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新婚ですの
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ニコラはニコラウスを伴ってミアを見舞う。
首に巻かれた包帯を見て、どこか加減が悪いのかと尋ねられたミアは、答えられずに赤面した。
「奥方にも聞いていただきたい。ニコラにカルセルトの姓を授けようと思う。知っているだろう?」
聞き覚えのある名を聞いて、ケイトリンがミアに微笑みかける。
「ミアも知っているわよね」
「はい、絵本に出てくる騎士カルセルトでしょうか?」
ニコラウスはそうだと頷く。
「あれは絵本だけど、元は史実の騎士なんだ。伝説の騎士アディアールのようにね。カルセルトは僕のご先祖様に仕えた騎士の名前だよ。別の世界から来て、一代限りの騎士としてアーリア姫に仕えた。姫を不思議な力で守ったとされているね。 僕はその姫の末裔。だから僕が、カルセルト姓を自分の騎士に名乗らせるのはちっともおかしい事じゃない」
ニコラウスはミアの方に体を向け、まじまじと観察する。
「ミアを見た時にピンときたよ。ニコラもきっとあの絵本の話を読んだんだろうなって。こうやって着飾っていると、本当に絵本のお姫様みたいだ」
それを聞いて、ケイトリンがふふふと笑う。
「わたしもミアを見た時に、ニコラは絵本の中からお姫様を連れ去ってきたのかと思ったわ。きっとニコラはミアに恋をするって。どこにいてどんな格好をしていても、ニコラにはミアがお姫様に見えたのですから」
ニコラは改めてミアを穴が開くほど見つめる。
「……本当だ、そういわれてみると、ミアはあの絵本の姫にそっくりだ。どうして気が付かなかったのだろう」
「そんなの、恐れ多いですよ。殿下のご先祖様なのでしょう?」
ちやほやと持ち上げられるのが居心地悪く、ミアはニコラを窘めた。
「早速、陛下にニコラを僕の騎士にすると報告してきます。ニコラが騎士を辞めないと知ったら、陛下もお喜びになられます」
ニコラウス王子は希望に満ちた顔でそう告げる。ニコラを繋ぎ留められたという喜びだけではない。自分の将来の夢を定めた、若者の一番美しい瞬間の笑みだった。
「その、アディアール騎士、大事な跡継ぎをいただいてしまって申し訳ありません」
「ご心配なく、殿下。我が家は別の跡継ぎを立てる予定でございますので」
ニコラウス王子が申し訳なさそうに言うと、リシルを押しのけて、ケイトリンが優雅な礼をして王子に進言する。
「しかし、アディアール家に他に御子息は、亡くなられたルロイ様だけだったと聞いておりますが」
「ご安心ください。息子たちには期待しておりません。私がもう一人産むつもりです! こう見えて私とリシル様は新婚ですの。幸い、騎士ニコラに見舞われると子宝に恵まれるとのことです。家名は違いますが、実の母がいる家を見舞うぐらいのことはしてくれるはずです。いつまでも恋に溺れた息子たちに任せていられませんもの」
「ケイトリン?」
リシルは目を見開いて驚いている。
「母上、本気だったのですか?」
「いけませんか? 私がニコラを産んだのは十四、五の時よ。もう一人くらいまだまだ産める歳だわ。ミアより先に産んでみせるから覚悟なさい」
昨夜、頬を思い切り叩いたのを思い出して、ケイトリンは息子の顔に手を添える。
「ニコラは私にもう少し感謝してもいいと思うのよ。ミアをお姫様に仕立て上げたのは私なんですからね」
首に巻かれた包帯を見て、どこか加減が悪いのかと尋ねられたミアは、答えられずに赤面した。
「奥方にも聞いていただきたい。ニコラにカルセルトの姓を授けようと思う。知っているだろう?」
聞き覚えのある名を聞いて、ケイトリンがミアに微笑みかける。
「ミアも知っているわよね」
「はい、絵本に出てくる騎士カルセルトでしょうか?」
ニコラウスはそうだと頷く。
「あれは絵本だけど、元は史実の騎士なんだ。伝説の騎士アディアールのようにね。カルセルトは僕のご先祖様に仕えた騎士の名前だよ。別の世界から来て、一代限りの騎士としてアーリア姫に仕えた。姫を不思議な力で守ったとされているね。 僕はその姫の末裔。だから僕が、カルセルト姓を自分の騎士に名乗らせるのはちっともおかしい事じゃない」
ニコラウスはミアの方に体を向け、まじまじと観察する。
「ミアを見た時にピンときたよ。ニコラもきっとあの絵本の話を読んだんだろうなって。こうやって着飾っていると、本当に絵本のお姫様みたいだ」
それを聞いて、ケイトリンがふふふと笑う。
「わたしもミアを見た時に、ニコラは絵本の中からお姫様を連れ去ってきたのかと思ったわ。きっとニコラはミアに恋をするって。どこにいてどんな格好をしていても、ニコラにはミアがお姫様に見えたのですから」
ニコラは改めてミアを穴が開くほど見つめる。
「……本当だ、そういわれてみると、ミアはあの絵本の姫にそっくりだ。どうして気が付かなかったのだろう」
「そんなの、恐れ多いですよ。殿下のご先祖様なのでしょう?」
ちやほやと持ち上げられるのが居心地悪く、ミアはニコラを窘めた。
「早速、陛下にニコラを僕の騎士にすると報告してきます。ニコラが騎士を辞めないと知ったら、陛下もお喜びになられます」
ニコラウス王子は希望に満ちた顔でそう告げる。ニコラを繋ぎ留められたという喜びだけではない。自分の将来の夢を定めた、若者の一番美しい瞬間の笑みだった。
「その、アディアール騎士、大事な跡継ぎをいただいてしまって申し訳ありません」
「ご心配なく、殿下。我が家は別の跡継ぎを立てる予定でございますので」
ニコラウス王子が申し訳なさそうに言うと、リシルを押しのけて、ケイトリンが優雅な礼をして王子に進言する。
「しかし、アディアール家に他に御子息は、亡くなられたルロイ様だけだったと聞いておりますが」
「ご安心ください。息子たちには期待しておりません。私がもう一人産むつもりです! こう見えて私とリシル様は新婚ですの。幸い、騎士ニコラに見舞われると子宝に恵まれるとのことです。家名は違いますが、実の母がいる家を見舞うぐらいのことはしてくれるはずです。いつまでも恋に溺れた息子たちに任せていられませんもの」
「ケイトリン?」
リシルは目を見開いて驚いている。
「母上、本気だったのですか?」
「いけませんか? 私がニコラを産んだのは十四、五の時よ。もう一人くらいまだまだ産める歳だわ。ミアより先に産んでみせるから覚悟なさい」
昨夜、頬を思い切り叩いたのを思い出して、ケイトリンは息子の顔に手を添える。
「ニコラは私にもう少し感謝してもいいと思うのよ。ミアをお姫様に仕立て上げたのは私なんですからね」
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