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おじさんへの恋心が終わる
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「おじさんの妻になるだなんて無理な事を言って困らせてごめん。私、明日にはこの家を出ます。それから、年末にどこかで子種をもらって、どこかで子どもを産んで、そしたら出戻っておじさんに泣きついてやるわ!」
「はぁ?!」
「おじさん、子どもには甘いから、哀れな私と子どもを追い出したりしないわよね」
「おかしなことばかりいうな。ちょっと待て、そんな自暴自棄なことをしなくても……」
「わたし、本当に誰かと結婚するのは嫌なの」
「それはわかった。お前の意志を軽んじていた、悪かった――だからって、どうしたらどこの馬の骨ともわからない奴に子種を貰うなんて話になるんだ。お前はいつもやることが突飛すぎるんだ」
「私、ここに居残る方法をいろいろ考えてみたのよ。確実に一つ成功しそうなのがあってね。
哀れな女が乳飲み子を抱いてここに転がり込むの。おじさんはそういう可哀想な身の上の者に助けを求められたら誰にだって手を差し伸べてしまうじゃない? 私を拾ったのだって、私がとびきり可哀想に見えたからだわ」
「そんなわけあるか。俺はお前を施設にやることだってできた。俺がお前をここに置いたのはお前が……」
「私が特別なわけじゃない。おじさんが孤児に物凄く弱いのを知ってるのよ。
孤児院を建てたり寄付をしたりするのだって、何かの埋め合わせをしているみたい」
「それは、そうだ。だからって、これ以上俺やお前の様な境遇の子を増やすな」
「また説教? おじさんこそ、子どもの世話をしたいなら、普通に結婚したらよかったじゃない。孤児院の子や私を当てにしないで、自分で早めに結婚して、自分の子どもを育てていればこんなことにはならなかったのよ! それじゃなくても、養子をとればよかったんじゃない? おじさんの子どもになりたい子は私じゃなくてもたくさんいるわ」
「そうじゃない……」
おじさんは悲しい顔をした。
「おじさんに家族がいれば、こんな私に離れがたくなるほどの幸福を与えて、それを取り上げるなんて残酷な事をしなかった」
「エマ……」
「消えてしまう幻なら、あの時、本当に川に身を投げてしまえばよかった!」
私の思い以上に私の口はよく回る。こんなことを言いたいのではないのに。
おじさんを困らせることばかりが口を衝いて出る。
「お前は勘違いしている。まず、お前がどこに嫁に行ったとしても、俺との繋がりは切れるわけじゃない。俺は、嫁いだ家に頻繁に顔を出して、お前の行く末を見守るつもりだった。
なんだったら、いずれお前の子を孫の様に猫可愛がりするのが夢だった。お前の産んだ子ならさぞや愛らしいことだろうと思ってな」
「だから、そうしてやるって言ってるのよ」
「はぁ、思いなおせ。今までの事は俺が一方的過ぎた。もう一度お前がどうしたいのかちゃんと聞くから」
おじさんは私を抱き寄せて、背を撫でる。
「機嫌を取ろうとしないで! 捨てる前に優しくされたって、こっちが辛くなるだけなんだから。もういいわよ、お望み通りどんな奴にだって嫁いでやるわよ。おじさんの馬鹿っ!!」
私はおじさんの手を払いのけて家を飛び出した。
途中、庭師のワグナーが庭の落ち葉を掃いていた。
「エマ、どこへ行くんだ? なんだ、またべそかいて」
「おじさんと喧嘩したから散歩してくる! 肥料屋の横も通るから堆肥の注文をしておくわ。料理長には夕飯までには帰るっていっておいて。今日はデザートにキャロットケーキがあるんですって」
おじさんとはこうやって何度も喧嘩をした。だいたいいつも悪いのは私だ。
叱られて、へそを曲げて、飛び出して、それでも夕食までには帰って来る。
幸福なことに、今までそんな我儘が許されていたのだ。
「わかった。旦那様には思い詰めた顔をして橋の方へ行ったって伝えておくよ」
「……別に追いかけて欲しいわけじゃないからいいの。ちょっとカッとしたから頭を冷やしてくるだけよ」
「わかっているよ。エマは本当に昔から旦那様が大好きなんだな。心配ないさ。旦那様の様子を見るところ、もう一押しってところさ」
それには答えずに手を振って川の方へ向かう。今回も聞き分けが無いのは私の方だ。
あれだけごね倒してもだめだったのだ。いっそあきらめがついた。
「追いかけてきてもらっても……もう手遅れなのよ」
決まってしまったものは仕方がない。これ以上おじさんの顔を潰すわけにはいかない。
本当は最初からわかっていた。
私は嫁いでもおじさんの力になれる。いつも一緒にいなくても、私が嫁ぎ先の妻として社交界で華やかに振る舞って、仕事でもっと成功して、おじさんの立派な娘だと世間に知らしめることこそがおじさんの支えになると。
