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買われませんから
しおりを挟む(あったかい……暖炉の始末を忘れていたかな……)
まだ暖かくなるような明るさではないのに変だなと、もぞりと動くと、温かい壁にぶつかる。
見知った熱に鼻先を突っ込んで、ようやく意識が目覚め始める。
(あ、ニコラ様の匂い……)
見上げて驚いたのは、ニコラが添い寝をしていたからだ。ミアを覗き込む形で脇の下に囲い込み、向かい合うようにして寝入っている。髪を撫でたまま眠ったのか、頭に腕の重みがある。
整えていない赤毛からのぞく寝顔は割と幼い。なんだか愛らしくて思えて、頬を撫でればミアの手に擦り寄ってくる。
(それにしても、腕が重いわね……)
ミアが頭に乗った腕の位置を変えようとすると、ニコラがうっすらと目を開けた。
「ニコラ様、ここでお休みになったのですか?」
声をかけると、音がするほどの勢いで瞼が開かれ暖かい色の瞳が見える。頭に置かれていた手が、夢か現実かを確認するようにミアを撫でまわす。
「そうか……あのまま……魔が差したな……」
寝入ってしまったことを思い出したのか、そのままミアを撫で続ける。
(今日も娼婦熱が治った様子はないわね)
ミアは自分に釘付けにされてしまっているニコラを哀れに思えてしかたない。一刻も早くニコラが普通の生活ができるようになればいいのにと、ミアは本気で願っていた。
「私用の寝台では窮屈だったでしょう? 言ってくださればニコラ様の寝室にうかがいましたのに」
「いや、ここがよかったのだ」
控えめに抱きしめられると、ゴリッとしたものが鳩尾に当たった。この展開にも慣れてきたなとミアはそっとそこを撫でる。
「これは、まぁ……」
ばつが悪そうにしているが、だからといって当てたものからミアを遠ざける様子はない。
「お手伝いいたしましょうか?」
「……いいんだ」
そう言う割には物欲しそうな顔をしているニコラの背に手をまわして距離を近くすれば、膨らみは力を持つ。
「ニコラ様、あのですね、コレ、私に挿れてもいいのですよ。言ったじゃないですか、私、禁止行為がないんです。そういう契約なんですよ」
愛だ恋だなどと言わずに、ニコラが娼婦を娼婦として扱ってくれるのだったらどれほど気が楽かしれない。ミアは自分が、恋人としてではなく娼婦としてここにいるのだと、ニコラの娼婦熱から冷めるまで教え続けなければならない。
「それはつまり、結婚してくれるのか?」
「いえ、しませんけど」
どうしてもその話題を出さずにいられないニコラに少し苛立って、わざと勃ちあがった所へ腹をぶつける。
「まずもって、怪我をするだろう」
(――確かにそうかもしれないわね)
ニコラの部屋着の下の男性器を、外からの触り心地で想像してみる。
ミアの知る限り一番大きな練習用の張り型と比べてみても、ニコラのモノを自分の体に導き入れるのは苦労しそうだなと思う。
「慣らせば大丈夫だって姐さんたちは言ってましたよ」
そんなはずはないと、ニコラはミアの足の間に手を伸ばす。
まだ濡れていない性器のまわりをふにゃりとつつかれているうちに、ニコラの指が陰核を掠めてびくりと反応する。
「しかしな、慣らした所で泣かせてしまうかもしれない」
「そんなの、してみなければわからないじゃないですか。ニコラ様、中までは触ってくださらないし」
「傷つけそうで怖いのだ」
「大丈夫ですよ。指で練習はしてありますから、最後までなさってください」
ニコラは片肘をついてミアのやる気に満ちた顔をしばらく見ていたが、理性のタガが外れたのか、急に覆いかぶさってミアの口を犯しはじめる。
ミアは口を愛撫され、ニコラの導き通りにあっという間に蜜口を濡らした。
「本当にいいのだろうか?」
「はい、存分に」
しかし、それからが長かった。
結局一度達するまで玩ばれて、絶頂して脱力したところで、つぷつぷと入り口の刺激が始まる。
「んっ……」
思わず体に力が入ったミアをあやすように、ニコラの舌が口の中を撫でる。慎重にニコラの長い指先が秘裂に埋まっていくのを、ミアは快感とともに受け止めた。
「まだ狭いが、奥行きはありそうだな……つらくないか?」
「あっ……練習の時より……気持ちいい、です」
「無理はするなよ」
ミアは喘がされながら、一緒に研修をうけた同期の娼婦たちを思い出す。他の娘も、こんなに溶けるほどの快感を受けて仕事をしているのだろうか?
