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深窓の令嬢をやります!
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軍隊を持たず、ギルドに依存するこの国の騎士の数は少ない。団内の宴会は機動力が下がるのを避けて、日時を分けて行うのが恒例だ。
グリアはニコラや他の隊長たちと卓を囲み、ほどほどの酒を楽しんでいた。このテーブルには人数分の酒瓶しか置かれていない。
指揮する者を泥酔させない配慮だが、不満は多い。必ず酒が足りないという話題でひとしきり盛り上がる。
グリアも一本だけなら度数の高いものを置けと、隣に座ったニコラと愚痴を言い合ったところだ。
離れた席から歓声があがる。
この席と違って一般の騎士たちは浴びるように酒を飲んでいる。
例年と違うのは、男たちの声に混じって、やけに機嫌の良いリリアムの甲高い声が聞こえるところだ。
リリアムは警邏隊の騎士や見習い訓練を受けている者たちと酒を酌み交わしている。
警邏隊の一人がリリアムの肩をバンバン叩きながら、大笑いして椅子から転げ落ちた。リリアムが父、ウィリアム・ガーウィンの真似をしたからだ。
若手は笑うが、うっかりそれを見てしまった騎士の中には鬼教官の特訓を思い出して、口を押さえながら手洗いに駆け込んでいく者もいる。
教官の真似はやめて、今度は任務の時のように令嬢らしくふるまってくれと請われ、それならばと、椅子の上にあがって敬礼する。
「リリアム・ガーウィン、深窓の令嬢をやりますっ!」
乾杯の音頭をとって、全員がテーブルから酒器を持ち上げると、リリアムはテーブルにかけられていた白い布を引き抜いて腰に巻く。
キツく結い上げられていた髪を解き、くるりと回って見せれば、即席の令嬢ができあがった。
「おおー!!」
リリアムが控えめに笑みを浮かべると、歓声が上がった。
今度はゆっくりとつまみが用意されている席に着くと、今まで手づかみで食べていた骨付き肉を、フォークとナイフで優雅に切り分けて口に運ぶ。
無骨な酒杯から繊細なグラスに持ち替えて、一口づつ酒を赤い唇に含むと、周りからため息が漏れる。
「何かの芸にしか見えないな」
「最初見た時は、あまりの落差に吐き気がしたよな」
「媚薬の潜入の時は、本当に暴漢に連れて行かれたと思って焦ったものだ」
周りの者たちは口々にリリアムの淑女ぶりを宴会芸として褒め称える。
「ガーウィン、俺、今度こそ浮気な彼女と別れるつもりなんだ。練習させてくれよ」
酔った栗毛の隊員が、リリアムの肩を抱き、呂律も回らない様子で次の余興を申し込む。
リリアムは気前よく頷くと、器用なことに、さめざめと泣き真似を始めた。
「私……モーフィアスがいつも忙しくしているから、ただ寂しかっただけですのに……」
モーフィアスと呼ばれた騎士は、自分の目をこすりながら、後退り、リリアムから距離を置く。
「ぐ……俺の彼女より可愛い反応。やめろ、ガーウィン、気が狂う。これはガーウィン教官の娘、ガーウィン教官の娘……」
モーフィアスは魔除けの呪文を唱えて、幻想をふりきろうとする。
「うちのクソ親父なんか、恐るるに足りません! 今日は出かけに髭をむしってやりました!」
スカートにしていたテーブルクロスを、今度はマントのように肩に掛け直し、どすりと胡坐をかいてテーブルに座り直す。
ぐびぐびと酒を飲み干して、髭をむしる動きをして見せると拍手が起きる。
「おー! いいぞ! もっとやれー」
「ガーウィン、もっと飲め!」
調子に乗ったリリアムが杯を干せば、また歓声が上がる。
「――なんだあれは」
グリアはつまみの付け合わせ野菜をちまちまと齧りながら、リリアムの周りで上がる歓声に眉を顰める。
