マッチ売りの限界を感じて廃業しようとしていたらボヤを出しておじさんに説教された少女

砂山一座

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おじさんを誘惑する

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「ねぇ、おじさん。それって、万が一、誰かが誘惑に成功したらその人と結婚するってこと?」
「ああ、そのつもりだ。公言しているし、責任はとる。気持ちが動いたらその時はその時だ」
「それって相手は誰でもいいの?」
「誰でもいいことにしてあるから、ああやってよくわからないやからがやってくる」
 緊張でごくりと喉が鳴る。
「――私でも?」
 私はそれを口にしながら、私がどうしたかったのか悟った。
 ワインのせいなのか、やけに大きな音でどくりと心臓が脈打つ。
 ここに残れるかもしれない。ここに残りたい。

 あわよくば一番おじさんに近い所で。

「何を言っているんだ。さては、つまらないことを考えているな? やめておけ、お前は単に住み慣れたここから離れるのが嫌なだけだ」
 それはある。
 でも、一瞬でそれだけではなかったのがわかってしまった。
 あまり幸福が手に入らない境遇で育ってきたので、望み薄な事を考えるのは苦手だった。
 望んだところで絵に描いた菓子は私の腹を満たさないから。
 絵に描くこともしなかったご馳走が、マッチを擦った時の炎のようにいきなり目の前にあらわれたのだ。

「わ、分からないじゃない? だ、抱いてみたら気持ちが変わるかもよ? どこの誰だかわからない人にチャンスをやって、五年も懐に入れた私にチャンスがないのはおかしいわ」
 おじさんはまだ、私では無理だ、可能性が無い、とは言っていない。
 商人であるおじさんは、本当に無理ならそうとわかる言い方をする。

「はぁ……今まで来ていた者たちよりも、お前の方が分が悪いのが分からないか?
 俺はお前を子どもだと思って生活してきたんだぞ」
 きっと望みはある。
 ハグをやめさせようとしていたし、最近はめったにおやすみのキスもしなくなった。少しは子どもではないと思っているに違いないのだ。
「もう十八よ!」
「ちゃんと結婚相手を探してやるから、おかしなことを始めるんじゃない」
「いいえ、出来るわ。私だってマッチを売っていたのよ。他の子たちはもっと違うものも売っていた。どうやって客を誘惑するかぐらい見てたわ」
「馬鹿なことを。そうならないで済むように勉強もさせたし、どこの家に嫁に行ってもいいようにマナーの教師もつけたんだ」
 おじさんは私の幸せはどこか裕福な所に嫁ぐことだと決めつけている。
 私が本気だと分からせなければ、仕事の速いおじさんのことだ、数週間のうちに嫁ぎ先が決められてしまうだろう。
「見てなさい! 吠え面かかせてやるわ。……ええと、なんだっけ……服をはだけて……」
 私はえいやっと上着を脱ぎ捨てる。
「そんな思い付きだけの奴に誘惑されるわけがあるか、馬鹿め」
 おじさんは腕を組んで私を見下ろしている。
 何事にも心を動かされないような態度だが、その実、視線が泳いでいる。
 長く伸びた髪を解いて、首元を寛がせて、胸のふくらみをはだけさせる。
 何を食べたのが良かったのか、胸だけは良く育った。おじさんは胸を強調するような服は絶対に作ってくれなかったから持ち腐れだったけれど、私が娼婦になったらなかなかの武器になるに違いない。
 勢いで下穿きも脱いでしまう。
「ちょっ……」
やはりちらちらと見えていたのか、慌てて両手をこちらに向けて、やめさせようとしてくる。
「それで、膝を立てて、中を……」
 ソファに背中から飛び込んで、足を左右に割って、ドレスのすそを一気に引き上げる。
「まて、まてといっ……」
 今まで隠してあったところにひやりと外気が触れるのを感じた。
「ええと、何だったかしら?『旦那様、お情けをいただいても?』」
 なるべく媚びを含んだ上目遣いでおじさんに訴えかける。
 おじさんは仰天して真っ白になった。
 そのまま私の秘部を凝視していたのに気がつき、慌てて顔を背けたが、大事な所はすっかり見えてしまったはずだ。
「――っおまえ、どこでそんなことを?!
 今まで誘惑にやってきた奴らでも、そんなはしたない誘い方はしなかったからな!」
 顔を背けたまま放たれる怒号が壁から跳ね返って響く。
「ええと……この間、夜会で会ったナイジェル商会のマリー様に借りた、閨の作法の本にかいてあったんだけど……」
 おじさんは血管が切れそうなほど真っ赤になって、無言で私に暖炉の前に置いてあったひざ掛けを投げてよこした。完全に怒っている。
「あはは……だめだった?」
 おじさんは両手で顔を覆って震えている。怒っているようだ。

 その後、めちゃくちゃ説教された。
 おじさんの説教は長くてしつこい。
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