上 下
62 / 72

62

しおりを挟む
 入学してから一か月が経った。
 寮と学園を往復する生活にも慣れてきた。週に一度の休日には洗濯屋に行きそのあとは街を散策するという生活を送っている。屋敷のみんなにあてた手紙も何回か出した。
 昼休みにはミコトと一緒にお弁当を食べているし行動も一緒にしている。もう立派な友達だ。ミコトとは友達になれたと思っているけどミコトとレオンの仲はどうすることもできていない。
 昼休みに観察があまりできていないけどその代わり放課後図書館でいい場所を見つけた。
その場所からの観察が楽しい。勉強しているというカモフラージュもできるしね。
 手を繋いでいたりとか明らかに付き合っていますというような人を見るのも楽しいけど、ちょっと距離が近い2人とか見かけてどんな関係か妄想するのも凄く楽しい。

 「今日は洗濯屋に行ってそのあと街に買い物に行こうっと」

 洗濯物のカゴを持っていつもの洗濯屋まで行く。

 「そんなに沢山の洗濯物運ばないでも俺らが可愛がってあげるよ」
 「これでなんとかなってるので遠慮します」
 「はぁあぁ、可愛くもないし平民のくせに俺らに逆らってるんじゃねーよ。気持ち良いことしてお金も貰えるんだから来いよ」
 「やめて下さい」

 洗濯屋に行くと1人の生徒が2人に絡まれていた。
 朝早くていつもは行列ができているのにその場所にいたのはその3人だけだった。
 絡まれている生徒はなんとアイルだった。
 アイルが可愛くないだと、アイルは眼鏡かけてて地味だけど眼鏡外すと誰よりも可愛いんだぞ。分かってないな。
 いや分かられても困るけど、僕の可愛い子が貶されるのは親として許せない。

 「その子嫌がってますよ」

 ミコトからお世話の意味を聞いているし嫌がっている我が子アイルを放っておけない。

 「君も新入生?可愛い顔してるね。お小遣いあげるから一緒に気持ち良いことしよっか」

 2人のうち1人が僕に近付いてきて手を掴もうとする。

 「痛っ、何するんだ、離せ。先輩に逆らうのか」

 僕を掴もうとしたその手を逆に掴んでひねる。習っていた体術が役にたった。
 
 「先輩だからって嫌がっている子に何してもいいんですか」

 僕は我が子の為に頑張るよ。

 「アバーテ様」
 「新入生でアバーテって。おいやめろその子今年の首席でしかも侯爵家の子だ」

 アイルの呟きを聞いたもう1人が僕が掴んでいた相手に言う。それを聞いて慌てて僕の手を振り払い舌打ちしながら去って行った。

 「大丈夫?」

 2人が去った後僕はアイルに近寄り沢山持っていた洗濯カゴを少し持ちながら声をかける。

 「ありがとうございます。あの人たちしつこくて」

 僕が持っていたカゴを取り返しながら答える。

 「クラス違うのに僕の名前知ってるんだね」
 「アバーテ様は有名ですから」

 会話をしながらも沢山のカゴを持って受付へと歩いていく。

 「そんなに沢山大変でしょ。手伝うよ」
 「いいですよ。僕の仕事ですから」
 「行き先は一緒なんだから少しくらい持つよ」

 僕は遠慮しているアイルから奪い取るようにいくつかのカゴを受け取った。
 僕が譲らないことを理解したのかもうそれ以上何も言わず僕の好きなようにさせてくれた。

 「アバーテ様は僕と同じくらい小柄なのに強いんですね」

 洗濯物を預けて流れで2人で歩いていた時アイルはポツリとそう呟いた。

 「ユーマって名前で呼んでよ。家にいるときに訓練してたからね。アイルも強くなりたいの?」
 「ユーマ様僕の名前知ってるんですか?」
 「ぼ、僕のお世話してくれる人探してるときにちょっとね。あっ、でも、さっきの人達みたいな変な意味は全くないからね。ごめんね、あんなことがあったばかりなのに」

 アイルは初対面のはずの僕が自分の名前を知っている事を不思議に思っている。本当のことは言えないからとっさにこの間考えていたことが口から出てきてしまっていた。

 「ユーマ様は僕を助けてくれたし、有名だから色んな噂聞いてるからそんな人じゃないの知ってますし、なんでも自分でできるっていうのも知ってるんですよ。だから僕のお世話なんていらないでしょ」

 僕の焦った返答にアイルは少し笑っている。

 「そんなことないよ。このあと買い物を沢山しようと思ってるから荷物持つの手伝ってくれると嬉しいし、そのあとケーキ食べに行きたいんだけど1人だと寂しいから一緒に来て欲しいな。駄目?」
 「駄目じゃないですよ。ユーマ様がそこまで言うなら付き合います」
 「よろしくね」

 この学園に入学できるくらい頭のいい子だから僕が引かないことに気付いたんだろう僕のお世話を引き受けてくれた。
 それから2人で買い物に行きケーキを食べた。
 そして洗濯物を受け取りに洗濯屋へ戻って来た。

