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始まりの章

19.身分証の登録。

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さっきの白ひげのおじいちゃんは薬師らしい。この世界に医者というものはおらず、薬師が診て薬を調合するみたい。
あとは、聖協会といって、祈りの力で癒しを与えるらしいが…そちらは、眉唾物のようだ。

だから、大抵の人は薬師を頼る。
ただ、聖協会こそ正しいという人もいる。聖女、などという言葉もあるらしい。厄介事になりそうだから、治癒の力は隠した方が良さそう…。



ディーさんに、身分証の登録を街でするかどこかのギルドにするかを聞かれた。

街でした場合は、スピワイの住人となり、市民権が得られる。市民権は店を出したり出来る事と定住権を得られる。その代わり自由な行き来は、基本的に出来なくなる。別の街などに行く時には申請する必要が出てくるとの事。
申請にお金はかからないが、期間が長くなったり行く場所が変わったりすると料金が発生するみたい。

ギルドにすると、市民権はないが自由に街などを行き来することが出来る。ただし、一定期間ごとにギルドに貢献する必要があるみたい。あとは、定住権がないため、3ヶ月以上滞在するとなると、依頼などの理由でない限りは一定額納めることになるそう。金額は街によって異なるとのこと。

ギルドには、生産ギルドや商業ギルド、錬金術ギルド、冒険者ギルドとある。

市民権にしろギルドにしろ、登録するためには金貨10枚かかるとのこと。日本円で言う10万くらい?

ただ、例外はあって私みたいに記憶がなかったりして、それを証明できる人がきちんといれば手続きを踏むことで無料で申請出来るという。


是非無料でお願いしたい。
上手く行けばいいが…

そして私はドキドキしながら、冒険者ギルドへ行くことにした。

魔物との戦いは、攻撃こそ出来ないが、バリアがあれば薬草採取などが出来る事は分かっている。それに私は世界を旅したい。だったら、やはり冒険者ギルドだろう。

ワクワクしながら冒険者ギルドの扉をくぐった。

入った時、ザワザワしていたと思ったら、一気にシーンとなった。
そして…

「お前ら、遅かったじゃねーか!大丈夫だったか?!」
大柄の熊が走ってきた。獣人と言うより、ほぼ熊。あとから聞いたら、半獣と言うらしい。

私なんて視界に入らない勢いだったので咄嗟にドムさんの後ろに隠れた。
そしてそれは正解だった。
その熊は、走った勢いでドムさんとディーさんの首に手を回して抱きつ……
ディーさんは、華麗に避けていた。

ドムさんは私のせいだろうか、避けれず抱きつかれていた。

なんか、ごめん。


そっと後ろから見ると、ふさふさと言うより、ボサボサだ。
それに、勢いありすぎ。

私はもふもふなら大好物だが、ボサボサは嫌だ。それに、あの勢いでぶつかられでもしたらこの華奢な身体だと骨折しそう。
もっと気をつけて欲しい。


で、このボサボサの落ち着きのない熊、この冒険者ギルドのギルド長だった。

普段はちゃんとしているらしいが、2人が予定の行程より随分遅く、とても心配していたらしい。

なんとこの2人、Sランク冒険者といってかなり高ランクだった。
そんな2人が帰ってこないとあっては、何があったのかとギルド内では騒然となっていたようだ。

そして、このボサボサ具合だが…
2人が帰ってこないのであれば、高ランクであるギルド長と他数名で偵察に行くしかないと考えてのことで、連携が取れるように訓練していたとの事。

ちょうど一段落つき、一旦シャワーを浴びるために戻ってきた所で2人の姿が見えたようだ。

で、今に至る。

「取り敢えず話が聞きたいから上に来てくれ」
そう言いながら、熊が…
ギルド長が階段を上がっていく。

私はどうしたものか、と思ったがディーさんに関係があるから一緒に、と促されて2人と3階に行き、ギルド長室という部屋に入った。

ソファに促されて座ると、少し待ってろと言われて3人で待っていた。
その間に綺麗なお姉さんが来て、紅茶とドーナツらしきものを出してくれた。

甘いお菓子!
3年ぶりでヨダレが出そうだ。食べていいのか分からず2人を見ると、苦笑しながら食べていいと言われる。ついでに2人の分までくれた。

勿論遠慮なく頂くことにした。
フォークで一口分に切り、口に運ぶ。
甘い、甘くて美味しい!
口の中が幸せに溢れている!!3年ぶりの甘いお菓子にちょっぴり涙まで出てしまった。

