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始まりの章

17.出発。

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ディーさんを先頭に、私、ドムさんの順で森を歩いていく。

歩くペースは私に合わせてくれ、こまめに休憩も入れてくれるという、紳士対応。

歴代彼氏より、優しいかも?笑


こんなに優しくしてもらったのにも関わらず、たぶん2時間くらい歩いた頃…


私の足は疲労から上がらないようになり、木の根や小石などに躓くようになってきた。

2人が心配してくれるが、迷惑かけられないと精一杯歩く。



あー、精霊さん達と過ごした3年、私は運動という運動をしていない。

つまり、筋肉が落ち、体力が落ちていた。。。

廃用症候群予防っていいながら、患者さんに指導していたのに…

がっくし。


ハァハァいいながら歩いていたら、いきなり身体が浮いたと思ったら、ドムさんの肩の上。咄嗟にドムさんの頭に手を回して自分の体を支える。


目を白黒させるとドムさんが口に人差し指をかざし、静かにって言ってくる。
えっ?って思いながらじっとする。


探知魔法を展開すると、少し先に何かの群れを発見。迷いの力【メイズ】を使おうと思ったが、息が切れて上手く集中出来ない。ヒヤリとする。

落ち着かなければ。
深呼吸していると、段々と近づいてくる音がする。

ドキドキと早鐘を打つ鼓動に、落ち着こうにも落ち着けない。ドムさんが大丈夫だ、と囁いてくる。

それからすぐ、何かに囲まれる。まだ姿は見せない。

ドムさんは背中にあった大きな剣を取り出し、構える。前にいたディーさんは、ドムさんのそばまで戻ってくる。
ディーさんは、弓が得意だと言っていたが、特に何も持っていない。どうするのか、と思ったその時。

ザザっと音がすると唸り声とともに狼たちが姿を現す。
ただ、直ぐには仕掛けてこない。威嚇している…?

と、正面の一部に隙間が出来る。そして、一際大きな狼…ふたつの頭を持つ狼が出てきた。

ファ、ファンタジー…

いやいや、それどころじゃない。その双頭の狼は、3メートルはあろうかという大きさだ。

「オルトロスか…」

ディーさんが呟く。
オルトロス?あの双頭の狼の事だろうか?どちらにしてもかなり強そうだ。
額にそれぞれ緑と赤の宝石?のようなものが着いている。

って、ぼーっと見てる場合じゃない。
涎を垂らしながら凶悪そうな顔でこちらを睨んでいる。思わず震えてしまう。

こんなの、勝てない。


ピリッとした緊張に包まれる。


そして………

数匹の普通の狼達が、襲いかかってきた。対して、ディーさんは何かを投げた?

キャインっ

いつの間にか半数以上が地面に倒れている。そして、そのまま双頭の狼オルトロスに走りながら攻撃を仕掛けている。
ドムさんは残りの狼達、数十匹を次々と剣で薙ぎ払い、斃していく。

斃しているのに、私は安定して捕まっていられる。

凄い…ドムさんは1歩も動いていなかった。
って、感動している場合じゃない。斃された狼もいるが、立ち上がるもの達もいる。それに、あの大きな狼がいる。

私は、完全にお荷物になっている。
攻撃魔法は……こんな時なのに出来そうにない。
だから、シールド、いやバリアを張ろう。

出来るか…

いや、それくらい張れなきゃ きっとこの世界ではやって行けない。

ドムさんに下ろして欲しいと言うが、ダメだと言う。言い合いをする時間なんてない。このままバリアを張る。

球状に、ドムさんと私、ディーさんの枠組みでバリアを張った。そこへ双頭の狼の1頭が叫びながら炎を口から放った。

ドムさんが私を庇うように肩から降ろして胸に抱き直し、跳躍する。
急に体の位置が降ろされてびっくりした。ぐっとドムさんの腕に力が入り少し息苦しい。

ドムさんの腕の中で現状が見えない。
手をずらして貰えるように少し腕を叩くが、全然ズレない。

苦しくなってきて強めに叩くと、すまん、と言いながら少し緩んだ。

そして、驚く。なんと、さっきまでは地面にいたのに木の枝に乗っていた。

そして、下ではディーさんが双頭の狼の片方の首を切り落としていた。
それでもまだ片方は動いており、他の狼たちもいる。早く手助けしないとっ。

何が出来るだろう。そう思ってハラハラしながら補助魔法を考えている間だった。



ディーさん、大胆にも双頭の狼を前にしてじっと止まった、かと思うと一気にディーさんの周りに水の矢が降り注ぐ。

いやっ

ディーさんが倒れている姿を想像をして、つい目を背けてしまう。
しかし、ドムさんがポンポンと肩を叩く。

「大丈夫、ディーは生きてる。」

そっと目を開け下を見るとディーさんは上を見ながらピースしていた。

ホッとして、腰から力が抜ける。
サッとドムさんに腰を支えられ、下に降りる。急に降りるから、ちょっとヒヤッとした。


安定してたけど。
一言 言って欲しかった。

そして私は、下の惨状に呆気なく倒れた…

-----------------------------


目を覚ますと、岩山の見える場所に寝かされていた。
一瞬何が起きたか分からなかった。

そうだ、狼達の死体をみて倒れたのだ。いや、言い訳をすると死体だけなら平気だった。うん。


かなり、えぐい状態だったのだ。
血生臭さとともに。
倒れた私は悪くない。きっと悪くない。


…どちらに担がれたのだろう…。
申し訳ない。

2人はすぐ近くで焚き火をしており、声をかけ謝った。しかし、配慮が足りなかったと逆に謝られた。
女子供に見せるものじゃない、と。

いや、申し訳ない。


そして、その後のことを聞いた。2人は魔石を取り、そこから少し離れたこの岩山を見つけて1泊することに決めたという。

そして、あの時起きたことがどういう事だったのかを聞いた。

ディーさんは、魔法も使えて、水の矢はディーさんが作ったものだったようだ。
それで一気に双頭の狼、オルトロスと残りの狼たちを斃した、と。

そして、私は逆にバリアについて聞かれた。

精度の高いバリアが張れると、驚かれた。通常であれば、盾のように一面にしか張れないそうだ。

だから、直ぐに私がバリアを発動した時も炎が横から入ってくるとドムさんは木の上に、ディーさんは、後ろに下がったそう。

でも、直ぐに違うとわかり、ディーさんは、守りから攻撃に転じた。それがあの水の矢ウォーターアローだったそう。

多少の火傷などは覚悟していたが、無傷で終わり、とても感謝された。


バリアは、シールドの最上級で、全方向に張れる。ディーさんの言うバリアというのは、精霊たちに習う時シールドとして習ったもののことだろう。シールドは、基本的に一面、1方向からの攻撃に対し有効なものだ。



ドムさんとディーさんは、本当にかすり傷ひとつなかった。とても強い。


あのオルトロスは、狼の進化した姿で額の宝石=魔石によって魔法が使えるようになっていると言う。魔石の色はその狼の特性や土地により異なり、それにより色が決まるそうだ。


オルトロスはC級の魔物ではあるが、魔法が使えるので魔法次第では、相性もあり厄介でもあるそう。
今回は、ディーさん側の属性に軍配が上がったようだ。
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