獣人王に溺愛され、寵姫扱いです

文字の大きさ
上 下
6 / 6

救難で拾った生き物

しおりを挟む
「生きてる、よね?」

恐る恐るそのもふもふに触れてみる。
暖かいし、お腹の部分が動いているので呼吸はしているようだ。
まだこの世界のことが分かっていないけれど、生き物であることは間違いなさそうだ。
生き物だということは、もしかして、あの女性が言っていた「あのこ」だろうか?
自分の最期に探す存在だから、きっとあの女性の子供なのかなと思っていた。周囲を見る限り、人影はない。
しかし、目の前で寝ているもふもふな生き物は、完全に動物で人ではない。
完全な獣体はあまりいないと神様は言っていたから、あの女性の家族のように思っているペットみたいな存在かな?
でも、あまりいないだけでその珍しい完全な獣体の獣人である可能性もゼロではない。

改めて袋を覗き込む。
その生き物は茶色のもふもふの毛並でとても小さい。
寝ているので瞳の色は分からないが、知っている生き物に当てはめるなら猫、だろうか?
野菜も微妙な違いがあったから、生き物も同じように違いがあると思っておいた方がいい。

……しかし、可愛いな。

生活に余裕がなかったから、生き物は飼えなかった。
たまに地域猫に遭遇して、コンビニに猫缶を買いに走ったことは何度かあり、そのせいで自分が昼ご飯抜きになったとしても満たされるくらいには好きだ。

すやすやと寝息を立てているこの生き物の眉間から鼻先を指裏で触れる。袋の中で僕の指裏の刺激に反応して体制を変えようとして小さな足を動かした。
その様子に思わず笑みがこぼれた。
心の中が温かい何かに包まれるような感覚に浸っていると、突然あの女性の言葉を思い出す。

「にげて」

冷水を浴びたかのように、全身に緊張が走る。
そうだ。
逃げてって言い残したということは、誰かに追われていたってことだ。
消えたあの女性が目当てだったのだとしたら、あの子を連れて逃げろとは言わないはず。
追われている目的はこの子だった?
いや、あの女性が消えたことによって危険は去った可能性もある。正直、分からない。

……この子を、守らないと。

湧き出る使命感のようなものに突き動かされ、その場に立ち上がる。

家に帰ろう。まず、この子を見えない所まで連れて行ってからまた考えればいい。

寝ている様子を確認した後、袋をまた閉じ起こさないように慎重に持ち上げる。
しっかりとした命の重みを胸に感じながら、また冷たい川へと戻る。
少し身体を丸め、なるべく遠くからもこの袋自体が見えないように、周囲の気配にも気を遣いながら足早に川を渡る。
この川の深さは一番深い所で腰くらいあったので、袋が飛沫などで濡れないように胸の高い位置まで上げる。
その時にふと、あの女性はこの袋を水に濡らさないように頭の上まで持ち上げて、水の中を運んでいたんじゃないかと思った。この袋が倒れていた女性の頭部の辺りにあり、最初はフードかと勘違いしたからだ。
あの女性がこの小さな生き物を慈しみ、少しも濡らすまいとこの川を渡っていた光景を思い浮かべ、ますますこの小さな生き物を守らなければと唇を引き結ぶ。

行きは近いとさえ感じていた川幅が、周囲に気を配り少しの物音も見逃すまいと気を張った状態で渡ると、かなり遠くに思えた。
それでも渡りきり、もう一度あの女性がいた辺りを振り返り伺うも人影も見えない。
少し安堵を覚えつつ、とにかく家の中へ入ろうと足早に戻る。
念の為、家の周囲にも人影や物音などないか気を配りつつ、やっとの思いで家の中に戻り、扉を閉める。

全身から力が抜けるようだった。
小さな生き物の入った袋を胸に抱えた状態でその場にへたり込む。
緊張のあまり呼吸も浅くなっていたのか息も荒く、強ばっていた身体も震えが止まらない。
なんとか部屋まで戻ってこられた。
なぜか勝手に達成感のようなものまで湧いてくる。
「良かったぁ……」
思わず声が漏れ、顔が安堵の笑みを浮かべた時に抱えていた袋が僅かに動いた。
そうだ。狭い袋から早く出してあげないと。

抱えていた袋を床に起き、開く。
小さな生き物はまだ寝ているようだった。
なるべく起こさないように袋にそっと手を差し入れ、抱き上げる。
フワフワの毛並みと温かさに思わず笑みが零れた。
胸に抱き、寝室で寝かそうと立ち上がった時に突然耳がプルルと動く。
立ち上がる時に力が入ってしまったのかもしれない。
しまった、と思った瞬間にその小さな生き物が瞳を開けた。
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

R指定はないけれど、なんでかゲームの攻略対象者になってしまったのだが(しかもBL)

黒崎由希
BL
   目覚めたら、姉にゴリ推しされたBLゲームの世界に転生してた。  しかも人気キャラの王子様って…どういうことっ? ✻✻✻✻✻✻✻✻✻✻✻✻  …ええっと…  もう、アレです。 タイトル通りの内容ですので、ぬるっとご覧いただけましたら幸いです。m(_ _)m .

