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「ねえさん」のこと。
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僕には、姉的存在の女性がいました。彼女との出会いは27歳のとき。
年齢層高めの風俗店で、嬢と客として出会いました。
猫好き、特に黒猫好きという共通点で仲良くなり、プレイに後メアドを交換し、約10歳年上の彼女と連絡を取り合うようになりました。
人間、特に女性に対して、歪んだ視点を持っていた当時の僕は、度々彼女と衝突しました。いつでも切り捨てられる仲なのに、根気よく僕と付き合って、僕の拗らせたものを解いてくれた彼女は、僕の人生最大の恩人の一人だと思います。彼女が僕を解きほぐしてくれなかったら、今の僕はありません。
妻と結婚することも、男女問わず色々な人が慕ってくれることも、異性の友達と性別を超えた友情を育むことも、きっとなかったでしょう。大恩人です。
彼女と連絡を取り合うようになって程なく、彼女の最愛の黒猫が病気になりました。彼女は仕事を辞め、愛猫の側に居続けました。僕は毎日彼女を気にかけ、彼女も僕のメールを楽しみにしてくれていたようです。
某広域暴力団の系列の組の若頭のオンナであった彼女は、夜の世界以外の生き方を知らない人でした。風俗の仕事を辞め、猫を看取った後、昼の仕事を少しやったりまた風俗に戻ったりと右往左往していましたが、結局自宅近所の飲み屋に腰を落ち着けました。
彼女とのやりとりは、実に十数年。オギャアと生まれた女の子が、「おっきくなったらパパと結婚するのー」という時代を経て、「洗濯物、お父さんと一緒に洗わないで欲しいんだけど……」とか言い始める年頃になるほどの年月です。
体調の安定しない人で、立ちっぱなしや座りっぱなしがしんどい方だったので、その間オフで会ったことは数回しかありませんでしたが、色っぽい関係にもなることなく、ただただ姉弟のような関係が続いていました。
僕には実は、腹違いの、彼女と同じ位の年の血縁のある姉がいます。
親父殿の、前妻の娘。
会ったことは一度もありませんが、「姉」というものがいたら、こんな感じなのかな、という感情を、僕は彼女に持っていました。
2016年の初夏の頃、彼女から驚愕のメールが来ました。
体調を崩して検査したところ、ステージ4の癌に侵されていたことが判明とのこと。すぐさま抗ガン治療が始まりました。経口の抗ガン剤→放射線治療→点滴と、治療は推移し、病状は一進一退。そんな中唯一の明るい材料は、そんな中にも関わらず、彼女に、あたらしい彼氏ができたことでした。
秋頃から、病状はまた悪化していました。
同年10月22日、彼女から写真付きのメール。
『髪が抜ける前に彼が撮ってくれた写真です。もうまともな写真は、これが最後かもしれないので送ります』
それは、好きな人の前で楽しそうに笑う彼女。僕が見たことのない「恋する女」の彼女。でも、病は確実にその身を蝕んでいることがわかる写真。それでも僕は、久しぶりに見る彼女の姿が嬉しかった。
しばらくは一進一退するも、どうにか生活ができている、という状態だったようです。メールの頻度はグンと減りましたが、色々と大変ではあるのだろうな、と、僕も気にはなりつつ、こちらからあまりメールをするのも気が引けてしまい、月に1~2通程度のやりとりをしていました。
そして2017年12月3日のメール。
『癌性腹膜炎で食事も水分も取れなくなって困った💦 彼とは別れたよ。私的にはスッキリしたので心配ご無用』
このメールを最後に、彼女からは連絡が途絶えました。こちらからのメールにも、返信はありません。想像するまでもなく、恐らくは……。
僕達の関係を、表側の友人知人や家族に説明するのは難しい。けれど、確かに絆はあったと思います。絆はあった。けれど、僕達は、病院にお見舞いに行ったり、何かあった時に駆けつけるということはできない仲だった。
数日後、帰宅したときに入っていた喪中ハガキ。宛先が、妻との連名になっていたので、、妻のの親族かな、と思い読んでみたのですが、そこに書いてあったのは、彼女の名前でした。
差出人は、最悪に仲が悪いといっていた、彼女のお母さんでした。
覚悟はしていた。
多分そうだろうな、とは思っていたものの、本当にこの世界から、彼女が永遠にいなくなってしまったのだな、と思ったら、とてつもない切なさと喪失感に襲われました。
おもえば、どういう形であれ、カラダを重ねた女性が亡くなるという経験を、この歳で初めての経験でした。
享年49歳。いくらなんでも早すぎる、と思いました。
