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中身もよく見せておくれ!

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「父が隠居したでしょう? 私に負けましてね。もう二年前になります」

 リリアムはどこから持ち出してきたのか、執務室内で剣を振り回している。ペラペラとおしゃべりが止まらないのを苦々しく思うが、どうにか無視して手元の仕事に集中しようとする。

「私が勝ったら騎士に推薦してくれる約束でしたのに、いまだに渋っているのです。父の得意とする技で討ち取ったのがいけなかったのですかねぇ? あれから傷が痛むと言って、ちっとも部屋から出てきません」

 初日の女帝のような喋り方は外向きに整えられたものだったのか、働き始めてからのリリアムの口調はどんどん砕けて、最終的に悪童のそれになった。ニコラに対して遠慮も敬意もない。
 
「事あることに勝ったのだから騎士に推薦してくれと言うのですが、何が気に食わないのか、子を産んで跡継ぎを作れとしか答えません。あの糞爺、いっそ部屋から出ないようにと、ドアに釘を打ちつけてやりました」

 ひひひと笑って剣を一薙ぎすると、花瓶に飾ってあった花が一輪落ちた。
 リリアムは用事を言いつけられなければ執務室で喋り続け、ずっと落ち着きなく動き回っている。

 ニコラはリリアムを無視していたが、驚かなかったわけではない。ウィリアムが引退した理由が娘に引導を渡されたからだと、誰も知らないだろう。あの厳格なウィリアムが、この悪童に討たれたのかと思うと気の毒になる。

「父は目が腐っておるのでしょうな。私が男子であればニコラ・モーウェル騎士など蹴落とすほどの勇猛な騎士になりましたものを」

 ニコラは書類を書きながら、ちっとも仕事をしようとしないリリアムに苛ついていた。
 王子たちの世話をするのも苦労が多いが、リリアムの相手をするのも疲れる。

「しかし考えを変えました。父が駄目なら夫に推薦させればいいのです! ニコラ・モーウェル騎士は私の願いを叶えてくれそうですよね。なんたって、めかけがいても頓着しない都合のいい妻など、私の他におりません。いや、それよりも私と二人でミア嬢を娶るのはどうでしょう! 私、ミア嬢のあの儚げな感じ、大好きでして!」

 ニコラは怒りで眩暈がした。女性に手を上げそうになったのは初めてだ。
 一刻も早くこの部屋から追い出さなければ、いつか騎士らしくない行動をとりかねない。

「とりあえず、ガーウィン嬢は自分の仕事に戻ってくれ。結婚の話は正式に断りを出しておく」
「えー、でも、もう、アディアール騎士にニコラ様との結婚のお伺いを立てました」

 そんなことばかり抜け目のないところも厄介だ。これで義父にも謝りに行かなければならなくなった。

「それもまとめて断るから、そのつもりでいてくれ」
「私あきらめませんよ」

 リリアムは不満そうに書架に収めてある本の背を引き出したり戻したりした。体力を持て余している子どものような落ち着きのなさだ。抜身をぶらさげながらなので物騒なことこの上ない。

「では、少し剣の相手をしてくれませんか? ニコラ・モーウェル騎士が騎士棟では一番強いのでしょう? メイドとしてこちらに来てから、体がなまって、なまって。別に、剣でなければベッドの上でお相手していただいてもいいのですよ。運動がてら私が抱いて差し上げましょう。少し危険な遊びに興味はありませんか?」
「仕事の邪魔だ。窓でも拭いてきてくれ」

 ニコラは怒鳴りださないように深く息を吸い、細く細く吐いた。そして、猫の子をつまみ出すようにしてリリアムの首裏を掴み、外に押し出すと部屋に鍵をかけた。
 ひゃぁ、とかなんとか顔に合わない悲鳴をあげて執務室から追い出されたリリアムが、懲りずに部屋の前を通った別の騎士に暇だから剣の相手をしろと頼み込んでいるのが聞こえる。
 ニコラは一刻も早くリリアムが城から去る方法を考えねばならないと頭を抱えた。



 そのような調子で、リリアムは、毎日ろくに仕事もせずにふらふらと騎士棟を歩き回っている。
 とくによく出没するのは訓練所だ。騎士たちが鍛錬しているところに現れては一緒に剣を振る。
 メイドの仕事はさぼっているのだが、熱心に鍛錬しているし、向上心もあるのでやめろと言う者がいない。
 まじめにやっているかと思うと、若い騎士の尻を触ったとかでニコラに苦情が来たりする。
 
 厄介なことに、リリアムは男女の区別なく性的な関係に持ち込むのが得意なようだった。
 図書館に書簡を持って行かせれば女官を口説いていて帰ってこない。
 嫁入り前の女官を口説いたと、またニコラに苦情が入るが、メイドに騎士たちのような罰則を与えることもできず、ニコラの眉間の皺はいつもより深くなった。
 騎士でこのようなことをすれば根性から叩き直してやるのにと、ニコラはやり場のない怒りにさいなまれる。








 リリアムの横暴に周りが慣れてきたころ、事件は起きた。
 ミアが執務室の片づけをしていた時だった。ついに雑用の中の雑用ともいえる外の草むしりを命じられていたリリアムが、ミアが一人で執務室にいるのを目敏く見つけてやってきたのだ。

