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縁談
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୨୧┈┈┈┈┈┈┈┈カノン視点┈┈┈┈┈┈┈┈┈୨୧
卒業パーティでの騒動から、私は謹慎を言い渡されていた。謹慎、と言えば厳かに聞こえるが実際は出鱈目な噂が飛び交うのを防ぐための自衛であった。
けれど、マリエルのおかげで婚約破棄にならなかったので、私に関する批判は次第に収まってきているらしい。外に出ていないから分からないけれど、なんとなく雰囲気からもわかる。
外に出られないのは辛いが、あれから毎日マリエルが訪ねてきてくれるので退屈することはない。
「お嬢様、お客様がお見えです」
「通して」
今日はいつもより少し早いみたいだ。今回はどんな話をしてくれるのか…とわくわくしながら振り返ると、そこにはマリエルではなく知らない令息がいた。
はて。
私の困惑を気にもせず、目の前の令息は綺麗な緑色の髪をなびかせながら、はにかんだ。
「久しぶりだな、カノン」
「えーっと……?」
頭をフル回転させて考えても、名前はおろか家門すらわからない。見たところ同年代にも見えるが、学園にはいなかったと思う。
そんな私の様子を見た令息は眉をパッと上げ、
「あれ、俺の事忘れたのか?」
「も、申し訳ございません……名前をお伺いしてもよろしいですか?」
「はは、いいよ。ウィリー侯爵家の長男、ニコラスだ。カノンの婚約が決まってからは会ってないし、久しぶりだな」
「ニコラス、ニコラス…………まさか、ラス兄!?」
「やっと思い出したか」
なぜ忘れていたんだろう、ラス兄と呼んで回っていた幼少期の自分の姿が思い起こされた。
「ごめんなさい、全然わからなくて……その、随分変わってたから」
オブラートに包んで言えば、記憶の中のラス兄はもっとこう……ふくよかな感じだった。ずんと身体が大きくて強い印象を持っていたのだ。
「ああ、家門を継ぐために勉強漬けになってたらいつの間にか痩せてたんだ。昔程食欲もなくなったしな」
ニカッと笑う彼の顔は、確かにラス兄と一緒だ。
「それにしても、もうラス兄はやめてくれよ。一応同い年なんだからな」
「同い年!?」
「あの頃はでかい図体のせいで、年上の奴からもラス兄って呼ばれてたが…今なら年相応に見えるだろう?」
「ええ、そうね…」
てっきり五つは年上だと思っていただけに、なんとなく罪悪感をおぼえて目をそらす。
「これからはニコラスと呼んでくれ。その…今後のこともあるし」
「今後?」
よくわからない言葉に首を傾げると、ラス兄…いや、ニコラスは、聞いてないのか、と意外そうに目を開いた。
「俺らの婚約の話だよ」
「婚約!?」
再開してから驚いてばかりだ。
今の私は王家と円満にお別れできたとはいえ、婚約なんてもう当分する気はなかったのだ。そもそもそんな話すら聞いていない。
ニコラスは続ける。
「カノンがいろいろあって大変だったのは聞いてるよ。なんとか幸せにしてやりたい、ってうちの方まで縁談の話が来たんだ。俺もそろそろ身を固めるべきだって思っていたし、両家の仲は良好。断る理由はないだろっていうことになって、今に至る」
というわけだ、と言われても…急すぎて頭が追いつかない。ふうっとため息をついた。
「それ、私に拒否権はないのかしら」
「もちろんあるだろうよ。そのための顔合わせなんだろ。顔合わせという名の、感動の再会」
「ふふ、なにそれ」
「返事を急かすつもりはないけど、前向きに検討してくれると助かる。俺だって、結婚するなら誰でも良いってわけじゃないってこと忘れるなよ」
「え?」
「そ、それじゃあな」
ニコラスはそれだけ言うと、少しだけ耳を赤らめてそそくさと帰って行った。
ぽつんと部屋に取り残され、少し考えてみる。
「確かに断る理由はないのよね。それに、さっきの言動……もしかして私の事を?」
ふと、アキレウス様の顔が浮かんだ。
