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おじさんのフェアリーテイルに結末を
しおりを挟むすっかり冷え切った体をニーナに叱られながら風呂で温められ、料理長にたらふく夕食をつめこまれた。トムさんにも心配させたことを謝ったけれど、あたたかい飲み物が出てきただけだった。
帰ってこられて本当に良かった。
その夜、おじさんの部屋へ向かう。
ちゃんと招かれておじさんの寝室に入るのは初めてだ。
普通の寝間着を着て、人目を気にしながら枕だけ持っておじさんの寝室に入る。
待っていたおじさんは困った表情をしているが、あれは照れている顔なのだ。
「入っていいのよね?」
覚悟したようにおじさんは腕を広げて私を抱きこむ。
今までのような私に任せたハグではない。
きつく情熱的に抱きしめられて、頭が破裂しそう。
ベッドに腰かけて、うっとりとおじさんにもたれかかる。
肩を抱いたおじさんは、いつもとは違い、遠慮なく私の髪に指を絡めて地肌を撫でる。
「……お前をうちに置いたのは、俺のためだった。子供の頃に満たされなかったものをお前を幸せにする事で取り戻す予定だったんだ。しかし、それは俺が劣情に負けてお前の人生を狂わせる事じゃない。ちゃんと、お前のめでたしめでたしを見届けるつもりだった」
おじさんは言い訳するように私の望まない未来について語る。
「おじさんも子どもの頃、私みたいな境遇だったの? そういえば、ハーヴィおじいちゃんが、私とおじさんは似てるって言ってた」
「そうかもな。あの孤児院は爺さんが建てたものだ。俺はあそこで育った」
「そうなのね」
おじさんはあの孤児院にずっと寄付を続けている。その気持ちはよくわかる。
「誰でもよかったわけじゃない。俺がお前を孤児院にやらなかったのは、お前が俺と重なったからだ。俺は、お前を幸せにする事で救われていた」
おじさんは小さな声で続ける。今まで触れられなかった、弱い柔らかな部分に触れさせてもらっているようでうれしい。
「私が幸せになる事でおじさんが幸せになるのだったら、『哀れ、エマは大好きなおじさんや家の者から離され、知らない家に嫁いで行かなければなりませんでした。幸せな時間は終わりを告げたのです』っていう結末を書き換えないとね」
「そんな風に思っていたのか? それで、お前はどんな結末が望みなんだ?」
「ラース少年を救えても、エマの淫らな誘惑に負けてエマに心が傾きかけている今のおじさんが救われないんじゃ、救済の意味が無いじゃない」
「おまえな……あんな誘惑、負けるに決まってる」
良かった。おじさんは思ったよりも体の誘惑に負ける質だったようだ。
「じゃぁ、『ラースは、エマともっと長く一緒にいたくなりました』。この話の流れは間違っている?」
「いいや」
「それじゃ、『ラースはエマの全てを奪ったらエマとこれから先も一緒に暮らせるのにと思いました』だったら? そう思ったことはある?」
それには顔をしかめて私の鼻をつまむ。
「そんなのダメだろ。強姦の末に夫婦になるなんて俺にとってはバッドエンドだ」
真面目なおじさんらしい答えだ。勢いで既成事実を作るのは無理なようね。
「じゃぁ『エマはラースと身も心も分けあって、家族になるのを望んでいました』このエマは幸せになれる?」
おじさんの顔を覗き込めば、照れたような笑いが浮かぶ。そうして、優しく抱擁をされる。
このハグは苦しくて甘い。
「俺はお前の欲深さが好きだよ。俺がやれるものは何でも奪っていくがいいさ」
「じゃあね、『ラースはエマの誘惑に耐えきれずにエマの全てを奪い尽くしました。抱いてみたらなかなか良い抱き心地です。枕にするにはいいかなと、エマをずっとそばにおくことにしました』って流れが理想なんだけど」
「お前の物語はいちいち物騒なんだよ。その話は大人しくキスだけで終わったりしないのか?」
「『家族になって、子沢山で長生きしました』まで続くわ」
そりゃあいいと、笑って頬にキスをされる。
「じゃぁ、子どもの俺だけじゃなくて、おじさんなラースも救ってくれないか? 助けようとした娘を自分でめちゃめちゃにする糞野郎にも救いはあるのか?」
「この話、シーン的に次は濡場だけど、それでもいい? このエマは一刻も早くおじさんを襲って既成事実を作ってしまいたいの」
「……お前、一体どんな本を読んでるんだ?」
あまりマリーとの交流の話をすると、有害だと警戒されるかもしれないので、ごまかそうと思う。
「ほら、はやく! 次は『ラースはエマを抱き上げて、寝台へ横たえました』よ」
「わかったわかった。その前にキスシーンだ」
「あの、『恋人のキスをたっぷり』で」
おじさんのナイトガウンの袂を引いて強請ってみれば、今までの堅物おじさんを脱ぎ去った、雄のラース・ニルセンが顔を出す。
「多少淫らに、でいいんだろ?」
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