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【おまけ】家に帰ろう7

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「皆さんご迷惑をおかけしました。獣人のやり方がどうなのか、俺にはわからないけど、たぶんロンはやりすぎで……」
 
 俺は自分で頭を下げるのと一緒にロンの頭を押して、ノッテの仲間に謝罪させる。
 ロンは俺にそうされるのを嫌がっている様子はない。尻尾も機嫌良さそうに緩く揺れている。
 
「別にあんたが謝らなくてもいいよ。ロンが頭おかしいのは、いつものことだし」
「ロンは本当にいつもこんな乱暴者だったの?」
 
 俺が問えば、ノッテの子分たちは各々頷き合う。
 
「あんたも大変だろ。ロンは何がきっかけで跳びかかってくるかわからないし、じゃれ始めるとしつこいから」

 ノッテはあれだけ大騒ぎをしていたくせに、思ったよりも平気な顔をしている。

 きっとロンとノッテには俺の知らない絆があって、俺のしたことは本当はお節介なのかもしれない。
 獣人の間では、ロンみたいな横柄な態度は何ら問題のない普通のことなのかもしれなくて――謝りながらも、自分のふるまいに自信がない。
 
 俺にとって、誰かと関わり合いになることは、とても新鮮で難しいことだ。ロンの飼い主面をしてしまったことだって、裏を返せば単なる嫉妬だったんじゃないかと自分が嫌になる。
 
「なんだよ、ノッテ、僕が帰ってきて嬉しいくせにさ」
「全然だよ。なんでお前そんなに自分の容姿に自信があんだよ」
「は? 僕、可愛いし」
 
 互いを小突き合いながら、ロンが笑って、ノッテが忌々しそうに鼻の上に皺を寄せる。
 そうなのだ。この二人にはきっとこれが心地よいやり取りなのだ。野暮は俺のほうだ。
 
「それで、結局ノッテの早とちりで博士を連れてきちゃったってことなんだろ? 僕、来て損した」
「ああ、まあ、そうだな……悪かった」
 
 ノッテは博士に向かって謝罪する。博士は何も言わず微笑むだけだ。
 
「ノッテがさっさと開放しないから、博士にされちゃったんだからな。舌とか耳とか引っ張られて嫌だっただろ?」
「された。なんだってハカセは俺の弱い所ばかり触ろうとするんだ……変人だな」
「ははっ、きっと次からはこの山に寄る時にノッテの縄張りにも行くようになると思うよ。オジサンに伝えておいたほうがいいね」
「マジかよ……」
 
 つまり、ノッテはロンの家に見知らぬヒトが訪ねて来て、家の仕事を手伝っているのを警戒して、話を聞くために連れ去ったということのようだ。連れ去った博士にされて、たいそうな悲鳴を上げていた、と。
 気が抜けるような話だが、大事にならなくてよかった。
 事件は解決したが、俺は何だかよく分からない重りを持ったまま帰路につかなければならなくなったようだ。
 
「はい、終わり、終わり。さぁ、みんな帰ろうか。フランも帰ろう。母さんたちが待ってるし」
「そうだな、山に来てすぐに騒ぎになったから、ちゃんとロンの家族に挨拶もしてないし。妹さんも、もう帰ろう」
「う、うん……」

 ロンが解散を促しても、博士はにこにこしたまま皆を見守っている。何を考えているのか、よく分からない人だ。
 俺はすっきりとしない気持ちを抱えなおしながら、山の境界線の方に向かって歩き始める。
 日が高くなって影が濃くなった山に、鳴き合う鳥の声が響き渡る。
 
 歩き出したルチアの後ろを歩いていると、すこし下がり気味な白い尾が目に入った。
 ルチアは会った妹の中では一番小柄だが、尻尾も耳もロンとおんなじだ。

 ロンの妹は確か五人いると言っていた。もう一人はどんなだろう。ロンのように馬鹿力だったりするのだろうか?

「君たち、ちょっと待ってくれるかい?」
 
 ずっと沈黙を守っていた博士が、帰り路に足を向けた俺たちの前に小走りで立ちふさがる。
 
「君は私じゃなくて、ノッテを心配してきたのだろう、ルチアちゃん。ノッテにそう言わなくていいのかい?」
 
 博士は小首を傾げてルチアに問う。
 前を歩いているので表情は分からないが、博士に問われてルチアは体全体で驚きを表している。
 
「は、博士……あの、あの」

 博士は愉快そうに口の端を上げた。
 顔は前を向いているが、ルチアの耳は後ろを振り返ってノッテに注意を向けている。少しうつむいた横顔から見える頬は真っ赤だ。

「ロン君、きみが来て損したなんてことはないよ。今日君たちが来て丁度良かった。君たちには、ちょっとした行き違いがあるようなんだ」

 博士は、癖なのか、さっきかけなおした眼鏡をもう一度はずして、懐から取り出した布で磨き上げる。
 
「博士、なんのこと?」

 ロンはさっぱり分からないといった顔をして、ルチアとノッテを見比べた。
 
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