獣人王に溺愛され、寵姫扱いです

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黒い猫

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「あぶっないっ」

そう叫び、目の前の黒い猫を自分の身体で包み込んだ瞬間、強い衝撃を感じ、目の前が鮮血に染まった。
遠くから女の人の甲高い叫び声や何か呼ぶような声が聞こえる。

あー、やってしまった。

車道に飛び出した黒い猫を見て、思わず自分も飛び込んでしまった。
痛みはなぜか感じないが、ピクリとも身体を動かすことはできないし、先程まで聞こえていた音ももう聞こえなくなってしまった。

もう、死ぬんだろうな。

薄れていく意識の中、不思議と後悔はない。
ドラマや漫画で生き物を助けて自分が車に轢かれる、なんてシーンは何度も目にしていて、僕でも同じ立場になったらやるだろうなって思っていたから、そんなに驚きもない。
絶対に身体が勝手に動いちゃうと思っていた。
その通りだっただけだ。

それに、僕が死んでも悲しむ人はいない。 
母は僕を産んですぐに亡くなり、父もずっと病気がちだった。高校を中退して父の医療費のためにバイト漬けの日々を送っていたが、その父もとうとう先月亡くなってしまった。
それからは、特に目的もなくただ生きているだけの毎日。
こんなことではいけないと、何か資格でも取ろうかと本屋さんに向かう、その途中での出来事だった。

天涯孤独で良かった。誰も僕が死んでも悲しまないから。
猫を助けられて良かった。僕は誰かの役に立っていたかったから。

ふっと意識が途絶え、世界は暗闇に包まれた。


「……起きよ、ヒトの子」
……?
あれ、死んでない?
それとも、天国か?
突然暗闇から引きずり出されたような感覚だった。
身体は無事だっただろうかと確かめようにも身体は無い。
ただ、視覚だけが残されている。
目の前には、真っ白い何も無い空間に黒い猫が佇んでいた。

魂になったってことか、な?
ということは、目の前に佇んでいる黒い猫は、もしかして一緒に死んでしまったあの時の猫なんだろうか。 
助け、られなかったのかな。
申し訳なかったという気持ちが湧き出る。

「……ヒトの子よ。私はこの世界とは別の、異なる世界を統べる者。ヒトの子の世界でいう神だ」
え、僕が助けたのは神様!?
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