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【おまけ】家に帰ろう5
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「博士を返して! 博士は何も悪いことしてないわ。うちの手伝いをしてくれていただけなんだから!」
ルチアが俺たちの後ろから大きな声でノッテに吠える。
ルチアがいることに気が付いていなかったのか、ノッテはびくっとして、一歩家の中に退いた。
「お前もいたのか……ヒトが俺たちの何を調べまわっているんだ? 怪しいだろ、何で知らない奴を簡単に縄張りに入れてるんだよ。お前んち、みんな頭の中お花畑かよ」
「博士は獣人に興味があって調べているだけよ。それに知らない奴じゃないわ。何度も家に来てるもの」
「そんなの俺は知らないし!」
背の高いノッテは、俺たちの頭の上からルチアに向かってけんか腰で言い返す。
さっきドアを開けた時に見せた、疲れて萎れた様子とは全く違う威勢のよさだ。俺はロンと顔を見合わせた。
「なんか、言ってることが違うんじゃない? さっきは博士を連れて帰ってくれって……」
「俺は街へ連れて帰れって言ってんだよ。おせっかい女の家に戻せって言ってねぇ」
ノッテは取り繕うように言ってそっぽを向いた。怒りのぶつけどころが定まらないのか、今度はロンの方を向いて威勢よく話し始める。
犬のように強さの順位付けを気にして、ルチアには弱い所を見せたくないのかもしれない。
「ロン、お前、しっかりと妹ぐらい躾けていけよ! 縄張りを守るどころか、得体のしれないヒトなんか土地に入れやがる。こっちも迷惑なんだよ」
ロンは腕を組んで、何か考えているようで、視線を空に向けている。ぱたり、ぱたりと尻尾が揺れて、考えがまとまったのかノッテに人差し指を向ける。
「……ふぅん、それで、ノッテはなんで博士を連れて行ったりしたわけ? つまり、うちを守るため?」
ロンが指摘すれば、ノッテはぶんぶんと首を振る。
「ち、違う。ヒトがふらふらと里を旅しているなんておかしいだろ。何か悪いたくらみがあるに違いねぇ」
「街からやってきたヒトの行動を制限しちゃいけないって、知らないわけはないよね?」
「そんなのガキでも知ってる。でも、そいつ、獣人の番でもないんだろ? ヒト同士で番ったヤツなら里から排除しても誰も文句ないだろ」
「やれやれ、獣人の番じゃないとなると、里では信用が落ちるね」
博士と呼ばれた人物が、診察用の手袋を外しながら表に出てきた。医者のしているような白衣と帽子を脱ぎ去って、口の覆いも外す。
きれいに後ろになでつけられた白髪交じりの金髪と、優しそうな青い目の紳士だ。
そういえば、どこかで見たような覚えがある。
「……あの、もしかして、ダリアさんのお父さんでは?」
眼鏡を白衣の裾で磨いて、かけ直すと、俺のほうを見る。それから、驚きを表すように両手を開いて見せた。
「ああ、君はヒトだね! それじゃ、ロン君の番かな?」
「フラン、博士と知り合い?」
ロンも驚いて、俺と博士を交互に見る。
「直接は知らないけど、ダリアって――ほら、うちの店で、カフェの時間で働いていた――」
「ダリア……? ああ、あの獅子と番ったヒト? じゃぁ、博士ってハカセって名前じゃなかったんだな。知らなかった」
博士は柔和な笑みを浮かべて、うんうんと頷く。
「さもありなん。君たちにとっては番以外の名前はそんなに重要じゃないから、知らなくても問題ない。私はね、ブルーノっていうんだ。うちはもともと獅子の一族と浅からぬ縁があってね、こうやって自由にさせてもらってる。ダリアまで獅子と番ったと聞いたときは驚いたけれどね」
「そうでしたか。ダリアがカフェで働くことになった時に、お見かけました」
カフェの仕事はダリアにとって初めての仕事だった。働き初めの頃にダリアの父が心配して様子を見に来たことがあったのを覚えている。
遠巻きだったけれど、高そうなスーツの紳士が、素朴なダリアの父だと知って、意外だなと驚いたの思い出した。
「ああ、あの時の」
「はい。学校が一緒で、しばらく同じ店で働いていましたので」
「獣人の番同士も、多少の縁があるようだね」
「し、獅子……」
ノッテはすっかり顔色を失って尾が垂れている。獅子の獣人は他の獣人にとって相当の脅威なのだろう。ロンも怖がって、しばらくダリアに近づかなかった。
「ノッテは獅子を見たことないだろう。でっかい獅子だったよ。鬣が黒くてヤバそうだった」
「……ひっ、そんなの、誰が信じるかよ」
「やっぱり獅子獣人が番いっていうのは特別なんだね」
「獅子の縄張りは家族全体に及ぶからね。番の父をうっかり傷つけたら確実に報復を受ける。あー怖い、怖い」
ノッテはすっかり意気消沈したようで、ロンの挑発に乗るのにも時間がかかるようになってきた。なんだかんだで、ダリアの父だと知れたことで、平和に解決しそうだ。
ほっと息を吐いた時だった。
「番ができたからって調子にのるなよ。番がいるっていうのは、つまり、弱点があるってことだ。そんな弱そうなヒト、すぐに……」