 「これからは僕のお世話だけして他のお世話は断ってね。僕の名前出していいから」
 「分かりました。今日は僕の服まで買っていただきありがとうございました。ところでユーマ様なんであんなに沢山の下着買ったんですか?」

 洗濯が終わった沢山のカゴを持ったアイルが聞いてくる。これからアイルはこれを持ち主の所に渡しに行くけどそこでこれからは僕専属になったと言って次を断るようにお願いした。

 「毎回洗濯屋でどこかに紛れ込むのか僕の下着が2,3枚返って来ないんだよね。あっ、今日も2枚無いや」
 「えっ!そうなんですか。沢山の洗濯物扱ってるからどこかに紛れ込むんですかね。けど毎回無いのは不思議ですね」

 僕がカゴの中身を確認しながらそう言うとアイルも不思議な顔をしていた。
 洗濯屋でアイルと別れて僕は寮に戻った。
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

塾の先生を舐めてはいけません(性的な意味で)

ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
個別指導塾で講師のアルバイトを始めたが、妙にスキンシップ多めで懐いてくる生徒がいた。 そしてやがてその生徒の行為はエスカレートし、ついに一線を超えてくる――。

学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語

紅林
BL
『桜田門学院高等学校』 日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である

【BL】国民的アイドルグループ内でBLなんて勘弁してください。

白猫
BL
国民的アイドルグループ【kasis】のメンバーである、片桐悠真(18)は悩んでいた。 最近どうも自分がおかしい。まさに悪い夢のようだ。ノーマルだったはずのこの自分が。 (同じグループにいる王子様系アイドルに恋をしてしまったかもしれないなんて……!) (勘違いだよな? そうに決まってる!) 気のせいであることを確認しようとすればするほどドツボにハマっていき……。

異世界転生してハーレム作れる能力を手に入れたのに男しかいない世界だった

藤いろ
BL
好きなキャラが男の娘でショック死した主人公。転生の時に貰った能力は皆が自分を愛し何でも言う事を喜んで聞く「ハーレム」。しかし転生した異世界は男しかいない世界だった。 毎週水曜に更新予定です。 宜しければご感想など頂けたら参考にも励みにもなりますのでよろしくお願いいたします。

主人公の兄になったなんて知らない

さつき
BL
レインは知らない弟があるゲームの主人公だったという事を レインは知らないゲームでは自分が登場しなかった事を レインは知らない自分が神に愛されている事を 表紙イラストは マサキさんの「キミの世界メーカー」で作成してお借りしています⬇ https://picrew.me/image_maker/54346

強制悪役令息と4人の聖騎士ー乙女ハーレムエンドー

チョコミント
BL
落ちこぼれ魔法使いと4人の聖騎士とのハーレム物語が始まる。 生まれてから病院から出た事がない少年は生涯を終えた。 生まれ変わったら人並みの幸せを夢見て… そして生前友人にもらってやっていた乙女ゲームの悪役双子の兄に転生していた。 死亡フラグはハーレムエンドだけだし悪い事をしなきゃ大丈夫だと思っていた。 まさか無意識に悪事を誘発してしまう強制悪役の呪いにかかっているなんて… それになんでヒロインの個性である共魔術が使えるんですか? 魔力階級が全てを決める魔法の世界で4人の攻略キャラクターである最上級魔法使いの聖戦士達にポンコツ魔法使いが愛されています。 「俺なんてほっといてヒロインに構ってあげてください」 執着溺愛騎士達からは逃げられない。 性描写ページには※があります。

ダメな方の異世界召喚された俺は、それでも風呂と伴侶を愛してる

おりく
BL
ちょっと早めのハロウィンとは名ばかりのコスプレ呑み会の会場に入ろうとしてドアを開けたら異世界転移してしまった紫苑 魔法があり魔獣もいる世界で生きるためにハンターになることにしたが、特大の問題があった 転移した国は慢性的な水不足で風呂文化が存在しなかったのだ クリーンの魔法では汚れは落ちるが風情が無い! 風呂文化がない事が我慢できない紫苑はチートな魔力で風呂を普及するべく行動に出る 風呂が好きなのに、日本では銭湯・スーパー銭湯・レジャープールに入れなかった鬱憤は異世界で晴らす! もう我慢はしないと決めた男がチート級の魔力にモノを言わせて花嫁たちを溺愛つつ異世界で好き勝手する話 6章から不定期更新になります 嫁を愛でたい男の日常の話です 糖度が高いです お風呂まで長いです R18までも長いです(3章に少し、4章から) 素人がスマホでポチポチ書いています キリの良いところまで複数話更新することがあります 選択肢が増えると良いな、と思い総攻めを投稿してみました 何でも許せる方、お付き合いください

一人の騎士に群がる飢えた(性的)エルフ達

ミクリ21
BL
エルフ達が一人の騎士に群がってえちえちする話。

処理中です...