ニコラは若手の馬鹿騒ぎよりも、帰る時間を気にしている。この場にいない妻のことを心配しているのだろう。長年、宴会など不要だと主張してきたが、ニコラの主張は未だに他の騎士から受け入れられずにいる。
「あんなのは、いつものガーウィンの悪ふざけだ。外に出るといつもああなのだ」
グリアとニコラは、もう飲める分は飲んでしまって、他の卓より少し豪華な軽食をつまんでいる。ニコラは妻に持ち帰るつもりなのか、酒にはあまり合わなかった甘い菓子を厨房に頼んで包んでもらう手配をしている。
宴会は終盤で、床に座り込んだり、卓に突っ伏している者もいる。
「グリア、おまえ本当にアレをグッドヘン家に引き入れるつもりか? 今までの女も最悪だったが、ガーウィンはそれよりも最悪だ」
ニコラは少し酔ったようで、いつもより良く喋る。
「その覚悟があると言っていた」
「覚悟の在る無しではない。身を固めるにしても、わざわざガーウィンを選ばなくてもいいだろう?」
ニコラは、見た目よりずっと情に流されやすいグリアを心配していた。
子どもの頃、騙されて連れていかれたオルカの別宅から、逃げ帰った時、ニコラが説教してもガロンの無実を信じていたくらいだ。
「リリアムは丈夫だ。多少のことでは壊れはしまい」
「伴侶に選ぶなら、丈夫さよりもっと大切なものがあるだろう! 私は、グリアにも本当の恋を味わって結婚相手を決めて欲しかったのだ! 騎士として自分の一生を捧げる者があれでいいのか? ミアを襲うような野獣だぞ! けしからん!」
管を巻き始めたニコラは常よりも愚痴っぽくなる。
グリアは見た目よりうんと酒に弱いニコラのグラスに、果汁を注いでやる。
「俺はお前のように変な性癖を仕事に求めていない。ニコラ、この程度で酔ったのか?」
「この間、賊の陰毛を剃り落とした件が騎士の倫理に反すると問題になっている! 指揮していた私の責任だと――そんなはずがあるか! あんな女、私が許さん! ガーウィンの周りに集まっている奴も懲罰だ! 規律が乱れる!」
「酒の席で何を言っているんだ。今日はまだ一度もガーウィンから隊員に触れてはいない。風紀を乱しているとはいえない」
「擁護するのか?!」
「ガーウィンはよくやっているさ……」
ニコラの愚痴はまだ続きそうだったが、テーブルの上にひっくり返っているリリアムをみつけてグリアは立ち上がる。
ベロベロに酔って介抱されているリリアムの周りに人が集まって、馬車を呼ぶかどうか思案している。
海老のように丸まって、さっきのテーブルクロスをかぶったリリアムは、大いびきをかいている。さっきの可憐さは微塵もない。
「酔いつぶれたので部で預かると、誰かガーウィン家に連絡してくれ。この状態で馬車に乗せて吐いたら最悪だ」
見かねてグリアが指示を出すと、後ろの方から若い騎士が声を上げる。
「グッドヘン部長、もしや振興部の部室に転がしておくのですか? 差し出がましいようですが、女性にそんな扱いは……」
警邏隊の若手は、酒の勢いか、グリアの決定に異論を唱える。
リリアムが娼館に連れ出したうちの一人だ。
「部室が駄目なら、俺の部屋に置けばいいな」
「ガーウィン家の令嬢をですか?」
いつもなら誰も触れないようなことを言い出したのは騎馬隊の一人だ。
貴人警護の際にリリアムと組んだ事がある。グリアは記憶から騎士たちの名前と経歴を呼び起こして、頭の中の別の書類入れに移動させる。
「俺の部下だ。問題ない。ガーウィンが酔って暴れてもどうにでもなる」
騎馬隊の騎士が一歩前に進み出てグリアを見上げる。それなりに気概のある表情だ。
「グッドヘン部長、私は騎馬隊のロックフォール・ゴーダです。私の部屋に泊めます。私が調子にのって飲ませ過ぎてしまったようで」
「いや、心配には及ばない。これを担いだら重くて腰をやるぞ」
そう言ったくせにグリアはリリアムを軽々と持ち上げて、穀物の入った麻袋のように担ぐ。
