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甘受

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「ユーナ・ラッセル男爵令嬢」
 
「ヒッ……」

 極めて静かに、そして穏やかに名を読み上げただけでユーナは大袈裟に頭を振り、泣き出した。

 いや…なんで?

「お前、またユーナを泣かせたな!!」

「いいのですアキ様、私が悪いのです…」

「そんなことはない、ユーナ。全てあの女のせいなんだから」

「いいえ…私が、アキ様を好きになってしまったばっかりに……」

「可哀想なユーナ。もう大丈夫だからね」

 ユーナユーナと、それしか言っていない。カノン、と優しく呼びかけてくださったのは、遠い昔の思い出ですらなく、恋する乙女の妄想だったのでしょうか。

 また、絶望感が襲ってくる。いつの間にか会場にいる生徒たちにも睨まれていることにも気づいてしまい、消えたくなった。

「アキ様、アキ様ぁ」

 だらしなく崩れ落ち、顔を覆い隠す。その手の指の隙間から彼女の目がこちらを捉えた。思わずビクッと身体を震わせ彼女の表情を見ると、


 たいそう気味の悪い笑顔だった。


 ゾクッと悪寒が走り、両手で自分の体を抱きしめた。

「カノンの話は終わっていません」

 マリエルがそっと私の背に手を添えてくれた。とても暖かくて、優しい。背中からじわじわと熱を取り戻す。また助けられたと思った。

「マリエル・ウォルター!お前には関係ないと何度言えば…」

「あら、ようやく私の名前を覚えてくださったのですね。私、感激しております」

「っ…いい加減に…」

「カノン」

 アキレウス様の言葉を遮り、優しく促された。少々揶揄いすぎな気もするけど……。大丈夫よ、と頷いて、もう一度。

「ユーナ様」

 今度は泣き喚くこともなく、ユーナはどこか勝ち誇ったような笑みを私に向けている。別に、何も感じなかった。

「……どうか、アキレウス様とお幸せに」

「カノンさん……」

「そして、アキレウス様」

「何だ」

 ユーナに暴言も何も吐かなかった私に拍子抜けしたようだったが、アキレウス様はそれでも尚疑惑の目で睨む。

 これには、少し胸が痛むけれど。

「あなたの申し出…………いえ、宣言を、甘んじて受け入れましょう。私は………」

 今までの思い出が駆け巡る。これで最後と思うとなんと言えばいいかわからない。
 別に、彼を憎んでいるわけではない。だから恨み言を言うつもりも泣きつくつもりもないのだ。けれど、私への気持ちがないと分かってしまうと、もう一緒にいたいとも思えない。

 私はただ、あなたの幸せをー


「………………お慕いして、おりました……」



 涙と共に深く頭を下げる。と同時に、あれほど騒がしかった会場のざわめきがプツリと消えた。


 それに呼応するように、私の意識は今度こそ途切れてしまった――――
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