海に狂った学者が憧れに殉じるのを、幼馴染の溺愛騎士が許さない

鳥羽ミワ
BL
サフィラは、諸島国家テストゥードー共和国で生まれ育った古生物学者。没落貴族の彼は六歳下の弟を養いながら、日々海洋生物の研究に励んでいる。 幼馴染である騎士のクラヴィスは彼に思いを寄せていて、毎日しつこいくらいに求愛してくる。袖にし続けるサフィラだけど、実は彼もクラヴィスを憎からず思っているのだ。だけど、自分みたいな平凡な奴が彼にふさわしいなんて、到底思えない。つい素っ気なく突っぱねても、彼は変わらず迫ってきて…。 そんな日々の中、島に異変が訪れる。それはサフィラの実家の伝承にある、シーサーペント復活の予兆だった。 サフィラは危機を訴えるものの、「荒唐無稽な話だ」と退けられてしまう。ひとりでシーサーペントを止めるために海に出ようとしたけれど、クラヴィスも同行してくることになった。 旅の仲間に冒険者の大男・アウクシリアを加えて、三人で世界を救う旅に出る。それは神々の愛憎の渦の中へと飛び込むことだと、三人はまだ知らない。 ※カクヨム、エブリスタ、ムーンライトノベルズに掲載 ※「苦労人ツンデレ学者が世界を救うため海へ消えるのを幼馴染のエリート溺愛騎士が許してくれない」というタイトルでルビーファンタジーBL小説大賞へ応募したものを改稿して再投稿しています。話の流れ自体は変わっていません

ヤクザと捨て子

幕間ささめ
BL
執着溺愛ヤクザ幹部×箱入り義理息子 ヤクザの事務所前に捨てられた子どもを自分好みに育てるヤクザ幹部とそんな保護者に育てられてる箱入り男子のお話。 ヤクザは頭の切れる爽やかな風貌の腹黒紳士。息子は細身の美男子の空回り全力少年。

執着攻めと平凡受けの短編集

松本いさ
BL
執着攻めが平凡受けに執着し溺愛する、似たり寄ったりな話ばかり。 疲れたときに、さくっと読める安心安全のハッピーエンド設計です。 基本的に一話完結で、しばらくは毎週金曜の夜または土曜の朝に更新を予定しています(全20作)

6回殺された第二王子がさらにループして報われるための話

あめ
BL
何度も殺されては人生のやり直しをする第二王子がボロボロの状態で今までと大きく変わった7回目の人生を過ごす話 基本シリアス多めで第二王子(受け)が可哀想 からの周りに愛されまくってのハッピーエンド予定

中華マフィア若頭の寵愛が重すぎて頭を抱えています

橋本しら子
BL
あの時、あの場所に近づかなければ、変わらない日常の中にいることができたのかもしれない。居酒屋でアルバイトをしながら学費を稼ぐ苦学生の桃瀬朱兎(ももせあやと)は、バイト終わりに自宅近くの裏路地で怪我をしていた一人の男を助けた。その男こそ、朱龍会日本支部を取り仕切っている中華マフィアの若頭【鼬瓏(ゆうろん)】その人。彼に関わったことから事件に巻き込まれてしまい、気づけば闇オークションで人身売買に掛けられていた。偶然居合わせた鼬瓏に買われたことにより普通の日常から一変、非日常へ身を置くことになってしまったが…… 想像していたような酷い扱いなどなく、ただ鼬瓏に甘やかされながら何時も通りの生活を送っていた。 ※付きのお話は18指定になります。ご注意ください。 更新は不定期です。

モブなのに執着系ヤンデレ美形の友達にいつの間にか、なってしまっていた

マルン円
BL
執着系ヤンデレ美形×鈍感平凡主人公。全4話のサクッと読めるBL短編です(タイトルを変えました)。 主人公は妹がしていた乙女ゲームの世界に転生し、今はロニーとして地味な高校生活を送っている。内気なロニーが気軽に学校で話せる友達は同級生のエドだけで、ロニーとエドはいっしょにいることが多かった。 しかし、ロニーはある日、髪をばっさり切ってイメチェンしたエドを見て、エドがヒロインに執着しまくるメインキャラの一人だったことを思い出す。 平凡な生活を送りたいロニーは、これからヒロインのことを好きになるであろうエドとは距離を置こうと決意する。 タイトルを変えました。 前のタイトルは、「モブなのに、いつのまにかヒロインに執着しまくるキャラの友達になってしまっていた」です。 急に変えてしまい、すみません。  

軽い気持ちで超絶美少年(ヤンデレ)に告白したら

夕立悠理
恋愛
容姿平凡、頭脳平凡、なリノアにはひとつだけ、普通とちがうところがある。  それは極度の面食いということ。  そんなリノアは冷徹と名高い公爵子息(イケメン)に嫁ぐことに。 「初夜放置? ぜーんぜん、問題ないわ! だって旦那さまってば顔がいいもの!!!」  朝食をたまに一緒にとるだけで、満足だ。寝室別でも、他の女の香水の香りがしてもぜーんぜん平気。……なーんて、思っていたら、旦那さまの様子がおかしい? 「他の誰でもない君が! 僕がいいっていったんだ。……そうでしょ?」  あれ、旦那さまってば、どうして手錠をお持ちなのでしょうか?  それをわたしにつける??  じょ、冗談ですよね──!?!?

処理中です...