「ガーウィン、俺の背に吐くなよ」
「先輩、私まだ飲めます……うぐっ……」
リリアムは、グリアに呼ばれて反射的に目を開けたものの、酩酊感で視界が回って慌てて目を閉じる。
ゴーダ騎士はグリアに負けないようにと上背を張り、ぐっとグリアを睨みつける。
「恐れながらグッドヘン部長、苦言を申し上げるようですが、技術振興部はガーウィン騎士の扱いが荒いのではないでしょうか。気絶するほどの訓練や、危険な実験にも参加させているようですが。警邏隊にいた時より過酷におもえます。女性騎士に対する扱いとして、正しいとは思えません」
誠実そうなゴーダ騎士は、極めて騎士らしいことを言った。しかし、グリアはそれを一蹴する。
「リリアム・ガーウィンは女性である前に騎士だ。女性として扱われるより騎士として扱われる事を選ぶ。心配は無用だ」
「ですが……」
グリアは感情のない目で騎士を見下ろす。褐色の意志の強そうな瞳がグリアを見返している。
ゴーダ家もまた騎士の家系だ、ガーウィン家との釣り合いも申し分ない。誠実そうで本質を見抜く力も、権力を前に尻込みすることも無い。良い騎士だ。
グリアは頭の中でさっき仕分けしたゴーダ騎士の書類を再び取り出し、また別の書類入れに収める。目立つように赤く色付けされたものだ。
「本人がそう言ったのか?」
「……いえ。私の推測ですが」
「なら、憶測でモノを言わない方がいい。そんなに心配だと言うなら、試しにガーウィンを女性として扱ってみるといい。切り捨てられる覚悟があるならな」
騎士は気勢を殺《そ》がれたようになって、押し黙った。
グリアは、コーダ騎士の、リリアムの行動の予測がつくらしいところも気に入らないなと思った。
重くなってきたリリアムを軽く揺すって背負いなおす。
「せんぱ……でちゃう……」
「……ガーウィンを吐かせてくる」
寮に足を向けるグリアに、それを代わると言い出すものはいなかった。
リリアムの我慢できる時間を考えながら、速足に自室に向かう。
「全く、のみすぎだ……」
寮の部屋に着くと、リリアムを手洗いに押し込み、吐き終わるのを待つ。
一通り吐き終わって、口を漱いで、一息つく間もなくリリアムは眠り込んだ。
グリアは、寝て重くなったリリアムを、ベッドの上に大事そうに横たえる。
騎士服を脱がして、胸当ても取り去って、下着姿になった部下をグリアはしばらく眺めてみた。
「女性として扱ったところで、こいつは大して変わらないわけだがな」
リリアムを女性として扱ったとして、その場では尻尾を振って喜ぶかもしれないが、次の瞬間には騎士に戻っている。何度令嬢としてふるまうリリアムを見ても、騎士のリリアムの方が好ましいと思ってしまう。
危機感もなく大の字になっているリリアムに覆いかぶさると、残った下着も剝いでいく。
柔らかな綿の紐を解けば、見慣れた乳房があらわれる。
「しかし、目敏い奴がいたな……」
グリアはさっきのゴーダ騎士の身長を考えて、騎士服の詰襟からギリギリ見える角度にきつく吸い付く。独占欲が満たされたグリアは、調子付いて、そのまま至る所に口付ける。
リリアムが起きないのをいいことに、乳房を捏ねたり舐めたり好きにする。
下半身をまさぐれば、しっかり濡れていた。
「お前、まさか起きているんじゃないだろうな」
一度手桶を取りに行って、湯で体をふいてやった後、医者のような顔をしながら蜜口に指を挿しいれてみる。
いつもより緩やかな締め付けを感じながら、中を探れば蜜が増した。
「あっ……んんっ、せんぱ……いい……」
起きたのかと思って返事をしたら、すっかり寝入っている。
寝言で呼ばれたのが自分であったことで、グリアの機嫌は上向いた。
「膀胱がいっぱいだな」
用を足しに手洗いに連れていき、便器に跨らせると、リリアムはうっすら覚醒する。