「リリアム様、もう終わったのですか?」
「いいや。そんなことより、私と遊ばないかい?」
「いえ。遊びません」

 ミアはリリアムの遊びの誘いにぴしゃりと断りを入れて、仕事の続きをする。

 しかたがないので、ソファに腰かけてリリアムは愚痴を言い始めた。

「私は騎士になりたかったのに、こうやってメイドの真似事ばかりさせられている。結婚して子を産めだって? 馬鹿げているとおもわない?」

 ミアにとってはリリアムの愚痴など、どうでもいいことだった。リリアムはどのように生きても飢えることはないのだから。

「リリアム様は、ニコラ様と結婚したくてここにいらしたのでは?」

 興味はないが、愚痴に相槌をうたないと仕事を邪魔されるかもしれないので、ミアは自分の仕事の手は休めずにリリアムの相手をすることにした。

「別に誰でもいいんだ。しかし、隊長以上の騎士じゃないと騎士の推薦をしてくれないだろ? ニコラ・モーリス騎士より上の役職持ちは妻帯者ばかりだし、あまり身分が高い人が相手でも面倒だし」

「ニコラ様は若くして隊長を務めていらっしゃいますものね」
「ニコラ・モーリス騎士が早く出世してくれて助かったよ。でもさ、まだ遊びたい盛りのはずなのに、真面目すぎはしないかい? 誘ってもちっとも手を出してこないし、不能か無能だったらどうしよう」

 ミアはニコラの勤勉さを嗤うリリアムに、少なからずむっとした。

「……ニコラ様は立派な騎士ですから」
「えー、本当にそう思ってる? 夜はどうなの? クソ真面目でちっともよくないんじゃない?」
「……そんなことありませんよ」

 ミアはすんでの所で「ニコラ様はお上手です」と反論してしまうのを我慢した。

「どうかなー、下手そう。そうだ! 私と比べてみないかい? 少しミアを味見させておくれよ」
「いえ、結構です」

 妙な事になってきた。
 リリアムは力が強いし、あっという間に怪しげなことに縺れ込ませるのを得意としている。
 危険を察して部屋から出ようとしたところ、リリアムに出口を塞がれた。

「ミア、嫌がる姿まで、なんて可憐なのだろう! どれ、私に服の中身もよく見せておくれっ!」

 リリアムはあっという間にミアの腰を抱き、ソファに押し倒すと、手を押さえつけて身動きを取れなくする。

「リリアム様、おやめください。わたしの身はニコラ様のものです」
「そうかい。それもなんだか燃えるじゃないか。朴念仁のニコラ・モーウェル騎士より、うんと気持ちよくしてあげようね」

 リリアムは巧みな指でミアのお仕着せを解き、白い素肌をはだけさせていく。

「やめてください」 

 娼館の姐さんたちよりも巧みで学ぶことも多いなと感心しながら、どうやって逃げ出そうか考えていると、あっという間に下着をずらされ胸がむき出しになる。

 リリアムは赤い唇を引き上げて、笑ったままゆっくりと先端を唇で食む。それと同時に太腿の方から手を入れられて、指が秘所にまで達する。無駄のない動きでミアはリリアムに蹂躙されていく。

(声を上げて助けを呼んだほうがいいかな? でも、リリアム様は女性だし……研修だと思って我慢しておいた方がニコラ様の手を煩わせないかしら)

 思いあぐねていると、
「隊長、いますか?」
 と、イーサンが部屋に入ってきた。書類に署名が必要なのだろう、手には書類の束を持っていたが、面食らってバサバサと音を立てて取り落とした。

「うわっ……」

 ミアとリリアムの様子を目撃して、イーサンは仰反った。足元に紙が散らばる。

 男ばかりの騎士棟では、艶っぽいことは無縁だ。ノックなしに執務室の扉を開けて、仰反るようなことに出くわすことはない。

「取り込み中だ」

 リリアムは急に声を落とし、貴族の娘らしい高飛車で容赦ない口調になって、イーサンを威嚇する。平民出身のイーサンは、条件反射のように慌てて一歩下がる。

「あ、す、すみませんでしたっ」

 頼みの綱だったイーサンが落とした書類もそのままに部屋を出ていってしまった。
 ミアは困ったことになったと、走り去って行く足音を聞いていた。
 
「邪魔が入ったね」

 リリアムは気を取り直したようで、ミアを再び撫で回す。今度は脂肪の薄い乳房を揉みしだかれ、少し痛みを感じた。
 指や舌をよく動かし、巧みな動きをみせるくせに、どうにも官能に至る刺激にはならない。

「嫌なら拒んでもいいんだよ。早くしないと気持ちよくしてしまうよ」

(気持ち良くは……ないわね。やっぱり姐さんたちのほうが……いいえ、ニコラ様の方がお上手だわ……)

 ミアは執拗に胸を舐められ、秘所に指を這わされていても、物理的な摩擦としか受け取れずに、濡れもせず、それどころか摩擦で皮膚が痛むのを感じた。

(舐められるのは我慢できるけど、傷がつくのはダメ……)

 ニコラに世話されて保っている体を傷つけられるわけにはいかないと、ミアは抵抗することにした。

「リリアム様、駄目です! 傷をつけられるのは本当に困るのです!」

 ミアがリリアムをドンと押して、驚いたリリアムが体を起こすのと同時に、バン! とドアが開いて、ニコラが現れた。
 
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