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カノンの絶望

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「お前、口答えする気か!」

「…口答え、ですか?」

「事実を捻じ曲げて僕に反論するなど、百年早いと言っているんだ!!」

「嘘ではありません。ユーナさんとこうして対面したのはこれが最初のはずです」

「何をふざけたことを…」

「事実を述べたまでです」

 きっぱりそう言うとアキレウス様はたじろいだ。普段主張を控えているせいか、私が少しでも反論すると驚いてしまうのだ。私のことなど、都合のよい仮面女としか思っていないのだろう。

 ああ、なんて情けない。

「…私は、貴方様の幸せを願っておりました。愛するアキレウス様の交友関係に口を出すことなど、今まであったでしょうか?ましてお相手の女性を邪険にするなど…」

「うるさい!!!」

「な…っ」

「お前の口から愛などという言葉は聞きたくない。陰でユーナの私物を隠したり暴力を振るっていたことは知っているのだぞ!」

「……アキレウス様は、私がそのような愚かな真似をするような人であると……そうおっしゃるのですか?」

「無論、それが事実だからだ。辛かったろう、ユーナ」

 優しく撫でられ慰められ、ユーナは肩を上下させて震えている。

「先程、婚約破棄の理由と言ったな?簡単だ。醜い嫉妬心だけで僕の愛するユーナを迫害し自分は遊び呆けているお前は、王妃にふさわしくないからだ!」

「……………。」

 嫉妬などしておりませんわ。ユーナを虐めてもいません。王太妃教育で忙しくそんな愚かな真似をする時間も、遊び呆ける時間もありませんでしたの。

 毅然と、そう言えればいいのに。口はふるふると痙攣するだけで何も喋ってくれない。

 黙り込んだ私を嘲笑うように、アキレウス様は追い打ちをかける。

「なあ、お前たちもそう思うだろう!?」

 彼の声が全体に響きわたる。

 めちゃくちゃだ。賛同する人はいないだろう。だって、私が彼女を虐めるところも遊び呆けているところも、見ている人はいない。事実ではないのだから。でも……。

「確かに、ユーナ嬢は同情すべきだ」
「まさかカノン様がそんなことするなんて……」
「失望しましたわ」
「ユーナ様が可哀想だ」
「カーチェスト家も終わりだな」
「ユーナ嬢こそ王妃にふさわしい逸材だろう」

 そんな声が会場を包み込む。聞きたくないのに、全て聞き取れてしまう。支離滅裂なはずの彼の言葉を、こんなにもたくさんの方が信じて、擁護している。なんということでしょう。

 私が、間違っていたのですか?

 ぐらりと視界が揺れ、美しく輝くシャンデリアが段々暗く、ぼやけていく。

 愛するアキレウス様が、今まで見たこともないような慈悲深い笑顔をユーナに向けている。

 ああ、私が、間違えていたのですね。


 遠のく意識が完全に途切れそうになったところ、私は暖かい腕と耳慣れた可憐な声で正気を取り戻した。


「アキレウス・ロルナンド第2王子、貴殿はふざけていらっしゃるのでしょうか!!」
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