ニコラといると娼館の先輩達が言っていたような痛いことや苦しい目にはさっぱり合わない。中を弄られる行為に吐きそうになると言っていた先輩もいたけれど、今のミアの膣口は、はくはくと浅く入り込んだニコラの指を歓迎して、離そうとしない。
「あ、ああ……」
悦くて悦くて、ニコラに縋り付く。さっき達したばかりなのに、中を満たされる圧迫感はそれ以上の多幸感でミアの思考を奪う。
「ニコラ様、これ、私ばかりこんな風に気持ちよくなって、職務怠慢になりませんか?」
与えられるばかりの快感を何か返したくて、ニコラの唇を舐めてみると、性感帯と成り果てた唇のせいで余計にニコラの指を締め付けることになってしまった。
感じていることが締め付けで直に伝わって、ニコラは感極まったような声をあげる。
「……ミアは、私を悦ばせる天賦の才でもあるのか? こんなにも中が蠢いて、奥へ奥へと誘われているようだ」
「奥へ……そうです、奥までなさってください。大丈夫ですので」
ミアは、娼婦の仕事の為というよりは、未知の快感への欲でニコラの理性を揺さぶるようなことを口走る。
「そう急いでは駄目だ」
ニコラは言い聞かせるように囁き、ミアの誘いには応じず、入口の浅い所をゆっくりと探り続ける。
ニコラの手を濡らす蜜は増えていくばかりで、動物が水を飲むような音を立てている。どこを触っても良い反応を返すミアだったが、ニコラは執念を持って、内部で特に快感を得られる場所を探っていく。
「ああ、ここだな」
器用に見つけ出した腹側の急所を柔らかく指の腹でこすり始めると、ミアはカタカタと震え始めた。
「ニコラさまぁ……んっ、あっ、駄目です……」
プルプルとふるえながらニコラに縋り付くミアの、むき出しになった臀部を空いた片手で揉みながら鼻歌でも歌いそうな機嫌のよさでミアを苛む。ニコラは器用な男だ。ミアの快感をギリギリまで引き出しては手加減を加え、それからまた高めていく。
喘ぎとともに蜜をこぼし、ニコラの指を締め上げて、もっと奥へと強請っても、浅い所への責めは終わらない。
「そうか、気持ち良すぎて駄目か? まだ少ししか触っていないというのに、愛らしいな」
陰核で与えられていた鋭い快感とは違った、内臓が収縮してせりあがるような大きな快感が迫っている。
「お、奥が……」
(どうしよう、ずっと奥がつらいのに……)
「ミアに求められて、ずっとこうしていたいものだな……」
呑気にミアの首に吸い付いたり、耳を食んだりしているニコラはミアがじくじくとした快感で半泣きになったのに気が付かない。
「にこらさまぁ……」
どうにかしたくて、頭に靄のかかったような舌足らずな声でニコラの袖を引く。
ひくひくと鼻をすすり始めたミアに気が付いて、目に浮かんだ涙をニコラは恍惚の表情で舐めとる。
「泣いてしまったのか? もうやめようか?」
くしゃりと顔をゆがませて、茹で上がった顔で首をふる。
「やだ……っくを、もっと……奥、触って……にこらさま……」
ニコラは息を呑んで、ミアをじっと見つめる。
「そうだ。ミア、もっと欲しがっていい。なんでも欲しがればいいのだ」
泣いて懇願するミアの片足を担ぎ上げ、朝日に赤裸々に照らされたミアの小さくて赤い膣口に深く深く慎重に指を沈めていく。
「あっ、あっ、あっ、ああーっ」
ゆっくりと行き止まり近くまで入り込んできたニコラの指は、ミアの快感を一気に押し上げた。
ミアはこの遊びが始まって、ずいぶん前からすっかり娼婦の仕事を忘れてしまっていた。膣の中を這い回るニコラの指に溺れながら、ニコラにキスを強請る。
舌を絡めながら、ニコラの下穿きに手を滑り込ませて、ニコラの猛りに本能的に指を絡めると、呼応するようにびくりと陰茎が跳ねる。
本当はコレが欲しかったのだと、一生懸命にぬめる鈴口をこすり上げると、たまらずニコラは熱い白濁をミアの腹に何回にも分けて飛び散らせた。
「ミア、わかるだろう? これは病じゃない。私はミアを愛しているんだ」
ニコラは息も荒く、ミアの耳に舌をねじ込みながら愛を囁く。
その声と同時に、深い所を撫でられ、自分の指では届かないような場所で快感がはじける。