「リリアム、用を足してから寝ろ」
「……あい」
にへらとゆるんだ笑みで、焦点も合わずにグリアを見上げるリリアムがどうしようもなく得難いもののような気がして、グリアは抱きしめて、額に唇を押し当てた。
グリアはニコラや他の隊長たちと卓を囲み、ほどほどの酒を楽しんでいた。このテーブルには人数分の酒瓶しか置かれていない。
指揮する者を泥酔させない配慮だが、不満は多い。必ず酒が足りないという話題でひとしきり盛り上がる。
グリアも一本だけなら度数の高いものを置けと、隣に座ったニコラと愚痴を言い合ったところだ。
離れた席から歓声があがる。
この席と違って一般の騎士たちは浴びるように酒を飲んでいる。
例年と違うのは、男たちの声に混じって、やけに機嫌の良いリリアムの甲高い声が聞こえるところだ。
リリアムは警邏隊の騎士や見習い訓練を受けている者たちと酒を酌み交わしている。
警邏隊の一人がリリアムの肩をバンバン叩きながら、大笑いして椅子から転げ落ちた。リリアムが父、ウィリアム・ガーウィンの真似をしたからだ。
若手は笑うが、うっかりそれを見てしまった騎士の中には鬼教官の特訓を思い出して、口を押さえながら手洗いに駆け込んでいく者もいる。
教官の真似はやめて、今度は任務の時のように令嬢らしくふるまってくれと請われ、それならばと、椅子の上にあがって敬礼する。
「リリアム・ガーウィン、深窓の令嬢をやりますっ!」
乾杯の音頭をとって、全員がテーブルから酒器を持ち上げると、リリアムはテーブルにかけられていた白い布を引き抜いて腰に巻く。
キツく結い上げられていた髪を解き、くるりと回って見せれば、即席の令嬢ができあがった。
「おおー!!」
リリアムが控えめに笑みを浮かべると、歓声が上がった。
今度はゆっくりとつまみが用意されている席に着くと、今まで手づかみで食べていた骨付き肉を、フォークとナイフで優雅に切り分けて口に運ぶ。
無骨な酒杯から繊細なグラスに持ち替えて、一口づつ酒を赤い唇に含むと、周りからため息が漏れる。
「何かの芸にしか見えないな」
「最初見た時は、あまりの落差に吐き気がしたよな」
「媚薬の潜入の時は、本当に暴漢に連れて行かれたと思って焦ったものだ」
周りの者たちは口々にリリアムの淑女ぶりを宴会芸として褒め称える。
「ガーウィン、俺、今度こそ浮気な彼女と別れるつもりなんだ。練習させてくれよ」
酔った栗毛の隊員が、リリアムの肩を抱き、呂律も回らない様子で次の余興を申し込む。
リリアムは気前よく頷くと、器用なことに、さめざめと泣き真似を始めた。
「私……モーフィアスがいつも忙しくしているから、ただ寂しかっただけですのに……」
モーフィアスと呼ばれた騎士は、自分の目をこすりながら、後退り、リリアムから距離を置く。
「ぐ……俺の彼女より可愛い反応。やめろ、ガーウィン、気が狂う。これはガーウィン教官の娘、ガーウィン教官の娘……」
モーフィアスは魔除けの呪文を唱えて、幻想をふりきろうとする。
「うちのクソ親父なんか、恐るるに足りません! 今日は出かけに髭をむしってやりました!」
スカートにしていたテーブルクロスを、今度はマントのように肩に掛け直し、どすりと胡坐をかいてテーブルに座り直す。
ぐびぐびと酒を飲み干して、髭をむしる動きをして見せると拍手が起きる。
「おー! いいぞ! もっとやれー」
「ガーウィン、もっと飲め!」
調子に乗ったリリアムが杯を干せば、また歓声が上がる。
「――なんだあれは」
グリアはつまみの付け合わせ野菜をちまちまと齧りながら、リリアムの周りで上がる歓声に眉を顰める。
ニコラは若手の馬鹿騒ぎよりも、帰る時間を気にしている。この場にいない妻のことを心配しているのだろう。長年、宴会など不要だと主張してきたが、ニコラの主張は未だに他の騎士から受け入れられずにいる。
