらないげんちゃんは渋々僕を雇ってくれた。

もちろん、都会に住む所もなく、一人暮らしもできない僕は、げんちゃんのマンションにお世話になっている。

「田舎に帰らせて頂きますっ」

今さらどこかの狭いアパートに引っ越して、未経験のバイトで先輩達にいじめられるくらいなら、僕は田舎に帰る!
むしろ喜んでー!!

「あ゛ぁっ?何言ってるんだ?そんなこと許すわけないだろーが。お前には帰る田舎なんてない。盆暮れ正月しか許さん」

暴君!!

「む、無理だよ。新しいバイトも狭い部屋も無理!」

げんちゃんのお怒りのオーラに怯えながらも譲れないものは譲れない。

「心配するな。新しい職場には怖い先輩もいないし、衣食住すべて揃ってる!」

そんな夢の国、どこに?

「お前は家政夫として、明日から生きていく!」

断定された。
そんな想定外のお知らせいりません!
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