サムネイルは、彼女が作ってくれた、ニットのクリスマスリースです。12月になるたびに、このリースを飾り、彼女を思い出しています。
年齢層高めの風俗店で、嬢と客として出会いました。
猫好き、特に黒猫好きという共通点で仲良くなり、プレイに後メアドを交換し、約10歳年上の彼女と連絡を取り合うようになりました。
人間、特に女性に対して、歪んだ視点を持っていた当時の僕は、度々彼女と衝突しました。いつでも切り捨てられる仲なのに、根気よく僕と付き合って、僕の拗らせたものを解いてくれた彼女は、僕の人生最大の恩人の一人だと思います。彼女が僕を解きほぐしてくれなかったら、今の僕はありません。
妻と結婚することも、男女問わず色々な人が慕ってくれることも、異性の友達と性別を超えた友情を育むことも、きっとなかったでしょう。大恩人です。
彼女と連絡を取り合うようになって程なく、彼女の最愛の黒猫が病気になりました。彼女は仕事を辞め、愛猫の側に居続けました。僕は毎日彼女を気にかけ、彼女も僕のメールを楽しみにしてくれていたようです。
某広域暴力団の系列の組の若頭のオンナであった彼女は、夜の世界以外の生き方を知らない人でした。風俗の仕事を辞め、猫を看取った後、昼の仕事を少しやったりまた風俗に戻ったりと右往左往していましたが、結局自宅近所の飲み屋に腰を落ち着けました。
彼女とのやりとりは、実に十数年。オギャアと生まれた女の子が、「おっきくなったらパパと結婚するのー」という時代を経て、「洗濯物、お父さんと一緒に洗わないで欲しいんだけど……」とか言い始める年頃になるほどの年月です。
体調の安定しない人で、立ちっぱなしや座りっぱなしがしんどい方だったので、その間オフで会ったことは数回しかありませんでしたが、色っぽい関係にもなることなく、ただただ姉弟のような関係が続いていました。
僕には実は、腹違いの、彼女と同じ位の年の血縁のある姉がいます。
親父殿の、前妻の娘。
会ったことは一度もありませんが、「姉」というものがいたら、こんな感じなのかな、という感情を、僕は彼女に持っていました。
2016年の初夏の頃、彼女から驚愕のメールが来ました。
体調を崩して検査したところ、ステージ4の癌に侵されていたことが判明とのこと。すぐさま抗ガン治療が始まりました。経口の抗ガン剤→放射線治療→点滴と、治療は推移し、病状は一進一退。そんな中唯一の明るい材料は、そんな中にも関わらず、彼女に、あたらしい彼氏ができたことでした。
秋頃から、病状はまた悪化していました。
同年10月22日、彼女から写真付きのメール。
『髪が抜ける前に彼が撮ってくれた写真です。もうまともな写真は、これが最後かもしれないので送ります』
それは、好きな人の前で楽しそうに笑う彼女。僕が見たことのない「恋する女」の彼女。でも、病は確実にその身を蝕んでいることがわかる写真。それでも僕は、久しぶりに見る彼女の姿が嬉しかった。
しばらくは一進一退するも、どうにか生活ができている、という状態だったようです。メールの頻度はグンと減りましたが、色々と大変ではあるのだろうな、と、僕も気にはなりつつ、こちらからあまりメールをするのも気が引けてしまい、月に1~2通程度のやりとりをしていました。
そして2017年12月3日のメール。
『癌性腹膜炎で食事も水分も取れなくなって困った💦 彼とは別れたよ。私的にはスッキリしたので心配ご無用』
このメールを最後に、彼女からは連絡が途絶えました。こちらからのメールにも、返信はありません。想像するまでもなく、恐らくは……。
僕達の関係を、表側の友人知人や家族に説明するのは難しい。けれど、確かに絆はあったと思います。絆はあった。けれど、僕達は、病院にお見舞いに行ったり、何かあった時に駆けつけるということはできない仲だった。
数日後、帰宅したときに入っていた喪中ハガキ。宛先が、妻との連名になっていたので、、妻のの親族かな、と思い読んでみたのですが、そこに書いてあったのは、彼女の名前でした。
差出人は、最悪に仲が悪いといっていた、彼女のお母さんでした。
覚悟はしていた。
多分そうだろうな、とは思っていたものの、本当にこの世界から、彼女が永遠にいなくなってしまったのだな、と思ったら、とてつもない切なさと喪失感に襲われました。
おもえば、どういう形であれ、カラダを重ねた女性が亡くなるという経験を、この歳で初めての経験でした。
享年49歳。いくらなんでも早すぎる、と思いました。
サムネイルは、彼女が作ってくれた、ニットのクリスマスリースです。12月になるたびに、このリースを飾り、彼女を思い出しています。
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