「あんなのは、いつものガーウィンの悪ふざけだ。外に出るといつもああなのだ」
グリアとニコラは、もう飲める分は飲んでしまって、他の卓より少し豪華な軽食をつまんでいる。ニコラは妻に持ち帰るつもりなのか、酒にはあまり合わなかった甘い菓子を厨房に頼んで包んでもらう手配をしている。
宴会は終盤で、床に座り込んだり、卓に突っ伏している者もいる。
「グリア、おまえ本当にアレをグッドヘン家に引き入れるつもりか? 今までの女も最悪だったが、ガーウィンはそれよりも最悪だ」
ニコラは少し酔ったようで、いつもより良く喋る。
「その覚悟があると言っていた」
「覚悟の在る無しではない。身を固めるにしても、わざわざガーウィンを選ばなくてもいいだろう?」
ニコラは、見た目よりずっと情に流されやすいグリアを心配していた。
子どもの頃、騙されて連れていかれたオルカの別宅から、逃げ帰った時、ニコラが説教してもガロンの無実を信じていたくらいだ。
「リリアムは丈夫だ。多少のことでは壊れはしまい」
「伴侶に選ぶなら、丈夫さよりもっと大切なものがあるだろう! 私は、グリアにも本当の恋を味わって結婚相手を決めて欲しかったのだ! 騎士として自分の一生を捧げる者があれでいいのか? ミアを襲うような野獣だぞ! けしからん!」
管を巻き始めたニコラは常よりも愚痴っぽくなる。
グリアは見た目よりうんと酒に弱いニコラのグラスに、果汁を注いでやる。
「俺はお前のように変な性癖を仕事に求めていない。ニコラ、この程度で酔ったのか?」
「この間、賊の陰毛を剃り落とした件が騎士の倫理に反すると問題になっている! 指揮していた私の責任だと――そんなはずがあるか! あんな女、私が許さん! ガーウィンの周りに集まっている奴も懲罰だ! 規律が乱れる!」
「酒の席で何を言っているんだ。今日はまだ一度もガーウィンから隊員に触れてはいない。風紀を乱しているとはいえない」
「擁護するのか?!」
「ガーウィンはよくやっているさ……」
ニコラの愚痴はまだ続きそうだったが、テーブルの上にひっくり返っているリリアムをみつけてグリアは立ち上がる。
ベロベロに酔って介抱されているリリアムの周りに人が集まって、馬車を呼ぶかどうか思案している。
海老のように丸まって、さっきのテーブルクロスをかぶったリリアムは、大いびきをかいている。さっきの可憐さは微塵もない。
「酔いつぶれたので部で預かると、誰かガーウィン家に連絡してくれ。この状態で馬車に乗せて吐いたら最悪だ」
見かねてグリアが指示を出すと、後ろの方から若い騎士が声を上げる。
「グッドヘン部長、もしや振興部の部室に転がしておくのですか? 差し出がましいようですが、女性にそんな扱いは……」
警邏隊の若手は、酒の勢いか、グリアの決定に異論を唱える。
リリアムが娼館に連れ出したうちの一人だ。
「部室が駄目なら、俺の部屋に置けばいいな」
「ガーウィン家の令嬢をですか?」
いつもなら誰も触れないようなことを言い出したのは騎馬隊の一人だ。
貴人警護の際にリリアムと組んだ事がある。グリアは記憶から騎士たちの名前と経歴を呼び起こして、頭の中の別の書類入れに移動させる。
「俺の部下だ。問題ない。ガーウィンが酔って暴れてもどうにでもなる」
騎馬隊の騎士が一歩前に進み出てグリアを見上げる。それなりに気概のある表情だ。
「グッドヘン部長、私は騎馬隊のロックフォール・ゴーダです。私の部屋に泊めます。私が調子にのって飲ませ過ぎてしまったようで」
「いや、心配には及ばない。これを担いだら重くて腰をやるぞ」
そう言ったくせにグリアはリリアムを軽々と持ち上げて、穀物の入った麻袋のように担ぐ。
「ガーウィン、俺の背に吐くなよ」
「先輩、私まだ飲めます……うぐっ……」
