上 下
15 / 23

おじさんへの恋心が終わる

しおりを挟む
「おじさんの妻になるだなんて無理な事を言って困らせてごめん。私、明日にはこの家を出ます。それから、年末にどこかで子種をもらって、どこかで子どもを産んで、そしたら出戻っておじさんに泣きついてやるわ!」
「はぁ?!」
「おじさん、子どもには甘いから、哀れな私と子どもを追い出したりしないわよね」
「おかしなことばかりいうな。ちょっと待て、そんな自暴自棄なことをしなくても……」
「わたし、本当に誰かと結婚するのは嫌なの」
「それはわかった。お前の意志を軽んじていた、悪かった――だからって、どうしたらどこの馬の骨ともわからない奴に子種を貰うなんて話になるんだ。お前はいつもやることが突飛すぎるんだ」

「私、ここに居残る方法をいろいろ考えてみたのよ。確実に一つ成功しそうなのがあってね。
 哀れな女が乳飲み子を抱いてここに転がり込むの。おじさんはそういう可哀想な身の上の者に助けを求められたら誰にだって手を差し伸べてしまうじゃない? 私を拾ったのだって、私がとびきり可哀想に見えたからだわ」
「そんなわけあるか。俺はお前を施設にやることだってできた。俺がお前をここに置いたのはお前が……」
「私が特別なわけじゃない。おじさんが孤児に物凄く弱いのを知ってるのよ。
 孤児院を建てたり寄付をしたりするのだって、何かの埋め合わせをしているみたい」
「それは、そうだ。だからって、これ以上俺やお前の様な境遇の子を増やすな」
「また説教? おじさんこそ、子どもの世話をしたいなら、普通に結婚したらよかったじゃない。孤児院の子や私を当てにしないで、自分で早めに結婚して、自分の子どもを育てていればこんなことにはならなかったのよ! それじゃなくても、養子をとればよかったんじゃない? おじさんの子どもになりたい子は私じゃなくてもたくさんいるわ」
「そうじゃない……」
 おじさんは悲しい顔をした。
「おじさんに家族がいれば、こんな私に離れがたくなるほどの幸福を与えて、それを取り上げるなんて残酷な事をしなかった」
「エマ……」
「消えてしまう幻なら、あの時、本当に川に身を投げてしまえばよかった!」
 私の思い以上に私の口はよく回る。こんなことを言いたいのではないのに。
 おじさんを困らせることばかりが口を衝いて出る。

「お前は勘違いしている。まず、お前がどこに嫁に行ったとしても、俺との繋がりは切れるわけじゃない。俺は、嫁いだ家に頻繁に顔を出して、お前の行く末を見守るつもりだった。
なんだったら、いずれお前の子を孫の様に猫可愛がりするのが夢だった。お前の産んだ子ならさぞや愛らしいことだろうと思ってな」
「だから、そうしてやるって言ってるのよ」
「はぁ、思いなおせ。今までの事は俺が一方的過ぎた。もう一度お前がどうしたいのかちゃんと聞くから」
 おじさんは私を抱き寄せて、背を撫でる。
「機嫌を取ろうとしないで! 捨てる前に優しくされたって、こっちが辛くなるだけなんだから。もういいわよ、お望み通りどんな奴にだって嫁いでやるわよ。おじさんの馬鹿っ!!」

 私はおじさんの手を払いのけて家を飛び出した。
 途中、庭師のワグナーが庭の落ち葉を掃いていた。
「エマ、どこへ行くんだ? なんだ、またべそかいて」
「おじさんと喧嘩したから散歩してくる! 肥料屋の横も通るから堆肥の注文をしておくわ。料理長には夕飯までには帰るっていっておいて。今日はデザートにキャロットケーキがあるんですって」
 
 おじさんとはこうやって何度も喧嘩をした。だいたいいつも悪いのは私だ。
 叱られて、へそを曲げて、飛び出して、それでも夕食までには帰って来る。
 幸福なことに、今までそんな我儘が許されていたのだ。
「わかった。旦那様には思い詰めた顔をして橋の方へ行ったって伝えておくよ」
「……別に追いかけて欲しいわけじゃないからいいの。ちょっとカッとしたから頭を冷やしてくるだけよ」
「わかっているよ。エマは本当に昔から旦那様が大好きなんだな。心配ないさ。旦那様の様子を見るところ、もう一押しってところさ」
 それには答えずに手を振って川の方へ向かう。今回も聞き分けが無いのは私の方だ。
 あれだけごね倒してもだめだったのだ。いっそあきらめがついた。
「追いかけてきてもらっても……もう手遅れなのよ」
 決まってしまったものは仕方がない。これ以上おじさんの顔を潰すわけにはいかない。
 
