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【おまけ】家に帰ろう9
しおりを挟む「わたし、ずっと無視されてるのかと思って……ずっと悲しかった。ノッテは私じゃなくてロンが好きなんだと思ってたし……」
「そんなわけないだろ!」
ノッテは否定するけど、ロンとノッテはおかしな関係なのだと邪推されてもしかたないやり取りをしている。
「僕もノッテは僕のこと好きなのかと思ってたし」
頭の後ろで手を組んで、ロンもおかしなことを言っている。
「馬鹿なこというな! 俺はただ、ロンといればルチアに会えると思って」
「そうは見えなかったわよ」
ルチアとロンは同じ角度で眉を顰めて首を傾げた。よく見るとこの兄妹はサイズが違うだけで、とてもよく似ている。
だとしても、ノッテが誤解されやすい行動をとっていたことは想像がつく。
「俺は、子どもの頃からルチアだけを見ていたんだ。絶対にロンじゃない」
「そう思うなら、どうして私を誘ってくれなかったのよ。私からは誘ったわ! でも、ノッテはあの時、聞こえないふりをしたわよね。耳が悪くてもあれだけ近くで言えば聞こえていたはずよ」
ノッテはルチアから目をそらして、尾を垂れる。毛の短い尻尾が垂れ下がると必要以上にしょんぼりと見える。
「間違えてロンに乗っかった俺は、ルチアと番う資格は無くなった――」
「それで私とおかしな距離をとっていたのね。でも、私だと思ったから求愛したんでしょ?」
「……俺は、完全に間違えた。獣人が番いを間違えることなんかあるかよ?」
ノッテの鼻と耳が悪いのが知れたのはついさっきだ。そうでもなければ獣人が番いを間違えることはないのだろう。
「ちょっと間違えたかもしれないけど、その時の気持ちは、私に対してだったんでしょ」
「もちろんそうだ」
「なら、ノッテの求愛は私のものよ。どうして番っちゃ駄目なの?」
ノッテの尻尾はまだ上がらない。自信なさそうに首を振る。
「俺はロンにいつも足蹴にされているような駄犬だ」
それに対してのルチアの気の持ちようは逞しかった。
「そうだけど、べつに、いつもそうじゃない。気にしてない。私、蹴られてるノッテも好きよ」
「嘘だろ」
「なんだったら、お兄ちゃんに虐められてるのにへらへらしてるところも、全然嫌じゃない」
「ルチア……」
ノッテの尻尾が上がった。ルチアの瞬きに合わせて嬉しそうに尾が揺れだす。
「――そこは嫌がれよ」
「――そこは嫌がろうよ」
俺とロンは同時に同じことを口にした。
「ノッテ君は、ルチアちゃんにも噛まれるのを希望しているそうだよ」
博士の付け足しは、まったくの蛇足で、場を変な空気にした。
「やっぱり俺……」
自信なさげにもう一度尾を下げたノッテの腕をルチアが強引に引く。
「いいの、いいの。ノッテはこれでいいんだってば! お兄ちゃんたちは帰ってて、私ノッテと話があるから」
ルチアは小さな体全体で嬉しさを表現している。
ルチアはノッテを待っていたのだ。
ロンを待たせた自分と重なって、挙動不審でルチアに引きずられていくノッテに、同情的になってしまう。
「それじゃ、ごゆっくり。ノッテはわき腹が弱いからあまりそこは撫でてやるなよ」
ロンが捨て台詞を吐けば、ルチアは鼻に皺を寄せて歯を剥き出す。
「お兄ちゃんのそういうところ嫌い。番の人に嫌われるわよ」
「フランは僕のこと大好きだし! なぁ?」
ロンは白々しく俺の腰に手を回して俺の脇の下辺りに鼻を突っ込み、目だけでルチアを挑発する。
「ロン行くぞ」
こんどは兄妹喧嘩が始まりそうだ。慌ててロンを抱いて東の山へ向かう。
「じゃぁ、ロン君の家に帰ろうか」
博士はいつの間に用意したのか、鞄を持って先を歩く。
ノッテはこれからロンに邪魔されない幸せを手に入れるだろう。
俺にできることは、ロンが退屈になってノッテや彼の子分に喧嘩をふっかけないように、手綱を引いて、楽しいことを一緒に探してやることだ。
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