ノッテが言い終わらないうちに、ロンが動いた。
「うわっ……キャン! キャン、キャン!」
閑静な木々に悲壮な悲鳴が響き渡った。
ルチアが俺たちの後ろから大きな声でノッテに吠える。
ルチアがいることに気が付いていなかったのか、ノッテはびくっとして、一歩家の中に退いた。
「お前もいたのか……ヒトが俺たちの何を調べまわっているんだ? 怪しいだろ、何で知らない奴を簡単に縄張りに入れてるんだよ。お前んち、みんな頭の中お花畑かよ」
「博士は獣人に興味があって調べているだけよ。それに知らない奴じゃないわ。何度も家に来てるもの」
「そんなの俺は知らないし!」
背の高いノッテは、俺たちの頭の上からルチアに向かってけんか腰で言い返す。
さっきドアを開けた時に見せた、疲れて萎れた様子とは全く違う威勢のよさだ。俺はロンと顔を見合わせた。
「なんか、言ってることが違うんじゃない? さっきは博士を連れて帰ってくれって……」
「俺は街へ連れて帰れって言ってんだよ。おせっかい女の家に戻せって言ってねぇ」
ノッテは取り繕うように言ってそっぽを向いた。怒りのぶつけどころが定まらないのか、今度はロンの方を向いて威勢よく話し始める。
犬のように強さの順位付けを気にして、ルチアには弱い所を見せたくないのかもしれない。
「ロン、お前、しっかりと妹ぐらい躾けていけよ! 縄張りを守るどころか、得体のしれないヒトなんか土地に入れやがる。こっちも迷惑なんだよ」
ロンは腕を組んで、何か考えているようで、視線を空に向けている。ぱたり、ぱたりと尻尾が揺れて、考えがまとまったのかノッテに人差し指を向ける。
「……ふぅん、それで、ノッテはなんで博士を連れて行ったりしたわけ? つまり、うちを守るため?」
ロンが指摘すれば、ノッテはぶんぶんと首を振る。
「ち、違う。ヒトがふらふらと里を旅しているなんておかしいだろ。何か悪いたくらみがあるに違いねぇ」
「街からやってきたヒトの行動を制限しちゃいけないって、知らないわけはないよね?」
「そんなのガキでも知ってる。でも、そいつ、獣人の番でもないんだろ? ヒト同士で番ったヤツなら里から排除しても誰も文句ないだろ」
「やれやれ、獣人の番じゃないとなると、里では信用が落ちるね」
博士と呼ばれた人物が、診察用の手袋を外しながら表に出てきた。医者のしているような白衣と帽子を脱ぎ去って、口の覆いも外す。
きれいに後ろになでつけられた白髪交じりの金髪と、優しそうな青い目の紳士だ。
そういえば、どこかで見たような覚えがある。
「……あの、もしかして、ダリアさんのお父さんでは?」
眼鏡を白衣の裾で磨いて、かけ直すと、俺のほうを見る。それから、驚きを表すように両手を開いて見せた。
「ああ、君はヒトだね! それじゃ、ロン君の番かな?」
「フラン、博士と知り合い?」
ロンも驚いて、俺と博士を交互に見る。
「直接は知らないけど、ダリアって――ほら、うちの店で、カフェの時間で働いていた――」
「ダリア……? ああ、あの獅子と番ったヒト? じゃぁ、博士ってハカセって名前じゃなかったんだな。知らなかった」
博士は柔和な笑みを浮かべて、うんうんと頷く。
「さもありなん。君たちにとっては番以外の名前はそんなに重要じゃないから、知らなくても問題ない。私はね、ブルーノっていうんだ。うちはもともと獅子の一族と浅からぬ縁があってね、こうやって自由にさせてもらってる。ダリアまで獅子と番ったと聞いたときは驚いたけれどね」
「そうでしたか。ダリアがカフェで働くことになった時に、お見かけました」
カフェの仕事はダリアにとって初めての仕事だった。働き初めの頃にダリアの父が心配して様子を見に来たことがあったのを覚えている。
遠巻きだったけれど、高そうなスーツの紳士が、素朴なダリアの父だと知って、意外だなと驚いたの思い出した。
「ああ、あの時の」
「はい。学校が一緒で、しばらく同じ店で働いていましたので」
「獣人の番同士も、多少の縁があるようだね」
「し、獅子……」
ノッテはすっかり顔色を失って尾が垂れている。獅子の獣人は他の獣人にとって相当の脅威なのだろう。ロンも怖がって、しばらくダリアに近づかなかった。
「ノッテは獅子を見たことないだろう。でっかい獅子だったよ。鬣が黒くてヤバそうだった」
「……ひっ、そんなの、誰が信じるかよ」
「やっぱり獅子獣人が番いっていうのは特別なんだね」
「獅子の縄張りは家族全体に及ぶからね。番の父をうっかり傷つけたら確実に報復を受ける。あー怖い、怖い」
ノッテはすっかり意気消沈したようで、ロンの挑発に乗るのにも時間がかかるようになってきた。なんだかんだで、ダリアの父だと知れたことで、平和に解決しそうだ。
ほっと息を吐いた時だった。
「番ができたからって調子にのるなよ。番がいるっていうのは、つまり、弱点があるってことだ。そんな弱そうなヒト、すぐに……」
ノッテが言い終わらないうちに、ロンが動いた。
「うわっ……キャン! キャン、キャン!」
閑静な木々に悲壮な悲鳴が響き渡った。
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