ただ、もっと側にいたかった。
――帰ったら縁談を受け入れるとおじさんに告げよう。
鼻の奥が痛い。
嵐のような初恋は終わる。
「はぁ?!」
「おじさん、子どもには甘いから、哀れな私と子どもを追い出したりしないわよね」
「おかしなことばかりいうな。ちょっと待て、そんな自暴自棄なことをしなくても……」
「わたし、本当に誰かと結婚するのは嫌なの」
「それはわかった。お前の意志を軽んじていた、悪かった――だからって、どうしたらどこの馬の骨ともわからない奴に子種を貰うなんて話になるんだ。お前はいつもやることが突飛すぎるんだ」
「私、ここに居残る方法をいろいろ考えてみたのよ。確実に一つ成功しそうなのがあってね。
哀れな女が乳飲み子を抱いてここに転がり込むの。おじさんはそういう可哀想な身の上の者に助けを求められたら誰にだって手を差し伸べてしまうじゃない? 私を拾ったのだって、私がとびきり可哀想に見えたからだわ」
「そんなわけあるか。俺はお前を施設にやることだってできた。俺がお前をここに置いたのはお前が……」
「私が特別なわけじゃない。おじさんが孤児に物凄く弱いのを知ってるのよ。
孤児院を建てたり寄付をしたりするのだって、何かの埋め合わせをしているみたい」
「それは、そうだ。だからって、これ以上俺やお前の様な境遇の子を増やすな」
「また説教? おじさんこそ、子どもの世話をしたいなら、普通に結婚したらよかったじゃない。孤児院の子や私を当てにしないで、自分で早めに結婚して、自分の子どもを育てていればこんなことにはならなかったのよ! それじゃなくても、養子をとればよかったんじゃない? おじさんの子どもになりたい子は私じゃなくてもたくさんいるわ」
「そうじゃない……」
おじさんは悲しい顔をした。
「おじさんに家族がいれば、こんな私に離れがたくなるほどの幸福を与えて、それを取り上げるなんて残酷な事をしなかった」
「エマ……」
「消えてしまう幻なら、あの時、本当に川に身を投げてしまえばよかった!」
私の思い以上に私の口はよく回る。こんなことを言いたいのではないのに。
おじさんを困らせることばかりが口を衝いて出る。
「お前は勘違いしている。まず、お前がどこに嫁に行ったとしても、俺との繋がりは切れるわけじゃない。俺は、嫁いだ家に頻繁に顔を出して、お前の行く末を見守るつもりだった。
なんだったら、いずれお前の子を孫の様に猫可愛がりするのが夢だった。お前の産んだ子ならさぞや愛らしいことだろうと思ってな」
「だから、そうしてやるって言ってるのよ」
「はぁ、思いなおせ。今までの事は俺が一方的過ぎた。もう一度お前がどうしたいのかちゃんと聞くから」
おじさんは私を抱き寄せて、背を撫でる。
「機嫌を取ろうとしないで! 捨てる前に優しくされたって、こっちが辛くなるだけなんだから。もういいわよ、お望み通りどんな奴にだって嫁いでやるわよ。おじさんの馬鹿っ!!」
私はおじさんの手を払いのけて家を飛び出した。
途中、庭師のワグナーが庭の落ち葉を掃いていた。
「エマ、どこへ行くんだ? なんだ、またべそかいて」
「おじさんと喧嘩したから散歩してくる! 肥料屋の横も通るから堆肥の注文をしておくわ。料理長には夕飯までには帰るっていっておいて。今日はデザートにキャロットケーキがあるんですって」
おじさんとはこうやって何度も喧嘩をした。だいたいいつも悪いのは私だ。
叱られて、へそを曲げて、飛び出して、それでも夕食までには帰って来る。
幸福なことに、今までそんな我儘が許されていたのだ。
「わかった。旦那様には思い詰めた顔をして橋の方へ行ったって伝えておくよ」
「……別に追いかけて欲しいわけじゃないからいいの。ちょっとカッとしたから頭を冷やしてくるだけよ」
「わかっているよ。エマは本当に昔から旦那様が大好きなんだな。心配ないさ。旦那様の様子を見るところ、もう一押しってところさ」
それには答えずに手を振って川の方へ向かう。今回も聞き分けが無いのは私の方だ。
あれだけごね倒してもだめだったのだ。いっそあきらめがついた。
「追いかけてきてもらっても……もう手遅れなのよ」
決まってしまったものは仕方がない。これ以上おじさんの顔を潰すわけにはいかない。
本当は最初からわかっていた。
私は嫁いでもおじさんの力になれる。いつも一緒にいなくても、私が嫁ぎ先の妻として社交界で華やかに振る舞って、仕事でもっと成功して、おじさんの立派な娘だと世間に知らしめることこそがおじさんの支えになると。
ただ、もっと側にいたかった。
――帰ったら縁談を受け入れるとおじさんに告げよう。
鼻の奥が痛い。
嵐のような初恋は終わる。
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