リリアムは、グリアに呼ばれて反射的に目を開けたものの、酩酊感で視界が回って慌てて目を閉じる。
ゴーダ騎士はグリアに負けないようにと上背を張り、ぐっとグリアを睨みつける。
「恐れながらグッドヘン部長、苦言を申し上げるようですが、技術振興部はガーウィン騎士の扱いが荒いのではないでしょうか。気絶するほどの訓練や、危険な実験にも参加させているようですが。警邏隊にいた時より過酷におもえます。女性騎士に対する扱いとして、正しいとは思えません」
誠実そうなゴーダ騎士は、極めて騎士らしいことを言った。しかし、グリアはそれを一蹴する。
「リリアム・ガーウィンは女性である前に騎士だ。女性として扱われるより騎士として扱われる事を選ぶ。心配は無用だ」
「ですが……」
グリアは感情のない目で騎士を見下ろす。褐色の意志の強そうな瞳がグリアを見返している。
ゴーダ家もまた騎士の家系だ、ガーウィン家との釣り合いも申し分ない。誠実そうで本質を見抜く力も、権力を前に尻込みすることも無い。良い騎士だ。
グリアは頭の中でさっき仕分けしたゴーダ騎士の書類を再び取り出し、また別の書類入れに収める。目立つように赤く色付けされたものだ。
「本人がそう言ったのか?」
「……いえ。私の推測ですが」
「なら、憶測でモノを言わない方がいい。そんなに心配だと言うなら、試しにガーウィンを女性として扱ってみるといい。切り捨てられる覚悟があるならな」
騎士は気勢を殺《そ》がれたようになって、押し黙った。
グリアは、コーダ騎士の、リリアムの行動の予測がつくらしいところも気に入らないなと思った。
重くなってきたリリアムを軽く揺すって背負いなおす。
「せんぱ……でちゃう……」
「……ガーウィンを吐かせてくる」
寮に足を向けるグリアに、それを代わると言い出すものはいなかった。
リリアムの我慢できる時間を考えながら、速足に自室に向かう。
「全く、のみすぎだ……」
寮の部屋に着くと、リリアムを手洗いに押し込み、吐き終わるのを待つ。
一通り吐き終わって、口を漱いで、一息つく間もなくリリアムは眠り込んだ。
グリアは、寝て重くなったリリアムを、ベッドの上に大事そうに横たえる。
騎士服を脱がして、胸当ても取り去って、下着姿になった部下をグリアはしばらく眺めてみた。
「女性として扱ったところで、こいつは大して変わらないわけだがな」
リリアムを女性として扱ったとして、その場では尻尾を振って喜ぶかもしれないが、次の瞬間には騎士に戻っている。何度令嬢としてふるまうリリアムを見ても、騎士のリリアムの方が好ましいと思ってしまう。
危機感もなく大の字になっているリリアムに覆いかぶさると、残った下着も剝いでいく。
柔らかな綿の紐を解けば、見慣れた乳房があらわれる。
「しかし、目敏い奴がいたな……」
グリアはさっきのゴーダ騎士の身長を考えて、騎士服の詰襟からギリギリ見える角度にきつく吸い付く。独占欲が満たされたグリアは、調子付いて、そのまま至る所に口付ける。
リリアムが起きないのをいいことに、乳房を捏ねたり舐めたり好きにする。
下半身をまさぐれば、しっかり濡れていた。
「お前、まさか起きているんじゃないだろうな」
一度手桶を取りに行って、湯で体をふいてやった後、医者のような顔をしながら蜜口に指を挿しいれてみる。
いつもより緩やかな締め付けを感じながら、中を探れば蜜が増した。
「あっ……んんっ、せんぱ……いい……」
起きたのかと思って返事をしたら、すっかり寝入っている。
寝言で呼ばれたのが自分であったことで、グリアの機嫌は上向いた。
「膀胱がいっぱいだな」
用を足しに手洗いに連れていき、便器に跨らせると、リリアムはうっすら覚醒する。
「リリアム、用を足してから寝ろ」
「……あい」
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