 本当は最初からわかっていた。
 私は嫁いでもおじさんの力になれる。いつも一緒にいなくても、私が嫁ぎ先の妻として社交界で華やかに振る舞って、仕事でもっと成功して、おじさんの立派な娘だと世間に知らしめることこそがおじさんの支えになると。
 ただ、もっと側にいたかった。
 
 ――帰ったら縁談を受け入れるとおじさんに告げよう。

 鼻の奥が痛い。
 嵐のような初恋は終わる。
 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

異世界の学園で愛され姫として王子たちから(性的に)溺愛されました

空廻ロジカ
恋愛
「あぁ、イケメンたちに愛されて、蕩けるようなエッチがしたいよぉ……っ!」 ――櫟《いちい》亜莉紗《ありさ》・18歳。TL《ティーンズラブ》コミックを愛好する彼女が好むのは、逆ハーレムと言われるジャンル。 今夜もTLコミックを読んではひとりエッチに励んでいた亜莉紗がイッた、その瞬間。窓の外で流星群が降り注ぎ、視界が真っ白に染まって…… 気が付いたらイケメン王子と裸で同衾してるって、どういうこと? さらに三人のタイプの違うイケメンが現れて、亜莉紗を「姫」と呼び、愛を捧げてきて……!?

恋人の水着は想像以上に刺激的だった

ヘロディア
恋愛
プールにデートに行くことになった主人公と恋人。 恋人の水着が刺激的すぎた主人公は…

色々と疲れた乙女は最強の騎士様の甘い攻撃に陥落しました

灰兎
恋愛
「ルイーズ、もう少し脚を開けますか?」優しく聞いてくれるマチアスは、多分、もう待ちきれないのを必死に我慢してくれている。 恋愛経験も無いままに婚約破棄まで経験して、色々と疲れているお年頃の女の子、ルイーズ。優秀で容姿端麗なのに恋愛初心者のルイーズ相手には四苦八苦、でもやっぱり最後には絶対無敵の最強だった騎士、マチアス。二人の両片思いは色んな意味でもう我慢出来なくなった騎士様によってぶち壊されました。めでたしめでたし。

【R18】国王陛下はずっとご執心です〜我慢して何も得られないのなら、どんな手を使ってでも愛する人を手に入れよう〜

まさかの
恋愛
濃厚な甘々えっちシーンばかりですので閲覧注意してください! 題名の☆マークがえっちシーンありです。 王位を内乱勝ち取った国王ジルダールは護衛騎士のクラリスのことを愛していた。 しかし彼女はその気持ちに気付きながらも、自分にはその資格が無いとジルダールの愛を拒み続ける。 肌を重ねても去ってしまう彼女の居ない日々を過ごしていたが、実の兄のクーデターによって命の危険に晒される。 彼はやっと理解した。 我慢した先に何もないことを。 ジルダールは彼女の愛を手に入れるために我慢しないことにした。 小説家になろう、アルファポリスで投稿しています。

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

極上の一夜で懐妊したらエリートパイロットの溺愛新婚生活がはじまりました

白妙スイ@書籍&電子書籍発刊!
恋愛
早瀬 果歩はごく普通のOL。 あるとき、元カレに酷く振られて、1人でハワイへ傷心旅行をすることに。 そこで逢見 翔というパイロットと知り合った。 翔は果歩に素敵な時間をくれて、やがて2人は一夜を過ごす。 しかし翌朝、翔は果歩の前から消えてしまって……。 ********** ●早瀬 果歩(はやせ かほ) 25歳、OL 元カレに酷く振られた傷心旅行先のハワイで、翔と運命的に出会う。 ●逢見 翔(おうみ しょう) 28歳、パイロット 世界を飛び回るエリートパイロット。 ハワイへのフライト後、果歩と出会い、一夜を過ごすがその後、消えてしまう。 翌朝いなくなってしまったことには、なにか理由があるようで……? ●航(わたる) 1歳半 果歩と翔の息子。飛行機が好き。 ※表記年齢は初登場です ********** webコンテンツ大賞【恋愛小説大賞】にエントリー中です! 完結しました!

若妻シリーズ

笹椰かな
恋愛
とある事情により中年男性・飛龍(ひりゅう)の妻となった18歳の愛実(めぐみ)。 気の進まない結婚だったが、優しく接してくれる夫に愛実の気持ちは傾いていく。これはそんな二人の夜(または昼)の営みの話。 乳首責め/クリ責め/潮吹き ※表紙の作成/かんたん表紙メーカー様 ※使用画像/SplitShire様

【R18】幼馴染な陛下と、甘々な毎日になりました💕

月極まろん
恋愛
 幼なじみの陛下に、気持ちだけでも伝えたくて。いい思い出にしたくて告白したのに、執務室のソファに座らせられて、なぜかこんなえっちな日々になりました。

処理中です...