変態騎士ニコラ・モーウェルと愛され娼婦(仕事はさせてもらえない)

砂山一座

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添い寝を頼む。

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 確かに、花街の女たちには手や口での奉仕を許す事もあった。
 しかし、ミアは駄目だ。

「ミアは、そのような事をしなくていいのだ、と言っている!!」

 ニコラの声は思ったよりも大きくて、ミアはびくりと肩を震わせる。みるみるうちに、大きな目に涙の粒がふくらんでいく。

「いや、大きな声を出して、悪かった。だが……」
「……っく……」

 ついにミアは泣き出した。
 ニコラは、ミアの涙に弱い。
 その涙を舐めとってしまいたいと思うほどに、ミアを泣かせてしまったことを恥じた。

「もう、わたし、どうすればいいのか分かりません!」

 ニコラは一度ミアから目を逸らし、立ち上がってミアの隣を通り過ぎ、タオルを持って戻ってきた。しょんぼりとするミアに罪悪感がわく。

(こんな顔をさせているのは、ミアを世話している自分の責任だ……)

 そっと湿った髪を乾かすためにタオルを髪に当てる。
 黙ったまま、優しく優しく、髪を傷つけないように、髪の湿り気をタオルに移していく。

「……ではこうしよう。君に仕事として、添い寝を頼む。仕事としてだ。しかし、君が私の体に触れる行為は望まない。私が君を抱きしめて眠る……頼めるだろうか?」

「添い寝ですか?」

 タオルで大人しく拭かれながら、すんすんと鼻をすすりながらニコラを見上げるミアが、愛らしくて目じりが下がる。しょんぼりするミアを部屋から追い出すのは忍びないし、ミアに泣かれるのは本当に困る。

「わかりました。ニコラ様、ミアにお任せください!」

 仕事をもらって嬉しいのか、うっすらと笑みを浮かべたミアの足元に、跪きたくなるのをぐっと我慢したニコラは、この調子なら事故を起こさず朝が迎えられるかもしれないと胸を撫で下ろした。

 いくら家の仕事を与えても、それだけで満足せず、ニコラの忙しくない時を狙って寝台へ入り込もうとするのはやめなかった。そうまでして娼婦の仕事を諦めない理由がわからない。

(……確かに、意外とあったな)

 先程のミアの乳房の柔らかさを反芻してしては、悪いことをしてしまったような気になる。

「ニコラ様……」

 寝具の中で、いつもより近い所にまでミアがやって来る。
 ニコラはミアに、寝台で同衾する所までは許していた。
 しかし、寝台の端に居るように申し付けて、ニコラの中の規則では触れていいのは手までとしていた。それは潤いのない生活の中の、ギリギリでニコラの騎士道と折り合いがつく楽しみであった。

 今まで、ニコラからミアに触れたことはない。
 もちろんミアに性的な奉仕を望んだことも。
 ニコラは禁忌を犯すような気持ちでミアを抱き寄せる。
 小柄なミアをすっぽりと腕におさめて、ミアの甘く柔らかい香りを吸い込む。

(これは、堪らない……)

 この柔らかさを貪ることが今夜だけは許されているかと思うと、ニコラは欲が出て、より近くまでミアを引き寄せた。
 ニコラは先ほど揉みしだいた淡い膨らみをその身で味わうことになってしまう。

(あれは、良いものだった……ああ、当たっているな……)

 少し、背に回した手の場所を変えて、ニコラの身体にミアの胸を密着させてみると、たまらない幸福がニコラを満たす。
 密着した体と体の隙間を埋めるように、ニコラの硬くなった彼自身が柔らかいミアの腹を押し上げているのに気がつき、ミアは何とも言えない声をあげた。

「に、ニコラ様、こ、これ?」

 怯えさせてはいまいかと、心配しながらニコラはミアの背を撫でる。

「言っただろう、君は愛らしいし、美しい。君に魅力がないなんてことはないのだよ。しかし、はぁ……これは堪らないな……」

 艶めかしい息を吐くニコラの硬い強張りに、ミアは手を伸ばそうとする。
 すると、ニコラは手を拘束するようにして、さらにミアをきつく抱き込む。

「ニコラ様、手を離してくださらないと、何もできません」
「何もするなと言っている。離したらミアはまたご奉仕だのと言い始めるだろう」
「だって、ニコラ様、これ、ガチガチじゃないですか! 駄目ですってば、どうにか致しましょうよ。ね、お辛いでしょう?」

(辛い。辛くないはずがない)

 しかし、ニコラの騎士道には奉仕するという言葉はあっても、女性に奉仕させるというのは好ましくない言葉として刻まれている。

「君の仕事は添い寝だ。職務を全うしたまえ」
「え? 本気で言ってるのですか? 何のやせ我慢です? ちょっと、ニコラ様、本当に自由にしてくださいってば!」

 連日の夜勤のおかげで、体が疲れているのが良かった。ニコラは最高にムラムラしていたが、それを上回る眠気に襲われた。心拍数があがっているのに、眠気が強い。

(夜間訓練を思い出すな……。あの時は体が動いているのに意識が寝ていた……)

「ニコラ様!!!!」

 ミアの呼ぶ声が遠くで聞こえる。

 気を逸らすために、関係のないことを考えているうちに、ミアの体が自分の腕の中でとろけたかとおもうと、ニコラはあっという間に眠りに落ちていた。

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