さっきとは比べ物にならないほどの快感でニコラの指を食いちぎりそうなほどに締め付けて絶頂し、視界は真っ白になった。
ジンジンとした快感の余波が体の奥に残っている。
激しく走った後のような腹筋の痛みもある。
「結婚してくれないか?」
「それは、無理です」
ふわふわとニコラに抱かれながら、いつもの問答でミアはうっすらと自分の仕事を思い出す。
「なら、ここまででやめておこう」
――そうだ、本来ならここから先が本番だ。あの大きなものを受け入れて、その身で慰めるのが娼婦の仕事だ。
指は入ったし、きっと大丈夫。それに少し前まで、無理でも受け入れたいという熱に支配されていたのだ。きっとうまくいく。
やる気のあるうちに済ませてしまおう――
ミアはこのままニコラに処女を奪ってもらって、娼婦として一人前になってしまうのがいいと思った。
「ニコラ様がなさらないなら、水揚げにギルドから人が来ます」
ミアは二コラをどうにかやる気にさせたかった。思った通り、ニコラは険しい顔をする。
「なんだって? やっぱり噂は本当なのか」
秘密裏に行われているが、処女の娼婦の初めての客は花街の支配人の立会いのもと、ギルドから派遣された者が相手をすることになっている。
花街はよほどの事情がない限り、処女を売りに出したりしない。
「先輩の姐さんは、水揚げがロイさんだったって嬉しそうに話しました」
「ロイ・アデルア?!」
「ええと……」
「ミアもロイ・アデルアに奪われるのか?」
おかしな風向きを作ってしまったのはミアだった。確かにミアがロイに抱かれるとなれば、ニコラはじっとしていられないだろう。しかし、ロイとニコラの対立はミアの望むところではなかった。
「処女を変態に高く売って初心者を恐ろしい目に合わせないためですよ。初心者に怪我をさせたり怖がらせたりしないためギルドからベテランの人が派遣されるはずです」
「だからといって……」
「ロイさんだとは決まってませんし」
ニコラは黙り込む。
確かにさっきまでの熱が腹の中で渦巻いているのに、ニコラの熱が遠ざかったように感じる。
「ミア、分かっているのか? 私はミアを愛していると言っている。誰かにではなくて、誰にもミアを触れさせたくないんだ……まぁ、ミアが好いた相手がいて、愛を育むための情交だというのなら話は別だが。私とは結婚できないのだろう?」
「……できません」
ニコラにはニコラの人生がある。何度求婚されても答えを変えるつもりはなかった。
「まぁ、いい。私と結婚してくれるつもりもないし、特に好きな男もいないというなら、私が次の年季も買い取るつもりだから」
ミアはびっくりして外していた視線をニコラに戻す。
「また、ロイさんに借金するんですか?」
「どうしてそうなる……家を売るだけだ」
ニコラはミアの腹に飛び散った自分の欲望のなれの果てを、柔らかな布で丁寧に拭っていく。
「え……この家を、売るのですか……」
「私一人なら騎士寮に戻ればいいだけの話だ。ミアは陛下も仰っていたように、アディアール家に世話になるといい」
身が冷えたように感じた。
ニコラはこの暖かい、幸せな家を手放してしまうつもりなのか。
一年と少しここで暮らして、ここ以外は知らないけれど、ミアの初めての温かな家庭だった。アディアール邸ほどの豪華な屋敷ではないが、必要最低限のものがなんでもあって、どこもかしこもすっきりと整っていて、暖かく、清潔で、日当たりがよい。
ミアにとってニコラの家は幸せの象徴だった。
この家がなくなってしまう事がミアにはとても悲しいことに思えた。
ミアが幸せだった記憶も無くなってしまうような、酷く寒い心細さに支配される。
さっき快感でこぼれた涙とは違う涙が湧いてくる。
壁のないあばら家で、凍えて過ごしたことが思い出されて、ミアはニコラが馬鹿野郎だとしか思えなくなった。
「なんでそんなことおっしゃるのですか! わたし、次は絶対にニコラ様には買われませんから!」
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