「美味いか?」

こくこくと頷きながら3つとも食べて満足していると、もうひとつ出てきた。
いつの間にか熊がいた。

恥ずかしかったが、有難く頂くことにした。だって美味しい!
美味しいは正義だ。

そうして至福の時間を味わっている間に大体の話は終わっていたらしい。
熊からドーナツを貰った時は、私の身分証明の話になっていたようだ。
私は全く気付かずそのままドーナツを味わっていた。
紅茶を飲み、ホッと一息つくと3人から、いや2人と1匹…いや、2人と1頭?


とにかく6つの目からじっと見られていた。頭にハテナを浮かべていると

「ディジーのギルド登録だが、無料で問題なさそうだが、いくつか質問があるみたいなんだ。」穏やかな顔をしてドムさんが言う。

「俺はこの冒険者ギルドのギルド長をしているジャックグリズリーべーアレという。君の冒険者ギルド登録に当たっては、記憶喪失と聞いたが…それについていくつか質問があるがいいか?」

よく見ると、この熊…ボサボサだったのに、ふさふさになってた。これなら触ったらもふもふかもしれない。

触りたい…
半獣だけあってほとんど見た目は熊だ。熊が二足歩行して、喋ること以外、熊。
一見怖そうに見えるが、2人を心配していた時に少し目元が光っていた事からも優しそう。
いや、きっと優しいはずだ。

だから、触っても怒られないはず。
こんなにふさふさなんだから、触らせてくれないなんて罪だ。
だから、大丈夫。
触っていいはず!

「???」
「どうした?ディジー?」

もふもふは、正義だー!!!もふもふへ抱きつくために立ち上がろうとして…

ガシャンっ

私は、手をテーブルにつくと同時に紅茶を零してしまい、手に紅茶がかかった。

ぁつっ!

「ディー、水を!」
ドムさんに手を取られ、サッとディーさんの魔法で冷やさたタオルをあてられ、ハッとした。

甘いお菓子でどこかトリップ気味だった所にもふもふがきて迷走していたようだ。危なっ。
危うく痴女扱いになる所だったかもしれない。

手は赤くなっていた。軽い火傷かな。
これくらいなら直ぐに治る。
ディーさんに感謝を述べ、冷えたタオルを受け取る。


「えっと、すみません。ジャッカル?…ジャッキー?、グリ…ベアー?熊…

………ギルド長さんから質問ということでしたよね?こちらこそよろしくお願いします。」

『…ジャックグリズリーベーアレだ。みんなにはジャックとかギルド長と呼ばれている。気軽に好きに読んでくれ。
いいなら進めるぞ。気になるようなら、2人には出てもらうがどうする?』

名前を覚えていないことがバレている。怒ってはいないようだ。

だって仕方ない。
名前覚えるのは苦手なのだ。それに、聞き慣れないし、長い。分かりにくい。
つまり、仕方ない。うん。

「すみません…。デイジーローズと言います。えっと、お2人にはいてもらった方が安心できます。」

主にもふもふに走らないためにも。。。

痴女ダメ、絶対!



そして、いくつかの質問を受けた後、問題ないとのことで無料でギルド登録出来ることになった。

的外れの回答をしたものもあったようだが、逆にそれが信憑性を高めたようだ。
記憶喪失ではないけど、この世界の事はよく知らないからね。それに、すんなり納得されたのは、どうも証明者がこの2人であることが関係していそうだ。

Sランクというのはきっと信頼されているのだろう。



この熊のギルド長もやっぱり優しい人みたい。故郷が分からないことや家族に会えないのは辛いだろつって少し涙ぐみながら、大丈夫だって、何かあれば頼れって。
なんか少ししんみりなったけど、家族に思いを馳せたら流石に泣いちゃいそうだったから、これからの冒険を想像した。

うん、もふもふ堪能のためにも、早く1人前に稼げるようになろう!!
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