ひどい仕打ちを受けたとはいえ、何年も愛したお方。やっぱり、まだ……。
卒業パーティでの騒動から、私は謹慎を言い渡されていた。謹慎、と言えば厳かに聞こえるが実際は出鱈目な噂が飛び交うのを防ぐための自衛であった。
けれど、マリエルのおかげで婚約破棄にならなかったので、私に関する批判は次第に収まってきているらしい。外に出ていないから分からないけれど、なんとなく雰囲気からもわかる。
外に出られないのは辛いが、あれから毎日マリエルが訪ねてきてくれるので退屈することはない。
「お嬢様、お客様がお見えです」
「通して」
今日はいつもより少し早いみたいだ。今回はどんな話をしてくれるのか…とわくわくしながら振り返ると、そこにはマリエルではなく知らない令息がいた。
はて。
私の困惑を気にもせず、目の前の令息は綺麗な緑色の髪をなびかせながら、はにかんだ。
「久しぶりだな、カノン」
「えーっと……?」
頭をフル回転させて考えても、名前はおろか家門すらわからない。見たところ同年代にも見えるが、学園にはいなかったと思う。
そんな私の様子を見た令息は眉をパッと上げ、
「あれ、俺の事忘れたのか?」
「も、申し訳ございません……名前をお伺いしてもよろしいですか?」
「はは、いいよ。ウィリー侯爵家の長男、ニコラスだ。カノンの婚約が決まってからは会ってないし、久しぶりだな」
「ニコラス、ニコラス…………まさか、ラス兄!?」
「やっと思い出したか」
なぜ忘れていたんだろう、ラス兄と呼んで回っていた幼少期の自分の姿が思い起こされた。
「ごめんなさい、全然わからなくて……その、随分変わってたから」
オブラートに包んで言えば、記憶の中のラス兄はもっとこう……ふくよかな感じだった。ずんと身体が大きくて強い印象を持っていたのだ。
「ああ、家門を継ぐために勉強漬けになってたらいつの間にか痩せてたんだ。昔程食欲もなくなったしな」
ニカッと笑う彼の顔は、確かにラス兄と一緒だ。
「それにしても、もうラス兄はやめてくれよ。一応同い年なんだからな」
「同い年!?」
「あの頃はでかい図体のせいで、年上の奴からもラス兄って呼ばれてたが…今なら年相応に見えるだろう?」
「ええ、そうね…」
てっきり五つは年上だと思っていただけに、なんとなく罪悪感をおぼえて目をそらす。
「これからはニコラスと呼んでくれ。その…今後のこともあるし」
「今後?」
よくわからない言葉に首を傾げると、ラス兄…いや、ニコラスは、聞いてないのか、と意外そうに目を開いた。
「俺らの婚約の話だよ」
「婚約!?」
再開してから驚いてばかりだ。
今の私は王家と円満にお別れできたとはいえ、婚約なんてもう当分する気はなかったのだ。そもそもそんな話すら聞いていない。
ニコラスは続ける。
「カノンがいろいろあって大変だったのは聞いてるよ。なんとか幸せにしてやりたい、ってうちの方まで縁談の話が来たんだ。俺もそろそろ身を固めるべきだって思っていたし、両家の仲は良好。断る理由はないだろっていうことになって、今に至る」
というわけだ、と言われても…急すぎて頭が追いつかない。ふうっとため息をついた。
「それ、私に拒否権はないのかしら」
「もちろんあるだろうよ。そのための顔合わせなんだろ。顔合わせという名の、感動の再会」
「ふふ、なにそれ」
「返事を急かすつもりはないけど、前向きに検討してくれると助かる。俺だって、結婚するなら誰でも良いってわけじゃないってこと忘れるなよ」
「え?」
「そ、それじゃあな」
ニコラスはそれだけ言うと、少しだけ耳を赤らめてそそくさと帰って行った。
ぽつんと部屋に取り残され、少し考えてみる。
「確かに断る理由はないのよね。それに、さっきの言動……もしかして私の事を?」
ふと、アキレウス様の顔が浮かんだ。
ひどい仕打ちを受けたとはいえ、何年も愛したお方。やっぱり、まだ……。
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